再びアルファロメオ
今回は再びアルファロメオを採り上げたいと思う。アルファロメオは、本稿「Vol. 5」でも紹介済みであるが、その際に紹介しきれなかった車種を楽しんでいただければと思う。ご存知の通り、アルファロメオは、創業112年を迎える歴史ある自動車メーカーである。したがってこれまでに発表されたモデルは非常に多数であり、魅力的なクルマも数多い。そんなアルファロメオには、ファンも多いが、何を隠そう、実は私もそのうちのひとりなのである。
「Alfa Romeo 1750cc ZAGATO」 エレール製 1/24
最初に「アルファロメオ1750cc ザガート」を紹介したい。1920年代末のアルファロメオは、それまで第一に〝高出力″で高性能な車両を理想としたクルマ作りを行ってきた。しかし方向性に変化を持たせて、〝高品位″で高性能なクルマを目指したのである。その結果、ボディサイズ、エンジン排気量をダウンサイジングさせた6C 1500~1750、8C 2300が誕生した。(6Cとは6気筒であり、1750は排気量を表している)。なお、エレール製のキットは6C 1750である。
6C 1750は非常に高価で、イタリアでの価格は4万~6万リラのプライスが付けられた。それは当時のイタリア人の平均年収の7年分に相当したが、一部の富裕層からは歓迎されたのである。また性能も非常に優れており(最高出力102ps/5000rpm 最高速度170km/h)、特に「6C 1750 Gran Sport」は1930年のミッレミリアでは「ワン・ツー・スリー・フィニッシュ」を成し遂げ表彰台を独占した。
この美しくレース界でも大活躍した名車をエレール(仏)がモデル化した。このキットは発売開始後40年以上経過していると思われるが、部品総点数は110と、パーツ数からは現在でも十分に精密スケールカーモデルと言える。
パーツにはバリ(パーツ周辺に余分なプラ材が成型されている)も無く、パーツ同士の合いも比較的良好である。しかし、そうは言っても古いエレール製のキットである。製作には若干のコツは必要だ。特に仮組み(接着する前にパーツを仮に組んでみて、確認してから接着する)は必須である。また「焼き止め」(熱したドライバーなどでパーツの一部を溶かして止める技法)という今ではあまり使われないテクニックも駆使しなければならない。それでも親切で分かり易い組立説明書には製作を助けられる。また当時としては珍しく塗装する際のカラー指定も詳細に説明されている。
「Alfa Romeo 1933」 エアフィックス製 1/32 (車名:アルファロメオ8C 2300)
アルファロメオ8C 2300は、前項で紹介した6C 1750グランスポルトの後継車となるべくヴィットリオ・ヤーノにより開発された。6C 1500~1750はレースでも大活躍したとはいえ、基本的にはツーリングカーから発展したスーパースポーツであった。しかし8C 2300は最初からレース活動を主眼として設計されたモデルであった。その特筆すべき結果は、ル・マン24時間耐久レースに参戦し、1931年から4年連続の優勝を達成したことである。また、そればかりではなくミッレミリアなどでも優秀な結果を残したのである。
さて、エアフィックス(英)製のキットであるが、まず商品名である「Alfa Romeo 1933」に違和感を持たざるを得なかった。通常カープラモデルの商品名は車名であるから、このキットは「Alfa Romeo 8C 2300」となるはずである。なぜ車名でなく年式としたのか、理解できない。エアフィックス流なのか?私はカープラモデルについては主に1/24スケールを製作してきた。1/32スケールはなんとなくスケール感に欠ける、という思い込みがあり食わず嫌いだったのだ。
しかし本作を製作したことで、この先入感は払拭された。パーツ総点数だけでキット内容を計れるわけでは無いが、本キットは106ものパーツで成り立っているのだ。単純な比較は出来ないが、前項の6C 1750のそれは110でありほぼ同数である。しかも製作もストレス無く進められる。感覚的には前項の6C 1750の製作時間の半分程度で済んだ印象である。残念ながら、エレール製の6C 1750もエアフィックス製の8C 2300も現在は絶版中である。また関連付けて言えば、日本のメディアはアルファロメオのヒストリックカーは1960年代のジュリアの紹介が中心で、それ以外は寂しいものだ。このようにアルファロメオの黄金期は6C、8C時代にも存在したのだ。話は変わるが、私は知人が所有する8C 2300に同乗させて頂いたことがある。貴重な経験で数年経過した今でもはっきりと思い出せる。
