2021年はクルマや歩行中の事故死傷者が大幅に減る中、バイク事故が増え、特に50代以上のオヤジ世代の増加が目立った。
この結果を当webで報じた後、警察庁に独自取材を行い、事故が増えた要因を探ってみた。どんな場所で、どんなライダーが、どのように事故を起こしたのか? 実態が見えてきた!
文/沼尾宏明、写真/Webike
16年ぶりのバイク事故増、その原因が50代以上にあった
2022年3月に警察庁がまとめた「令和3年中の交通事故の発生状況」によると、「原付乗車中」、「自動車乗車中」、「歩行中」、「その他」のカテゴリーで大幅減となる中、自動二輪乗車中(51cc以上)の死傷者数は前年から236人増の2万3437人(1%増)。2005年以来、年々減少していたが、16年ぶりに増加に転じてしまった。
――当webの過去記事(【50代のバイク事故激増!!】四輪の事故数は減ったのになぜ!? バイク事故数はなぜ増えたのか)で既報のとおり、50代以上(50~74歳)のバイク事故が増加している。増加数は50~54歳が最多の256人増(2676人 10.6%増)。これに55~59歳の114人増が続き、50代だけで370人も増加した。そして60~64歳は62人増、65~69歳は76人増と60代の死傷者も多い。
しかし、資料では二輪事故の詳細が明らかにされておらず、「バイク販売が好調で、久々に乗ったリターンライダーが事故を起こしているのでは?」と予想はした。だが、より実態を知るために、警察庁交通局に文書で取材した次第だ。
50代以上のバイクユーザーが増加したのが事故増の要因
まず聞いてみたのは、「50代以降で死傷者数が増加した理由をどのように分析しているのか」という点。
警察庁の回答は「一概には言えませんが、50代以降の自動二輪車の需要増加が背景にあると思われます」。50代以降のライダーが増加したために事故が増えたのは当然と言えば当然だろう。
より詳細が知りたいところだが、同時に自動二輪車乗車中の事故における年齢別の統計を請求したので、こちらで明らかにしたい。項目に関しては、事故類型、道路形状、免許歴、排気量などをリクエスト。前述の統計では不明だった「事故を起こしたライダー像」が見えると思ったからだ。結果、これらの統計を全ていただくことができた。
そして明らかになったのは、自動二輪乗車中の第一当事者による交通事故件数だ。
2021年における自動二輪乗車中の死傷者数は2万3437人と過去の統計で判明していたが、今回筆者が請求したのは、第一当事者(最初に交通事故に関与した事故当事者のうち最も過失の重い者)による自動二輪乗車中の交通事故件数。新たにその数が5993件とわかった。
死傷者数=事故件数ではないものの、ライダーの責任が重い事故のケースは全体の約4分の1。残りの4分の3は過失が軽い第二当事者だ。つまり車両相互の事故でライダーは被害者になるケースが圧倒的に多いと言える。
さんざん言われていることだが、バイクは生身をさらして走っているため、対クルマとの事故が起きた際は大きなケガにつながりやすい。また、バイクは見落としやすく、右直など交差点で対面した場合は距離感がつかみにくいことをライダーはもちろん、ドライバー諸兄も改めて覚えておいていただきたい。
20代では「追突」がワーストだが、50代では「車両単独での転倒」が最多に!
