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同じカワイイ丸目系なのにこの大差はナゼ!?  フィアット500eとホンダeの売れ行きの差はデザインにあり?

 2020年8月にホンダの初EV「ホンダe」が登場し、約2年が経過した。丸目デザインのライト、シンプルかつ美しいフォルムで、デザイン性も高いモデルだ。しかし、航続距離の短さ、価格の高さなどにより、あまり販売が良いほうに振るわなかった。国内ではなく、欧州を中心に販売するという販売戦略だったが、2021年の欧州における販売台数は3752台と、惨敗した。

 いっぽう、同じ丸目デザインのライトを持つ「フィアット500e」は、欧州での販売が好調。2021年では、4万4334台を売り上げている。日本では、2022年6月にリース契約であるものの、販売開始されるとあって、期待が高まる。

 そこで、本稿では、同じ丸目デザインのライトを持ち、主戦場を欧州とする「ホンダe」と「フィアット500e」を中心に販売台数の大差について解説する。この差をひも解くカギは、「デザイン」にあり??

文/清水草一、写真/HONDA、MAZDA、ステランティス

【画像ギャラリー】独創的なスタイルの3台のEV「ホンダe」「フィアット500e」「MX-30 EV」をギャラリーでチェック!(23枚)画像ギャラリー


販売の中心である欧州でも苦戦するホンダe

都市型コミューターとして開発されたホンダ初の量産電気自動車「ホンダe」

 約2年前(2020年8月)、鳴り物入りで登場したホンダのEV・ホンダe。しかし販売は低迷を続け、国内販売台数は、このように推移している。

2020年(10~12月) 427台
2021年(1~12月) 721台

 2021年は月平均60台程度にとどまり、2022年に入ってからは、部品不足もあってか、さらに落ちている。もともとホンダは、ホンダeの国内販売台数を「年間1000台」と計画していたから、2021年の721台という数字は、悪くないと言えなくもないが、欧州ではどうなのか。

 ホンダによれば、ホンダeの販売は「欧州が中心」のはず。そちらで年間1万台ほど売る予定だったからだ。

 しかし、欧州では、完全に惨敗している。

<2021年の欧州におけるEV販売台数ランキング>
1位 テスラモデル3 14万868台
2位 VW ID.3 7万2723台
3位 ルノーゾエ 6万9136台
4位 VW ID.4 5万3605台
5位 シュコダエンヤク 4万8283台
6位 起亜ニロ 4万6790台
7位 フィアット500e 4万4334台



11位 日産リーフ 3万3772台
29位 マツダMX-30 EV 1万2249台
39位 ホンダe 3752台

 39位という順位は、完全に「圏外」。その他大勢もいいところだ。2000万円級のポルシェ・タイカンが1万6000台売れたのに、その3分の1以下なのだから涙が出る。

 ホンダeの不振の原因は日欧共通。航続距離が短い割に価格が高いからだとされている。しかし、同じパナソニック製の同容量バッテリーを積み、航続距離も価格もほぼ同水準のマツダMX-30 EVにも大きく水を開けられているのはナゼだろう?

ホンダeの10倍以上売れているフィアット500eの魅力

フィアット500の次世代モデルとして登場した「フィアット500e」。6月25日から日本でも販売が開始される

 ホンダeは、ホンダN360をリバイバルさせたような丸目と、シンプルで美しいフォルムを持つRRレイアウトの EVで、デザインの評価は極めて高い。私もデザイン的には、ホンダ史上最高傑作ではないかとすら思っている。しかし、市場の反応は非常に鈍く、デザインの力で航続距離や価格の壁を打ち破ることができていない。

 そこで注目したいのは、同じEVのフィアット500eだ。先日、日本への導入も開始された500eは、バッテリー容量42kWと、ホンダeの35.5kWよりやや大きいが、基本的にはシティビークルだ。2ドアボディのレトロカーゆえ、後席やラゲージははるかに狭い。総合的に見て、ホンダe以上に機能を割り切ったクルマだ。

