2003年に初代モデルが登場したシエンタ。初代モデル途中で、一度休止期間が入り復活した、トヨタ車では珍しい経歴のクルマである。現行型は2代目で、2015年に登場し、約7年が経過。そろそろ、フルモデルチェンジがささやかれる時期となった。
コンパクトボディに3列シート、そしてスライドドアを備え、多目的に使えるシエンタは、トヨタ販売店にとって、どのような存在なのだろうか。また、登場が待ち遠しい新型シエンタに期待することを考えていく。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、HONDA、ベストカー編集部
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コンパクト! ワゴン! ミニバン! 様々な売り方が出来るシエンタの姿
ホンダのモビリオを後追いする形で生まれたシエンタ。初代モデルのボディサイズは全長4100mm×全幅1695mm×全高1670mmと、非常にコンパクトだった。全長4100mmのなかに、2×3×2の7人が乗車するスペースを作り出す、多人数乗車のクルマとしては希少な存在だ。
現行型アクアの全長が4050mm、カローラースポーツが4375mmだから、シエンタの全長がどれだけ短いものだったかがわかると思う。少々大きくなった現行型でも、シエンタは全長4260mm、全幅は5ナンバーサイズギリギリに収めているのだ。このスタイルは、小さなクルマ造りの、優等生といえるだろう。
運転のしやすいコンパクトカーでありながら、充分な積載量を持つワゴンにもなる。さらに多人数での移動をするミニバンになるなど、シエンタに与えられる役割は多い。多様化するユーザーニーズを一手に引き受け、幅広く勧めることができるシエンタは、トヨタ販売店にとって、役立つユーティリティプレーヤーなのだ。
7にこだわり、7を追う
シエンタという名前は、スペイン語で数字の7を表す「Siete(シエテ)」と、英語で楽しませるという意味をもつ「Entertain」の組み合わせから生まれている。故に、シエンタの7に対する意識は強い。
初代モデルは一貫して7人乗りを守り続けた。現行モデルでもFAN BASEという5人乗りグレードは別枠で設け、標準モデルでは7人乗りだけを展開するこだわりようだ。ライバルであるホンダのフリードは、5・6・7名乗車の3パターンで支持を広げるなか、シエンタは「7人」にこだわり続けた。
正直、5人までの乗車であれば、ルーミーを選べばいいし、2列目にキャプテンシートが欲しいならノア・ヴォクシーだってありだろう。トヨタラインナップのなかでは、シエンタが乗車人数のパターンを広げる必要はなく、足りない部分は仲間が補ってくれているというわけだ。
シエンタが7にこだわるからこそ売れることを、販売現場も知っている。シエンタだからこそ刺さる家族構成や年代があり、そこに対してトヨタディーラーもこだわりを持って売っているのだ。
2022年の乗用車ブランド通称名別順位では、10位にフリード(6万9577台)、13位にシエンタ(5万7802台)と、フリードに後れを取ったようにも見えるシエンタがだが、ルーミーやノア・ヴォクシーが補完的役割を果たしていることを考えると、約4000台という差は、あってないようなものにも思う。
ユーティリティプレーヤーではあるが、ここぞというときに売っていきたい、奥の手の側面ももつシエンタ。こだわりのあるクルマは、販売店からも大切にされ、長く愛されるクルマになる。
フリードまであと少し! 新型はココを攻めろ!
それでもライバルと目されるフリードに、販売台数でも勝ち、圧倒的な勝利をつかみ取りたいところだ。そのためには、そろそろとうわさが立つ新型で、修正したい部分が2つある。
まずは、ガソリンエンジンモデルのパワーアップだ。1.5Lエンジンを積み込むのはシエンタもフリードも同じだが、動力性能で余裕があるのはフリードとなる。シエンタの1NZエンジンは最高出力54kW(74ps)で最大トルク111Nm、対するフリードは1.5Lのi-VTECを搭載し最高出力95kW(129ps)で最大トルク153Nmを誇るのだ。
数値の差以上に、実際にドライビングすると、出足の鈍さ、巡行からの再加速などでパワー不足を感じるシエンタ。お世辞にもアクセルペダルを踏み込んで「気持ちいい」とはならないのである。多人数乗車をするうえでも、エンジンパワーは必要な要素だ。オーバースペックのエンジンは必要ないが、必要充分だと感じるレベルまでは引き上げたいところである。
新型では、多少燃費を犠牲にしても、しっかり走れるクルマに仕上げて欲しい。FAN BASEのようなアウトドアユースを足掛かりにするクルマがあるなら、なおのこと、動力性能に対する目は厳しくなるはずだ。
もう1点は、シートバリエーションを挙げたい。7にこだわりたいと前述したものの、2列目のキャプテンシートに対するユーザーニーズが高いことも事実。フリードの販売が6人乗り中心で進んでいることでも明らかなように、前席から3列目までウォークスルー出来る、2列目キャプテンシートは、このサイズのミニバンとして必須の装備になりつつある。
しかし、ベンチシートの方が面積を広く使えて、便利な点も多い。7人乗りにこだわり、ベンチシートを残すというのなら、座った際の体の収まりだけでも改善したい。アームレストや座面の長さを調整すれば、独立シートに近いホールド感を、ベンチシートでも作り込めるだろう。
シエンタは、座りやすく立ちやすい座面の高さや、誰でも乗りやすいステップ高を実現する。乗降性だけを比べれば、シエンタはフリードよりもレベルが高い。2列目の居住性が高まれば、フリードが突いてくる隙は、ほとんどなくなると思う。
2021年登場したアクアや、SUVで爆発的に売れたヤリスクロスなど、最近のトヨタコンパクトラインナップは調子が良い。特に、現行シエンタが守り続けた2015年からの7年間で、バイポーラニッケル電池を使ったハイブリッドシステムや、ダイナミックフォースエンジンなど、シエンタの弱点を補って余りある技術が、大きく育っている。
これらの新技術を搭載し、こだわりにこだわり抜いたシエンタが、新型モデルとしてそろそろ登場するのではないだろうか。期待を大きく膨らませながら、その登場を待っていたい。
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