SUVになると言われる新型クラウンの発表は、これまで本webが掴んだ情報によると、今年6月末。5月10日の段階で、あと1ヵ月半、ティザーサイトが立ち上がって、先行予約が始まっていてもよさそうなものだが、そんな話は入ってこない……。
そこで、いまディーラーに行ってクラウンの商談をするとどんな状況になっているのか、直撃してみることにした。次期型の話がされるのか、現行型はまだ残っているのか。ひょっとすると、新型クラウンSUVの見積もりも取れる可能もある。
いてもたってもいられない、そんな人のためにトヨタディーラーに行ってみた!
文/柳川洋
写真/トヨタ、BMW、ベストカーweb編集部
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■日本で一番クラウンが売れる販売店(?)で最新情報を聞いてきた!
日本で最も頻繁にクラウンを見かける場所、それはどこかあなたはわかりますか? 答えは東京都心のオフィス・官公庁街。皇居や東京駅の周りを、ピカピカに磨き上げられた紺や黒の外装色のクラウンが、会社役員や高級官僚、政治家を乗せて走り回る。
ブラックアウトされたリアウインドウでプライバシーが守られた後部座席では、偉いおじさんたちが時間を惜しんで読書灯の明かりを頼りに車内で書類や新聞に目を通したり、携帯電話で会話したり、激務の疲れを癒すために一寝入りしたりしている。白い手袋をしたベテラン運転手は、彼らの邪魔をしないよう、熟練の技で滑るようにスムースにクラウンを走らせる。
そんな法人顧客向けに、日本で最も多くクラウンを販売していると言っても言い過ぎではないトヨタの販売店が都心にある。クラウンの最新情報が最も集まっているに違いないそのディーラーにゴールデンウィーク直後に訪問し、直近の状況を伺ってきた。
店頭でクラウンに興味があることを告げると、まず初めに営業マンに言われたのが、「新型のクラウンがもう少しで発売になる、今まさに切替えのタイミングで、すでに現行型のクラウンの受注はGW前に終了しております。現行型はまだ在庫はございますが、1台を除いてすでに全車が商談中となっております」。
ちなみに残っている最後の1台は、ガソリンエンジンの直列4気筒2Lターボエンジンを搭載した2.0 RSで、プレシャスホワイトパールの外装色。2.0 RSとは、カタログの価格表では、さまざまなグレードが並ぶなかで一番下に記載されている、いわゆる「素」のグレードだ。
唯一現行型で500万円を切る、ハイブリッドの2.5L、RS-Bの次にお求めやすい値札をつけたクラウンで、どちらかというと自分でハンドルを握るオーナー向けのクルマだ。
この販売店の在庫が2.0 RSの1台しかないのかと思ったが、聞いてみると東京で200店舗以上あるトヨタモビリティ東京全体で、ラスト1台のクラウンがその2.0 RS、という状況らしい。ベストカーwebが得た情報によればすでに3月14日には受注は締め切られているという。
「ご承知の通り、トヨタのクルマは注文をいただいてから1台1台生産するのが基本なので、在庫車は、たくさんはございません。このクルマも各店舗で話が進んでいるはずですぐに売れてしまうと思われ、東京中探しても、もう新車のクラウンを買うことはできなくなります。どうしても現行型が欲しいということでしたら、今日あるいは今すぐにでもご決断ください」と営業マンが申し訳なさそうに話す。
せっかくなので見積もりをいただいたが、「伝統的な」クラウンの、新車の見積書は東京ではこれが最後になるかと思うと、筆者もやや感慨深いものがあった。
■新型クラウン発表のタイミングは?
「では新型はどういうタイミングで出てくるんですか、新型はこれまでの伝統的なクラウンの文脈とは相当異なった、SUVに近いデザインになるとも聞いていますが」、と質問したところ、「まだ確定した情報は何もなく、我々営業マンも何も公式には聞かされていません、お話できることが少なくてすみません」と、これまた営業マンが申し訳なさそうに何度も繰り返す。
やはり販売現場での情報管理が非常に厳しいようだ。
「日本で一番クラウン売っている優秀な営業マンが何も知らないわけないじゃないですか、何か少しでも教えてくださいよ」、と持ち上げつつ畳み掛けると、「いえ、多分三番目ぐらいですアハハ」と照れながら、言葉を慎重に選びつつ次のように耳打ちしてくれた。
「6月頃になればもう少し情報が出てきて、新型車としての発表が行われ、お見積りが出せるようになるのはおそらく7月頃になるはずです。上海でのロックダウンの影響で部品が滞っており、スケジュールが後ずれする可能性もあります。クラウンのようなおクルマは、モデルチェンジすると自動的に乗り換えるようなお客様もたくさんいらっしゃるため、そのようなお客様からのご注文を頂戴する可能性が高いこと、現在のサプライチェーンの混乱を踏まえると、納期が数ヶ月から半年かかる可能性は十分にあります」。
■デザインはBMW3シリーズグランツーリスモ似
注目のデザインについても、ガードは固かったが情報を得ることができた。
「デザインは、実車を見たわけではありませんし、何の公式情報を持っているわけでもありませんが、BMWのX4やX6のようにルーフが後部になだらかに下がっていくいわゆるSUV的なデザインで、前から見るとアウディA5をイメージさせるような外観だと聞いています」
「SUV的なデザイン、ということは、やや車高も上がり乗降性が悪くなる部分もあるかもしれず、また後部座席に座るパッセンジャー重視というよりは、ハンドルを握るドライバー重視になるのではないかという印象をどうしても持ってしまいますが、これまでクラウンに乗り続けてきたやや年齢層の高い人たち、特に後部座席に座るような人たちがそのパッケージングだと拒否感を示したりしないのですか?」とさらに伺ったところ、
