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 都内最長路線である都営バス「梅70」系統に乗って東大和駅前に行ってきた。1日、都営交通前線がたった700円で乗り放題の都営まるごときっぷを使って向かった。

 東大和駅には東京都薬用植物園があり、薬として使われる植物が栽培されている。知らずに育てた植物が麻薬かも!? 実際に東京都薬用植物園へ都営バスで向かって、育ててはいけない植物の見分け方をお伝えする。

文:古川智規(バスマガジン編集部)
写真:小野寺利右


目的地は東大和市駅前!

 東京都区部から出発して目的地は東大和市駅前だ。そんなの西武線で行けばいいというお叱りをいただきそうだが、ご指摘はその通りだ。ただし、なるべく運賃を安く済ませるために「都営まるごときっぷ」を使うと自動的に梅70系統に乗車することになってしまう。

 都営まるごときっぷは都営交通全線が1日乗り放題で700円という破格の乗車券だ。都営地下鉄の駅券売機はもちろん、都営バス車内でも購入できる。都営交通全線なので、都営地下鉄・日暮里舎人ライナー・都電荒川線と多摩地区を含めた都営バス全線が乗り放題だ。(一部例外あり)

都営大江戸線中井駅

 都内から目的地の東大和市駅前までなるべく都営交通を利用するとなると、現実的には都営大江戸線で中井駅まで行き、そこから西武線で花小金井駅までを別途運賃を支払い、花小金井駅北口から梅70のお世話になる。

西武新宿線中井駅

 もっとも新宿駅西口から王78系統で野片駅北口まで行き、そこから西武線に乗ればもう少し安くなる。

あ、P代の西工が!

 そんなこんなで都営まるごときっぷを握りしめて花小金井駅北口までやってきた。あらかじめ梅70系統のダイヤを調べているので、そろそろ折り返しのバスが到着してもよさそうだが、少し早すぎたようだ。

日産ディーゼル・西日本車体工業製のスペースランナー

 ちょっと一服して戻ってくると都営バスがいた。しかし何か違和感が。折り返し便で停車していた梅70系統はP代(平成18年度導入車両)の日産ディーゼル・西日本車体工業製のスペースランナーだった。

早稲田自動車営業所青梅支所P439

 23区内でもまだ西工ボディ製のバスは走っているが、八王子ナンバーで後ろ乗り前降りの西工車が梅70の運用に入っているのはあまり見たことがないので若干得した気分。

梅70系統側面方向表示器

東京都薬用植物園

 東大和市駅前はバスターミナルに入り降車する。西武線の駅をくぐると玉川上水があり、小道の向こうに今回の目的地である「東京都薬用植物園」がある。

東大和市駅前停留所

 ここにはあらゆる薬用になる植物が栽培され、一般公開されている。コロナの影響で長く臨時閉園していたがようやく再開園し、中を見ることができた。

東京都薬用植物園

 薬用と言っても使い方によっては毒にもなりうる植物もあり、花を愛でると同時に薬効や危険性についても学ぶことができる。

これはアカンやつや!

 その中でもひときわ厳重に管理されているのがケシ栽培区域だ。二重鉄柵で侵入センサーや監視カメラが並ぶ物々しい区域で、近寄りがたい空気が漂う。しかし大型連休後はケシの開花時期でもあるので、外鉄柵を開放してこの期間だけは鉄柵1つ越しに見ることができる。

ケシ栽培区は通常は二重鉄柵の中

 ケシは品種により、「あへん法」または「麻薬および向精神薬取締法」により、国の許可なく栽培が禁止されている植物である。理由はアヘンが取れるからだ。アヘンは精製するとモルヒネになり、塩酸モルヒネや硫酸モルヒネという医薬品になる。最上級の鎮痛薬であり、がんの疼痛に利用される等なくてはならない医薬品だ。

ケシの案内板

 しかし、アヘン戦争や薬物乱用問題で歴史的に悩まされ続けた人類は、条約や国内法で厳しく制限しているが、モルヒネは必要な医薬品であることもまた事実だ。

 そのため絶滅させることはできず、東京都薬用植物園では研究のために国の許可を得て厳重な管理の下でケシを栽培している。その美しい花を見てもらい、薬物に関する啓蒙を深める目的で外側鉄柵を限られた期間のみ開放している。

植えてもよいケシとダメなケシ

 ケシと言ってもオリエンタルポピーやひなげし等、アヘンが取れないケシは栽培して構わない。しかしその見分けが難しく、例年誤って混入した禁止対象のケシが出回ってしまったり、道端に飛んできた種子が落ちて発芽、開花してしまったものが見つかる等の事例がある。

オリエンタルポピーは飢えてもよいケシなので外の花畑にある

 ケシは繁殖力が強くどこにでも自生してしまうため、例えば航空機の車輪に種子が付きギアダウンした時に地上に落ちて発芽してしまう例が実際にある。そのため東京都薬用植物園では鉄柵を利用してパネル展を行い、禁止ケシの見分け方を解説している。その内容はケシの花を含めて、すべて画像ギャラリーに収めてあるのでご覧いただきたい。

ヒナゲシもOKなケシ

伝統的なアヘンの採り方

 ケシの花は美しいが、アヘンが取れるのはその後である。花が散った後に現れる未熟な果実(ケシ坊主という)にヘラで傷をつけると白色の乳液が出てくる。空気に触れ傷つけた筋は黒く変色するが、この乳液を採取したものが生アヘンである。

ハカマオニゲシは禁止ケシ

 それを精製してアヘン、モルヒネ、ヘロインになっていく。時期にもよるがケシ坊主に傷がつけられ生アヘンを採取した後の様子を見ることもできる。概ね花が散った後だ。

 現在では工業的に化学処理をして効率的にアヘンを採取するようだが、東京都薬用植物園では伝統的なへらかきによる採取を行って研究対象としている。

「けしつぶ」のようなケシの種

 このケシ坊主が枯れると中に詰まった小さな種子があたり一面に飛び散る。この種子が「けしつぶ」にような、と表現されるケシの種で、あんパンや七味唐辛子に入っていて日本人にはなじみ深い。

黒い筋が残る生あへんを採取した後のケシ坊主

 なお、ケシの種子にはアヘンはほとんど含まれていないため、日本では法律による規制の対象外だが、発芽しないように処理したうえで流通している。国によってはケシの種子も麻薬指定されているところもあるので、そんな国にあんパンをかじりながら航空機を降りると逮捕されかねないのでご注意を。

ケシの横には草が!

 ケシの横にはいわゆる大麻草が植えてあった。例年ではまだ植えられておらず見ることはできなかったが、今年は発芽して間もない小さな大麻草を見ることができる。アサは大麻取締法により栽培は免許制になっている。

大麻草も植えられている

 これは研究用としての側面もあるが、麻の繊維が伝統的な工芸品等に利用されるからである。大麻草は夏ごろに茂ってくるが、研究後はすべて焼却され鉄柵内の穴に埋められ廃棄される。

なかなか興味深い大人の社会科見学

 今回は梅70系統で東京都薬用植物園を大人の社会科見学として見て回ったが、よく飲むお薬の中に入っている甘草や麻黄といった植物も普通に植えられているので、興味のある方は訪れてみてはいかがだろうか。

ケシの花は美しい

 東京都薬用植物園の入場は無料だが、コロナの影響で屋内展示室は休止されているので、外の植物園と温室内の南国の雰囲気満点の植物を見学しよう。

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