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いまいち普及しないEVのゲームチェンジャー「全個体電池」いつ出る? どこが優れていて何が問題??

 現在、ほとんどの電動車は、車載電池としてリチウムイオン電池を採用しています。その理由は、実用化されている車載電池の中で、もっともエネルギー密度が高いから。ただし、コストが高い、航続距離が短い、充電時間が長いなどの課題があり、バッテリーEV普及の障壁となっています。そこで期待されているのが、「全固体電池」です。

 全固体電池とは、その名の通り、すべてが固体で構成された電池のこと。リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を持つことから、世界中のメーカーが実用化に向けて開発を進めていますが、実用化にはまだ時間がかかりそうです。

 今後のバッテリーEV普及のカギを握る全固体電の仕組みやリチウムイオン電池に対する優位性、実用化に向けての課題についてご紹介します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:HONDA、NISSAN、TOYOTA、SUBARU、MAZDA、Mercedes-BENZ、BMW、Audi、TESLA、VOLVO、STELLANTIS、Porsche、JAGUAR、HYUNDAI、ベストカー編集部
イラスト:著者作成

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電解液の代わりに固体電解質で構成される

 リチウムイオン電池は、正極と負極、セパレータ、電解液で構成されています。電極の化学反応で発生するリチウムイオンが、電解液の中を移動して電極間を往来することによって、電子(電気)の流れが生まれて充電、放電ができるのです。

 一方の全固体電池は、その名の通り、液体である電解液ではなく、固体である固体電解質にて構成されます。充放電の基本的なメカニズムは、上記のリチウムイオン電池と同じで、イオンが固体電解質の中を往来することによって、充電と放電を繰り返す仕組みです。

リチウムイオン電池と全固体電池の充放電作動原理。リチウムイオン電池は、リチウムイオンが電解液の中を移動して充放電を繰り返すが、全固定電池は電解液の代わりに電解質を使用(イラスト:著者作成)

航続距離の大幅な延長が可能に

 全固体電池のアイデアは古くからありましたが、イオンを移動させて電極に十分な電流を流せる固体材料が、なかなか見つかりませんでした。しかし近年、固体でありながらイオンが動き回って十分な電気を通す固体材料が発見され、一躍次世代電池として注目されるようになったのです。全固体電池の性能が優れる主な理由は、次の3つです。

・高密度で高電位の材料が使える
 電解質が固体になることで、電極材が溶け出しにくく、電解液では使えなかったエネルギー密度の高い正極材料や負極材料が使用可能に

・電池パックが簡素化できる
 電解液漏れの心配がないため、安全対策のための頑丈なパッケージングが必要なく、電池パックが軽量コンパクトに

・セル設計の自由度が高い
 全体を薄くして多層化するなど、セル自体の設計自由度が高いため、搭載条件に合わせたセル設計が可能

 実用化に成功すれば、理論上はリチウムイオン電池の約2倍のエネルギー密度が実現され、またイオンの移動速度が速いので充電時間も大幅に短縮できます。エネルギー密度が2倍になれば、バッテリーEVの航続距離も2倍に延びることになり、通常のガソリン車と遜色ない航続距離が実現することになります。

電池性能の向上以外にもメリットは多い

 全固体電池は、リチウムイオン電池と比べて、電池性能の向上以外にも次のような優位性があります。

・安全性が高い
 リチウムイオン電池が登場した2010年頃には、発火の問題がクローズアップされました。しかし全固体電池は無機系の固体電解質を使用するため安定性が高く、発火のリスクは大きく低下します

・作動温度が広い
 リチウムイオン電池は、低温と高温が苦手で、性能が低下します。低温では電解液の流動性悪化によってリチウムイオンの移動抵抗が大きくなり、高温ではセパレータが溶融するからです。全固体電池では、それらの問題が軽減するので、有効な作動温度が広くなります

・劣化が抑制される
 リチウムイオン電池は、電極と電解液の反応や内部抵抗の上昇によって劣化が進みますが、電解液のない全固体電池では、それらの影響を受けづらいため、劣化が抑えられます

実用化されても、当面、採用は限定的に

 以上のように、大きなメリットを持つ将来有望な全固体電池ですが、ほんとに期待通り実用化されるのか、それはいつ頃になるのか。主要メーカーが公開している固体電池の実用化計画は、次の通りです。

・トヨタ
 全固体電池の開発に早くから取り組み、2020年代後半の実用化を公にしています。バッテリーEVではなく、最初はハイブリッドで採用するという内容から、電池の大型化と劣化抑制が課題であることが、うかがわれます

・日産
 2022年4月に全固体電池の試作設備を公開している日産。長期ビジョンで2028年までに全固体電池の大量生産を目指すとしています

・ホンダ
 2030年頃にラミネート型全個体電池を実用化する計画のホンダ。全固体電池搭載バッテリーEVの価格と航続距離を、ハイブリッドと同等にすることを目指すとしています

・メルセデス・ベンツ
 2026年頃までに、Aクラス、Bクラスといった小さなシリーズの限られた台数に採用することを表明しています

・ステランティス
 2026年までに最初の全固体電池を導入すると発表していますが、大量生産ではなさそうです

・ニーオ(NIO、中国バッテリーEVメーカー)
 「中国のテスラ」と呼ばれるニーオは、今年の後半に航続距離1,000kmを超える全固体電池搭載のFT7次期車を市場投入する計画です。実現すれば、世界で最も早い全固体電池搭載のバッテリーEVということになります

 以上のメーカーの動向を見る限り、多くのメーカーが実用化を目指しているのは、2020年代後半。しかし、全面展開できるレベルになく、限定的な採用からスタートすることが予想されます。

全個体電池が厳しい中、リチウム電池の進化も進む

 全固体電池の実用化に向けた課題は、コストです。特に、材料生産と量産技術に関わるコストの低減が最大の課題だと考えられます。「将来は明るいが、現実は厳しい」というところでしょうか。一方で、現行のリチウムイオン電池も日々進化しています。2030年頃には、進化版のリチウム電池と次世代の全固体電池が競合しながら、二極化が進むと予想されます。

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