 ところが売れ行きは好調で、2021年は欧州EV販売ランキングの第7位に入った。2022年に入ってからはさらに伸びており、第3位に躍進している。

 日本国内での販売台数は、輸出割り当て台数次第なのでなんとも言えないが、ヘタするとホンダeよりも売れてしまうかもしれない。そう予感させるのは、あまりにもデザインが魅力的だからである。

 ガソリン車のフィアット500のデザインも、1950年代生まれのヌオーバ500をうまく現代によみがえらせていてステキだが、500eはそれをベースに、どこから見ても未来的なイメージに仕上げている。レトロだけど未来的なのだ。

 それを象徴するのがヘッドライトだ。縁取りの「丸目」は変形させつつしっかり残し、その中央に小さなLEDランプ(ハロゲンランプのグレードもアリ)を入れることで、レトロモダンならぬレトロ未来を見事に表現している。

 500eは、フォルムも素晴らしい。ヌオーバ500はリヤエンジン車だったが、現行500はそれをFFで再現したため多少の無理があり、微妙なバランスの狂いがあった。いっぽう500eは、フロントをモーターで駆動するという意味ではFFのままだが、モーターはガソリンエンジンよりはるかにコンパクトだし、ラジエターも必要ない。

 おかげで現行500よりもフロントオーバーハングが短く、より元祖に近い、バランスのいいフォルムを実現できている。パッと見た瞬間に誰もが引き込まれてしまうデザインは、現行500よりさらに魅力的だ。

 このデザインの魅力は、すべてのEVの中でも圧倒的。実用性能はさておいても、とにかくこのクルマが欲しい! と思わせてしまう。

 欧州でのホンダeとの販売台数の差は、2021年で10倍以上。2022年に入ってからはさらに開いており、比べるのもはばかられる。

 その裏には、当然価格もある。ドイツでの価格を比較すると、500eが3万550ユーロ(400万円台前半)なのに対して、ホンダeは3万3850ユーロ(400万円台後半)。急激な円安で、円換算価格が急上昇してしまいましたが……。

 しかしそのハンデに関しては、マツダMX-30 EVも同じ。ホンダeとMX-30 EVの比較において、欧州人たちは後者に軍配を上げている。理由はデザイン以外に考えられない。

 MX-30のデザインは、日本ではまったく不評だが、欧州では流行りのスタイリッシュなSUVということで、それなりの評価を受けている。

 欧州ではもともとEVはセカンドカーや通勤用と割り切られている部分があるから、観音開きドアで後席の乗降がしずらいMX-30 EVや、2ドアや2+1ドア(右側のみリヤドアあり/日本導入予定なし)の500eでも、大きな問題にはならないようだ。

500eのデザインにあって、ホンダeにないものとは?

 欧州での売れ行きはともかくとして、ここ日本ではどうかというと、まず価格はともに450万円からでほぼ同じ。居住性は5ドアのホンダeの圧勝。航続距離はホンダeの308kmに対して、500eは335kmとやや勝るが、500eはチャデモの急速充電器を使う際にはアダプターが必要で、現時点では不安が残る。500eは基本的に、自宅で普通充電して航続距離内で使うクルマだと思ったほうが良さそうだ。

 また、ホンダeならV2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)に対応できるが、500eはナシ。つまり総合的な性能は、ホンダeが上回っている。

 しかしそれでも、ホンダeよりも500eのほうが魅力的に感じる。ホンダeの場合は、まっさきに「航続距離の割に値段が高いな」と思ってしまうが、500eを前にすると、カタチを見ただけで、「細かいことはどうでもいい! とにかくコレが欲しいんだ!」となるからだ。

 では、500eのデザインにあって、ホンダeにないものはなんだろう。

 ホンダeのデザインは確かに素晴らしいが、非常にシンプルで機能的。機能を実現するためのカタチなので、機能(航続距離や価格)が足りなければ、吠えない番犬と同じで、デザインも無意味になってしまう。ホンダeは、見るからに優等生なデザインなので、中身も優等生でないと許されない。

 いっぽうの500eのデザインは、まったく機能的ではない。だから、居住性等の機能にあまり左右されない。500eは、大っぴらに欠点をさらけ出しつつ愛されるタイプ。吠える必要のない愛玩犬なのである。

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