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 小型車を購入する際に、コンパクトカーと軽自動車で迷うことは多いはずだ。排気量に大きな違いもなく、ボディサイズではコンパクトが有利だが、軽は税制の優遇などランニングコストが安い。

 そんな時に気になることのひとつが、安全性の違いだろう。軽はボディサイズが小さい分だけ不利だからだ。

 そこで360ccからスタートした軽自動車が、660ccのエンジンを得てボディも拡大された現在、どれほどの安全性を獲得したのかを考察したい。

文/片岡英明
写真/TOYOTA、HONDA、SUBARU、SUZUKI、DAIHATSU

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■日本の風土と道路事情が軽自動車を生んだ

富士重工業(現・スバル)が製造したスバル360。軽自動車としては初めて大人4人乗りを実現し、日本の『国民車』と位置付けられた

 日本の風土と道路事情が生んだ偉大なスモールカーが軽自動車だ。ミニマムサイズの中で最大級のキャビンスペースと安全性を追求しながら独自の進化を遂げていった。

 昭和の時期に長く続いた360cc時代は全長3000mm、全幅1300mm、全高2000mm以下のボディサイズだ。排気量を360ccまでに制限したが、車検と登録制度を撤廃し、届け出だけで所有できる。税制面や保険などについても優遇されていた。

 16歳で軽免許を取れたこともあり、360ccの軽自動車は1960年代に大ヒットした。この時代は、軽自動車だけでなく上級クラスも安全性においては今一歩のレベルにとどまっている。その証拠に交通事故での死者数はもっとも多かった。

 1970年代になると軽自動車に車検制度が復活し、排ガス規制も厳しくなったから販売は大きく落ち込んだ。そこで1976年にボディサイズと排気量を550ccに拡大している。全長が200mm延び、全幅も100mm広げられた。これから先は前席に3点式シートベルトを装備するようになり、安全性は向上する。

 年号が平成に変わった1989年に消費税が導入され、1990年には再びボディと排気量を拡大した。衝突安全性と快適性を高めるために全長は3300mmとなり、エンジン上限は660ccになる。だが、衝突安全性が大きく向上し、今のレベルに近付くのは1998年10月だ。

 軽自動車は大幅に衝突安全基準を強化した。全長を延ばし、全幅も広げたのである。これは上級クラスが安全性を強化したからだ。ボディに衝撃吸収構造を採用し、ドアにはサイドインパクトバーを装備した。また、衝突時に開くSRSエアバッグも珍しいものではなくなっている。

 1998年の改編で軽自動車も50年に一度の大きな変革期を迎えたといえる。排気量は660ccに据え置かれているが、全長3400mm、全幅1480mmへとボディサイズを拡大。そして各メーカーに厳しい新衝突安全基準を突きつけたのだ。

 これはアメリカで始まり世界各国へと広まっていった自動車アセスメント・プログラムを受けて始まったものだった。日本の道路事情などに合わせてアレンジした安全基準は「JNCAP」と呼ばれている。

 衝突時の安全性などを★の数で評価するようになり、被害軽減効果を点数化するようにもなった。そこで各メーカーはGOAやマグマ、ゾーンボディなどの名を使い、新型車から衝突安全性能を高めている。

 軽自動車も例外ではなかったから、衝突安全性能の基準も高いレベルに引き上げられた。前面衝突時のキャビンスペースの確保は40km/h衝突から50km/hに高められ、後方から追突された時の燃料漏れ対策試験も50km/hまで引き上げられている。

■軽自動車規格の変更とともに安全性も強化

2002年登場のダイハツ ムーヴ。ボディ剛性の向上で乗り味がよくなるのと同時に衝突安全性能も高められた

 これらに加え、上級クラスに準じた側面衝突への対応も求められるようになった。新安全基準は1996年6月に発表されていたから、軽自動車メーカーは当時の最新テクノロジーを駆使して開発にあたっている。

 そして1998年10月、新規格をクリアした新型軽自動車が一斉にベールを脱いだ。当然、ボディ剛性は大幅に高められ、走りの実力は驚くほどレベルアップしていた。また、衝突安全性能だけでなく予防安全性能にも力を入れるようになる。

 施行された最初の新規格軽自動車はメーカー、車種によって衝突安全性にバラツキがあった。だが、2世代目からは高張力鋼板の使い方やボディのつぶし方に工夫を凝らし、コンパクトカーと遜色ない安全性を獲得するまでに進化している。

 21世紀になるとダイハツのMAXがブレーキのロックを防ぐABSに加え、横滑り防止のトラクションコントロールも統合制御徐々に装備されるようになる。

 2010年代になると燃費競争が激化するとともに再び安全性能の強化に取り組むようになった。安全性能を高めながら軽量化にも励み、上級のコンパクトカーと同等レベルの衝突安全性を実現している。ボディが小さく、車重が軽い軽自動車は、大きくて重いクルマとの衝突には不利だ。

 質量の大きいクルマは当たった時に攻撃性が強く、軽いクルマを大きく破壊する。しかも大きなクルマは、衝突時にボディを潰すことで衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンが多いからダメージも小さいことが多い。逆に小さいクルマは大きな被害を被るのだ。

 大きくて重いクルマはドライバーや同乗者の安全を守りやすい。安心感もある。だが、軽くて小さなクルマでも衝突時の被害を最小レベルに抑えようという「コンパティビリティ」の考え方が浸透してきた。

 軽自動車も構造を緻密に解析し、ボディのつぶし方など工夫するとともに材料や部材を適材適所に配し、コンパティビリティ対応ボディを生み出している。

 最新の軽自動車は、ピラーやシートベルトにも新しい技術を盛り込んでいるから、ちょっと設計の古いコンパクトカーより高い安全性を確保しているのだ。毎年公表される「JNCAP」の結果を見れば、最新の軽自動車のすごさが分かるだろう。

 また、予防安全についても剛性を高めるスタビライザーを装着したり、横滑り防止のトラクションコントロールを搭載してハンドリングと事故回避性能を大幅に高めている。

 それだけではない。2006年にダイハツは時代に先駆けてプリクラッシュセーフティシステムを発表した。そして12年にレーザーレーダーを用いて車両の前方を監視する予防安全機能のスマートアシストをムーヴに搭載している。

 これ以降、前走車や止まっているクルマとの衝突をとっさの時に回避する自動ブレーキの機能を備えた衝突被害軽減ブレーキは急速に搭載車が増えていく。

 今ではカメラを追加して車だけでなく人間にも反応する衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制制御、車線維持/ステアリング支援などの機能を加えた軽自動車も珍しいものではない。

 ホンダが軽自動車の世界に先鞭をつけた全車速追従機能付きオートクルーズコントロールも普及しつつある。

 カタログなどで先進安全装備をチェックしてみれば、設計の古いコンパクトカーより軽自動車の方が安全装備を充実させていることが分かるだろう。

 パッソ/セッテ、マーチは追従クルーズコントロールや車線維持などの機能はない。ルーミーやシエンタなどのハイトワゴンも同様だ。コンパクトカーにはアイドリングストップ機能のないクルマも少なくない。

 販売合戦が熾烈で、女性ユーザーも多いのが軽自動車だ。コンパクトカーよりモデルチェンジのサイクルは短いし、マイナーチェンジのたびに快適装備と安全装備を充実させている。

 先進安全装備は日進月歩で進化しているから、軽自動車を選ぶにしろ、コンパクトカーを選ぶにしろ。基本設計の新しいクルマをオススメしたい。もちろん、必ずシートベルトを装着するなど、基本を守ることが安全の大前提だ。

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