上海電力日本株式会社が大阪市の咲洲メガソーラーの発電事業に参入している件で、橋下徹氏への非難の声が強まっている。一般競争入札に参加しなかった上海電力が、実際に大阪市で発電事業をしていることに違和感を抱く者は少なくない。ここまで明らかになっている状況を見る限り、上海電力が適正な方法では参入が難しいため、法の抜け穴を利用し、本来手にすることができない利権を手に入れたと言え、橋下氏の外為法による説明は全く的外れなものと言える。
■入札不参加の会社が事業を行う不思議
橋下氏の上海電力疑惑はジャーナリストの山口敬之氏が先鞭を付けた。大阪市南港咲洲メガソーラー発電所を上海電力の日本法人と日本の伸和工業が共同出資で運営しているが、そもそも2012年12月の競争入札においては日本の伸和工業と日本エナジー開発が落札しており、上海電力日本は入札に参加していない。
落札後、日本の両社は連合体咲洲メガソーラー「大阪ひかりの泉」プロジェクトという連合体として、大阪市の市有不動産の賃貸借契約を1か月55万1円で結んでいる。この時点で上海電力日本は少なくとも表には出てきていない。
ところが2014年5月18日に上海電力日本が大阪南港の発電所竣工式を行なっているのである。入札に参加していない会社、それも海外の企業の子会社が大阪市が競争入札を行った発電事業を行なっているのはおかしいというのは、誰しもが感じる疑問であろう。そして、その当時の大阪市長は橋下氏である。
橋下氏は当初、上海電力日本は入札で入ったと説明した(5月7日・abema TV)。しかし、実際には前述のように日本企業2社のみが入札し、落札している。明らかな虚偽の説明をしていたわけであるが、4日後の5月11日にはツイッターで作家の百田尚樹氏のツイートを引用した上で「上海電力が大阪市の入札後に入ってきたことは外為法の所管。当時の外為法では10%以上の出資だと財務大臣及び事業所管大臣の事前審査。上海電力の出資に問題があるかは政府に聞くことや。」(橋下氏ツイート 5月11日午後10時12分)と投稿した。
■立ちはだかる大阪市契約規則
上海電力日本が事業に参入してきた経緯は複雑で理解が難しいが、少しの間、ご辛抱いただき煩雑な文章を読んでいただきたい。まずは時系列で重要な事項をまとめてみる。
【2012年】
12月26日:連合体咲洲メガソーラー「大阪ひかりの泉」プロジェクトが市と賃貸借契約を締結。(構成員は伸和工業と日本エナジー開発)
【2013年】
1月4日:伸和工業が合同会社咲洲メガソーラー「大阪ひかりの泉」プロジェクト設立
9月17日:上海電力日本が設立
10月28日:事業継承により賃貸借契約が「連合体咲洲メガソーラー…」から「合同会社咲洲メガソーラー…」へ変更
【2014年】
3月18日:伸和工業が「合同会社咲洲メガソーラー…」が太陽光発電所新築工事受注と発表
4月11日:上海電力日本が「合同会社咲洲メガソーラー…」へ加入
5月18日:上海電力日本が大阪南港発電所の竣工式
7月31日:「合同会社咲洲メガソーラー…」に上海電力日本が加入したこと、代表社員となったことを大阪市に通知
上海電力日本が咲洲メガソーラーの事業に加わろうと思っても、入札後に会社が設立されているから入札には参加できず、しかも、落札した事業者から事業を継承することは簡単ではない。入札と、それによって締結された契約には当然、その点についての厳しい規定がある。大阪市契約規則には以下のような規定がある。
【大阪市契約規則】
42条1項:契約者は、契約から生ずる権利又は義務を第三者に譲渡し、若しくは承継させ、又はその権利を担保の目的に供することができない。ただし、本市の書面による承諾を得た場合はこの限りでない。
原則として入札で得た権利や義務は、第三者に譲渡ができない。2012年12月に連合体咲洲メガソーラー「大阪ひかりの泉」プロジェクトが市有不動産の賃貸借契約を締結した後で、その連合体に構成員として入ることになれば、契約規則42条1項に抵触することになる。
連合体は建設工事などでよく目にするJV(ジョイントベンチャー)のようなもの。事業のために企業が結成する事業組織体であり、民法上の組合の一種とされる。「組合においては、複数の人間が共同事業を営んでいるという実体はあるが、人の集合を超えた団体としての独自性はない。」(民法Ⅰ 総則・物権総論第4版 内田貴 東京大学出版会p220)。
つまり、社団のような団体としての法人格はないため、大阪市が契約したのは連合体であっても、その構成員である伸和工業と日本エナジー開発が実質的な契約相手となる。そのため、上海電力日本が両者から事業を譲渡される可能性はほぼゼロである。
