2022年3月7日、欧州日産は、新型キャシュカイにe-POWERグレードを追加し、晩夏(9月頃)に発売開始することを発表した。
ご存じのとおり、欧州キャッシュカイはエクストレイルの兄弟車。日本ではまだ新型の発表がないエクストレイルだが、すでに北米(北米名はローグ)や中国では新型が発売開始となっている。しかしまだ「エクストレイルe-POWER」はどこにも登場しておらず、今回兄弟車であるキャッシュカイで発売時期が明確になったことは、大きな進歩だ。
国内登場もいよいよ見えてきた新型エクストレイル。ライバルとなるRAV4やハリアーに対し、どの程度のアドバンテージをもって登場するのか、欧州キャッシュカイe-POWERや北米ローグの情報をもとに、性能予測をしてみよう。
文/吉川賢一、写真/NISSAN、TOYOTA
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欧州では初となるe-POWER搭載車
2017年に登場した「ノートe-POWER」で、国内初登場となったe-POWERシステム。この登場翌年となる2018年、当時の王者プリウスを抜き、ノートが国内登録車販売台数ナンバー1を獲得するなど、日本ではすっかりおなじみとなったシステムだが、欧州日産としては、このキャシュカイe-POWERが、e-POWER搭載のトップバッターとなる。
日産によると、欧州のユーザーは、運転時間の70%以上を都市部や郊外で費やしているという。また、多くのユーザーが、クルマの選択において、環境を気にするあまり、旧来のドライビングプレジャー(アクセルペダルを性愛に踏み込み爽快な加速をするような遊び)は、妥協すべきと感じてきた、とのこと。日産は、「e-POWERは、ドライビングプレジャーを犠牲にすることなく、都市部のほとんどをEV走行でカバーすることができる」としており、「現時点の答えのひとつ」として、キャッシュカイe-POWERを売り出しているようだ。
e-POWERターボに「リニアチューン」を追加したと発表
キャッシュカイe-POWERの発電用のエンジンは、日産自慢の可変圧縮比内燃エンジンであるVCターボ。排気量1.5Lの3気筒ターボチャージャー付ガソリンエンジンは、156hpを発生する。2020年12月に登場した現行「ノート」から採用となった第2世代e-POWERで動力性能を引き上げられたことで、欧州のユーザーでも満足できるレベルへと進化した。
さらに今回のキャッシュカイe-POWERでは、英国とスペインの日産テクニカルセンターヨーロッパ(NTCE)のエンジニアによって、加速力とサウンドを同期させて、違和感をなくす「リニアチューン」と呼ばれるシステムも開発したという。
e-POWERのようなシリーズ式ハイブリッドの場合、エンジン音の上昇が伴わず加速感がない感覚、ラバーバンドフィールに似たフィーリングに陥りやすい。高速道路への合流や、追い越し車線で一気に加速することが多い欧州ユーザーにとっては、フィーリングの面も重要だということだろう。
また、バッテリーEVであるリーフと同様のワンペダルストップ機構も備わる。ブレーキオフでは0.2G制動を発生し、完全停止までは行わず、クリープ程度にまで減速するようセッティングされている。ハイブリッド車やバッテリーEVにおいて気になる回生ブレーキの強度調節だが、どこまで違和感がなくつくり込まれているかは、気になるところ。また、減速度コントロールが数段階でできるパドルシフトのようなものが備わっているかも注目ポイント(キックスe-POWERやノートe-POWERにはパドルシフトがない)だ。
このキャシュカイe-POWERに搭載となるe-POWERターボが、新型エクストレイルe-POWERターボとまるっきり同じになるかはわからないが、同じプラットフォームという側面を考えれば、ほぼ同じと考えられ、欧州ユーザーも満足する動力性能と、リニアチューンといったところが、新型エクストレイルe-POWERで期待できるトピックであろう。
勝てる見込みがあるのは、コスパ、インテリアの質、走りの質の3点
販売台数をもって勝ち負けを考えるならば、新型エクストレイルは、RAV4とハリアーには到底及ばないだろう。なぜならば、新型エクストレイルでは、台数拡販を狙うための廉価なガソリンモデルを、日本市場では用意してこない、と思われるからだ。
現在の日産は、キックス、ノート、ノートオーラ、オーラNISMOと、売れ筋であるはずのBセグメントで、ピュアガソリングレードをつくらないというチャレンジを行っている。販売会社の声に押されて、やむなく追加されるものだと考えていたが、現時点は一切設定されていない。
この状況で、新型エクストレイルに、欧州や中国で販売されているVCターボエンジンを積んだピュアガソリン仕様を用意するはずがなく、どんなに新型エクストレイルe-POWERが大ヒットしようとも、販売台数でRAV4やハリアーに勝つことは難しい。
パフォーマンスの面においても、e-POWERターボによる加速フィーリングが、RAV4やハリアーのハイブリッドに対して、特段優れるといった見込みはなく(RAV4ハイブリッドの最大トルクは2.5Lエンジン分が221Nm、フロントモーター分202Nmと、トータル400Nm超えとなる)、RAV4にはプラグインハイブリッドまでも用意されている(RAV4PHVの加速力は国産SUVのなかで驚異的なレベルにある)。
後輪側へ強力な電気モーターが追加されればまた変わってくるだろうが、それもRAV4もやっているし、プラグインハイブリッドについては、新型エクストレイルも、姉妹車であるアウトランダーPHEVのユニット(2.5L直4ガソリンとプラグインハイブリッドユニット)を使うことはできるが、三菱との国内市場での両立を考えると併売する可能性は低く、新型エクストレイルはパフォーマンスにおいても、RAV4やハリアーに敵わない。
ただ、新型エクストレイルにも、RAV4やハリアーに勝てる見込みがあるポイントはある。それは、コストパフォーマンスの高さ、インテリアの質感造りの良さ、そして動的な質感だ。
ピュアガソリンモデルを用意しないとなると、新型での価格上昇は避けられないところではあるが、「お得感」を演出するため、e-POWER最安グレードで300万円をやや切る「魅せ玉」が用意されるのでは、と筆者はみており、そうなると、RAV4が337万円から、ハリアーが358万円からとなるハイブリッドモデルでは、新型エクストレイルのコスパが光ることになる。
インテリアの質感も、コストをかけずして小さな高級車として成功しているノートオーラからのフィードバックは多分にあるだろう。欧米や中国仕向けの新型エクストレイルを写真で見るかぎりだと、相当力が入っているものとみて取れる。
動的質感については、乗ってみないと分からないところではあるが、日産は、国産メーカーの中でも、サウンドコーディネートにもっとも成功しており、新型エクストレイルでも大いに期待できるポイントだ。
昨今のSUVは、ロードノイズがどれも静かで大差がないが、「音の演出」についてはメーカーによって全く違う。新型ノートで加速したときの浮遊感や独特な効果音などの調和が非常に未来感を出しており、その点は、日産にアドバンテージがあると感じている。小さなスイッチの操作音ひとつひとつにまで注意を払い、入念につくり込まれているのならば、顧客の心を掴むことは不可能ではない。新型エクストレイルに乗れる日を楽しみにしている。
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投稿 欧州で正式発表! いよいよ登場e-POWERターボでわかった新型エクストレイルの「勝算」とライバル打倒の鍵 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。