さて、ここからはライダーが第一当事者となった事故の詳細について分析していく。
まずは事故類型別(パターン別)の交通事故件数だ。年齢層別で見ると、20~24歳が822人と最多で、15~19歳の700人、50~54歳の657人、45~49歳が続く。30代から40代前半が少なく、その前後の年代で多い。
全年齢を通じて多いのは次の事故パターンだ。
・出会い頭(車両相互) 1114件
・追突(車両相互) 1107件
・転倒(車両単独) 900件
・右折(車両相互) 510件
・工作物衝突(車両単独) 341件(このうち「防護柵等」への衝突が145件と多い)
注目すべきは、20代と50代でやや傾向が異なる点だ。
20代では1336件のうち、下記がワーストとなる。
①追突290件(21.7%)
②出会い頭216件(16.1%)
③右折122件(9.1%)
④車両単独での転倒186件(13.9%)。
これに対し、50~54歳では1152件の事故が発生し、ワーストは次のとおり。
①車両単独での転倒213件(18.4%)
②追突190件(16.4%)
③出会い頭177件(15.3%)
④右折114件(9.8%)
若者でワースト4位だった「車両単独での転倒」の占める割合が増えてワースト1位に浮上し、「右折」の割合も若干増えているのだ。転倒に関しては、立ちゴケやUターンをはじめ、オーバースピードでのコーナリング、ブレーキの操作ミスでバランスを崩した等の理由が考えられる。
年齢に関わらず主に交差点で発生、排気量は50代に限れば大型の比率が高い
続いては道路形状別の事故件数だ。全年齢を通して最も多いのは交差点関連の事故で、全5993件中3013件発生。内訳は、「信号機のない交差点内」1392件、「信号機のある交差点」954件、「交差点付近」667件となっている。
次に多いのが「一般単路」の2141件。これは道路の直線区間で、事故パターンとしては追突や転倒などがここに含まれるのだろう。そしてワースト3は「カーブ・屈折」661件だ。
これに関しては年齢による傾向がほぼないように見える。50代に限れば、交差点等557件、一般単路430件、カーブ・屈折134件という結果だった。
また全年齢を通して排気量別の件数は次のとおり。
51~125cc 3017件
126~250cc 1619件
251~400cc 576件
401cc以上 781件(うち401~750ccは191件)
販売台数に準じた結果だが、50代に限るとこうなる。
51~125cc 632件
126~250cc 263件
251~400cc 52件
401cc以上 203件(うち401~750ccは41件)
他の年齢層と同様に51~125ccの原付二種が多いが、401cc以上の比率が圧倒的に増えるのが特徴だ。ハイパワーで重量のある大型を扱い切れていない一面があるのかもしれない。
――これらの統計を総合すると、50代以降のライダーによる事故は、他の年齢層より大型バイクの比率が多い傾向にあり、「交差点かその周辺で車両単独による転倒」が発生しやすいケースと考えられる。さらに交差点は「追突、出会い頭、右折」も要注意だが、直線での転倒と追突、カーブでの転倒も用心する必要がある。極論すれば、どんな道路でも気を抜けないということだが……。
免許歴と事故は関係ない? ベテランでも事故を起こしている
さらに、免許歴と事故件数の因果関係を見ていこう。自動二輪乗車中(第一当事者)の運転免許経過年数別の事故件数では、若者の場合、やはり免許取り立ての事故が多いものの、30代以上では免許歴10年以上の人も多く事故を起こしていることがわかった。
15~19歳では、免許歴1年未満の事故が最多の330件で、以降は事故件数が徐々に下がっていく。しかし、20~24歳では3年未満が最も多く、25~29歳では5年以上10未満が最多。それ以降の年代では「免許歴10年以上」が最も多くなる。
この統計では「10年以上」がひとくくりにされていることもあり、乗るのを中断していたリターンライダーかどうかも不明ながら、免許歴10年以上の事故件数がダントツで多い3548件となっている。
バイクの場合、免許歴が長いほど事故に遭いにくいとよく言われる。しかし実際は若年層を除けば、そんなことはなく、事故は起きる時は起きる。ベテランとはいえ、過信は禁物だ。
「50代以降は変化を自覚し、安全意識を高めることが大事」と警察庁
50代以降のライダーに事故が増加していることに対して警察庁にコメントを求めたところ、次の回答が得られた。
○自動二輪車に乗車する際には、交通法令を遵守するとともに、若い頃に比べ身体機能が変化していることを自覚し、自分の体力や技量に見合った無理のない走行を心がけることが大切です。
○警察や関係団体が実施する安全運転実技講習に参加するなどして、安全運転に関する技術や知識を再確認し、安全意識を高めていただきたい。
○自動二輪車乗用中の死者の損傷部位は頭部が最も多く、次いで胸部となっていることからヘルメットの正しい着用と、プロテクターの着用による被害軽減に努めてください。
交通事故はケースバイケースであって、傾向を見つけ出すのは難しい。とはいえ筆者も50代のライダー&ドライバーで、加齢による注意力や運動能力の衰えに自覚がある。警察庁のコメントのように、これを補うスクールや講習に参加するのも有効だろう。もちろんヘルメットと胸部プロクテクターなどで、事故に遭った際のダメージを少しでも和らげる努力も大事だ。
これらの手段はもちろんオヤジ世代に限らず、全てのライダーに有効。安全に末永くバイクを楽しんでほしい。
投稿 オヤジライダー事故急増の真相は自爆事故!? ワーストは「単独転倒」にあり! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。