■連合体から合同会社へ変更の意味
ところが、ここでおかしな「操作」が始まる。2013年10月に事業継承により賃貸借契約が「連合体咲洲メガソーラー…」から「合同会社咲洲メガソーラー…」へ変更されたのである。これは連合体という法人格のない団体から、会社形式の団体へと事業が承継されたことになる。
おそらく、大阪市の書面による承諾を得たのであろう。そのことで大阪市契約規則42条1項をクリアしたと思われる。合同会社の業務執行社員が伸和工業と日本エナジー開発であり連合体と同じ組み合わせのため大阪市でも「単純に連合体から合同会社に組織を変更、結びつきを強固にしたもの」と判断したであろうことは、想像に難くない。
そのようにした上で、上海電力日本が合同会社に2014年4月に加入。7月31日付けで大阪市に対し、業務執行社員として加入した上で、代表社員になったことを通知している。
もう、お分かりと思うが、連合体のままであれば上海電力日本の参入は認められない。ところが、連合体から合同会社への事業承継は当事者の変更はなく事業の第三者への譲渡ではないから認められる。連合体は法人格を持たないから個々の企業が実質的に契約の当事者であったものが、合同会社が契約の相手となれば、法人格を持つ合同会社が契約の当事者となる。そうなると、合同会社に後から上海電力日本が業務執行社員になったとしても、大阪市契約規則42条1項には抵触しない。
■外為法の説明の的外れ
ここで橋下氏の最新の言い分を見てみよう。前出の「上海電力が大阪市の入札後に入ってきたことは外為法の所管。当時の外為法では10%以上の出資だと財務大臣及び事業所管大臣の事前審査。上海電力の出資に問題があるかは政府に聞くことや。」である。
これは上海電力日本が外国為替管理法(以下、外為法)にいうところの「外国投資家」であるため、対内投資等(国内への投資=合同会社への出資)を行う場合には財務大臣及び事業の所管大臣に届け出が必要になり外為法27条1項)、財務大臣と所管の大臣は審査を行うことがある(同2項)ということを指しているものと思われる。審査を行う場合とは以下のような時である。
【外為法27条3項1号】
イ 国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになること。
ロ 我が国経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすことになること。
このように、国家の安全に重大な影響を及ぼす場合に限られている。上海電力日本が合同会社咲洲メガソーラー「大阪ひかりの泉」プロジェクトに出資したとして考えられるのは大阪市契約規則42条1項を無力化するだけの効果しかなく、審査が行われるはずがない。その意味で橋下氏の説明は全く的外れと言うしかない。
■橋下氏の監督責任
簡単に言えば、この件は上海電力日本が大阪市契約規則42条1項で禁じられている権利の第三者への譲渡を、連合体から合同会社へと事業継承をすることで、まんまと実現したということである。
本来、大阪市はこのような規則で禁じられている行為を厳しく監視する必要がある。それは大阪市契約規則第3章契約の履行 第2節監督及び検査の項目で決められている。
【大阪市契約規則】
43条 局長等は、あらかじめ…請負契約の適正な履行を確保するための必要な監督(以下監督という。)を担当する職員…を指定しなければならない。
44条 …監督を担当する職員(以下監督職員という。)は、立会い及び指示の方法によるほか、必要に応じて工程の管理、履行途中における工事製造等の使用材料の試験その他の方法により監督を行なうものとする。
監督の結果は随時局長等に報告することが義務付けられており(45条1項)、当然、この状況は市長へも報告が届いているはず。連合体から合同会社への変更で、実質的に規則42条1項が破られている現状を見て、市長として何もしなかったとするのであれば、その不作為は実質的な42条1項違反を容認したと言って差し支えない。市長の監督責任は免れない。
■説明責任を果たせ
このように表に出てきた資料だけを見ても、橋下氏の監督責任は明白。もし、上海電力日本の関係者と何度も会っているようであれば、暗黙の了解を与えていたと言われても仕方がない。そのあたりの事情はこれから徐々に出てくるものと思われる。
この件について山口敬之氏は公開質問をしている。端的に答えられることばかりであるから、まずは大阪市民のため、そして日本国民のために、説明責任を果たすことを望むものである。