「まさにそこが、これまでクラウンをお客様に継続的にお納めしてきた我々販売現場が心配しているところなのです。個人的には『新型クラウンはSUVそのものであるBMWのX4やX6に似ている』というよりは、むしろBMW3シリーズのグランツーリスモのようなクルマであることをイメージしてお客様とお話ししています。
つまり、4ドアセダンの文脈を残したまま、リアハッチゲートの開口部が大きくなり、車高がやや上がって見切りが良くなり、車内空間も広がり、乗降性の悪化も限定的で、ボディサイズも大きくなりすぎず、運転しても楽しく、後ろに乗っても快適なクルマが新型クラウンだと思っていただきたいです」という答えが返ってきた。
ちなみにBMW3シリーズのグランツーリスモとは、セダンなのにクーペのようなスポーティかつスタイリッシュな外観を持ち、セダンよりも積載量も多く、3シリーズで最も広い室内空間を持つ、カッコよさと機能性の両方を同時に満足させようとした欲張りなモデル。
2013年のジュネーブショーで初公開され、「セダンにプラスアルファが欲しい、だけどステーションワゴンはフォーマルでなく機能的すぎかつ色気がなくてイヤで、運転して楽しくなく燃費の悪い巨大なSUVはいらない」という層にはアピールしたが、2020年以降は3シリーズのラインナップから外れてしまった。だがまさに、新型クラウンが狙う顧客層はそこなのだろう。
建前としてはまだ営業マンも実車は見ておらず、何も公式な情報もない、はずなのだが、お客さん思いの心のキレイな熱血営業マンに限っては、心の中に新型クラウンのエクステリアイメージがどこからともなくふつふつと降霊してくるのかもしれない……。
営業マンの口からは3シリーズのグランツーリスモのようなスタイル……という話が出たが、これまでベストカーwebが報じてきたクラウンの4ドアクーペ説と辻褄が合う。
これまで報じてきたクラウン4ドアクーペを改めて紹介しよう。プラットフォームはTNGAのFF用GA-Kを採用し、パワートレインは2.5L、直4のハイブリッドと2.4L、ガソリンターボの2種類。エントリーモデルはFF、そのほかのグレードにはハイブリッドはE-FOUR、ガソリンターボは電子制御のダイナミックトルクベクタリングAWDを採用する。
ここにきて、驚きの情報が入ってきた。現在、絶賛発売中のベストカー本誌2022年6月10日号(5月10日発売号)によると、クラウンSUVは販売サイドの反対により開発が凍結。代わりに浮上してきたのが、なんと現行FRのプラットフォームを流用したFRクラウンの開発が急遽決まり、2025年頃に発売されるという。
クラウン4ドアクーペの発表は6月のままで変更はないという。詳細はベストカー本誌を購入して読んでいただきたい。
■もはやセダンは絶滅危惧種なのか?
トヨタのHPの全車種ラインアップを見られるページで「セダン」を選択すると、カムリ、カローラ、カローラアクシオ、クラウン、センチュリー、プリウス、プリウスPHV、MIRAIの8車種が出てくる。
このなかでさらに「伝統的なセダンらしいセダン」といえば、現実的にはカムリ、カローラ、クラウンの3択。クラウンがSUVになってしまえばカムリ、カローラだけの2車種になってしまう。
セダンは車両全体に対する開口部の割合が小さいことによる剛性の高さと、それによる振動や騒音の少なさなどメリットも多く、クルマの基本のキだと考える人も少なくない。トヨタのセダンはいずれ滅びる絶滅危惧種なのだろうか。
実はそうではないのではないか、というのが筆者の見立てだ。
アメリカでの自動車販売台数トップの座は、1931年以来90年間GMが独占してきたが、2021年は全米で約230万台を販売したトヨタが約220万台を販売したGMに代わってトップの座についた。
コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンの混乱と半導体不足という特殊要因があったことは割り引いて考えなければならないものの、GMの販売台数は前年比マイナス12.9%と落ち込んだのに対し、トヨタはプラスの10.4%となった。
トヨタUSAの営業責任者のボブ・カーター氏によると、トヨタのアメリカでのシェア躍進の原動力の要因としては、他社よりも半導体の確保が上手くいった部分も大きいが、少なからぬ部分は、カローラとカムリ、つまりトヨタのセダンに対する人気の高まりによる、という。
アメリカの自動車市場全体がここ数年でSUVやピックアップトラックに大きくシフトし、競合他社がセダンのモデルを廃止・縮小するなか、慣れ親しんで比較的手に入れやすいセダンに対する人気は特にアジア人・黒人・ヒスパニックの消費者の間で根強く、その需要がトヨタに流れ、トヨタの躍進につながったと分析している。
他社とは違い、トヨタはセダンに「逆張り」しようとしている、とも述べている。
半導体不足のせいで新車が作れず、「クルマがあれば何でも売れる」という状況が解消した後もこの傾向が続くとすると、カムリよりもやや高級だがSUVほど割高ではなく、積載能力も高く室内空間も広い「セダンプラスアルファ」に対するニーズはアメリカ中心に長続きすると考えられる。
国内専売のセダン、というのは絶滅危惧種かもしれないが、海外でも売れるパッケージングに進化したセダンであれば、トヨタほどの生産量を誇るメーカーであればカローラとカムリに加えてもう1車種、セダンプラスアルファ、だけどSUV以下、という利益率の高いクルマを用意しておきたい、と考えてもおかしくない。
新型クラウンのコンセプトの変化に関しては、このような海外の動きもあるのでは、と筆者は勝手ながら深読みしている。
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