まずは6Cよりも多少、大型化されたフォルムの美しさに魅了された。オーナーに「同乗してみませんか?」と問われた時には我が耳を疑った。勿論、「はい。お願いします。」と返答したが、同時に緊張感で身が引き締まった。ナビシートに乗せて頂き、一般道を走り出した。山道に差し掛かった頃に「ちょっとだけアクセルを踏みますよ」という声が聞えた、と思った途端にエンジンの振動と排気音が高まった。素晴らしい加速感だった。約90年前のイタリアのレース界のトップであったレーシングカーに乗れた、という経験は全く感慨深いものであった。1時間弱の同乗であったが、仲間たちからは当然羨ましがられた。暫くは同乗体験を思い出す度にニンマリとしてしまった。
「アルファロメオ ジュリア スプリント GTA」タミヤ製 1/24
第二次世界大戦後のアルファロメオは本格的な量産メーカーとして生まれ変わるべく、1950年に1900シリーズ、1954年には1900を小型化したジュリエッタシリーズをデビューさせ成功を収めた。そして1962年には後に大ヒットとなったジュリアシリーズを発表するに至った。
ジュリエッタの姉という意味からネーミングされた、このシリーズ中でも特に人気を集めた車種が1963年に発表されたスポーティーなジュリア・スプリントGTであった。ジウジアーロによってデザインされた美しいクーペは高性能を誇ったが、1965年には更なる高出力エンジンを搭載し、かつ軽量化を施したGTAを発表した。(GTAのAはAllegeritaライトウェイトの頭文字)そしてGTAは1966年から1969年までの4年間、ヨーロッパツーリングカーレースのチャンピオンの座を勝ち取ったのである。
前項でも記述したが、ヒストリックアルファロメオといえばジュリアシリーズであり、その中でもGTAは注目される存在である。このGTAをタミヤとグンゼ(現クレオス)が1/24スケールでキット化して好評を博した。本作はタミヤ製であるが、いわゆる「タミヤスタンダード」と呼ばれる高品質なキットである。
しかし製作後の印象を言わせてもらえば、リアガラスがボディと密着しないというタミヤらしからぬパーツ成型である。また私感ではあるが、ボディのフォルムに多少ボリュームが不足しているように思われる。やはりいつも高水準のキットを発売するタミヤ製のスケールカーには厳しい目を向けてしまうのか、気になった点を敢えて上げさせて頂いた。
「ブラバム BT-46 アルファロメオ」タミヤ製 1/20(写真の箱絵はブラジル販売版)
「ブラバム BT-46 アルファロメオ」はアルファロメオエンジンを搭載し、1978年のシーズンを活躍したブラバムチームのF-1マシンである。鬼才ゴードン・マレーが設計した三角形断面の美しいボディには、他チームではフォードDFVエンジンを搭載していた中、アルファロメオの水平対向12気筒エンジンが搭載された。
エースドライバーにニキ・ラウダを迎え、セカンドドライバーにはジョン・ワトソンとしたブラバムチームは第8戦のスウェーデンGPで優勝し、常に上位争いに加わるなどの活躍を見せた。タミヤの1/20「グランプリコレクション」は1977年4月に「タイレルP34シックスホィーラー」を発売後、当時のF1マシンを中心にラインナップした。本作はシリーズ中のF1マシンとしては5作目であるが、驚くべきことにそれまでの4作はモーターライズされていたのだ。折角、綺麗に製作したF1モデルを走らせたら壊れてしまうように想像されるが、その頃のカープラモデルは走らなければ売れない時代だったのだ。
このブラバムはモーターライズの呪縛から解かれた、初のキットとして1978年9月に発売された。発売直後に私はこのキットを購入し製作した。当時、大人気のニキ・ラウダがドライブしたカーナンバー1として。そして最近はカーナンバー2のジョン・ワトソン仕様として製作して並べてみた。さすがに40年以上以前の完成品は保管状況も良くなかったこともあり、汚れてしまっている。それでも今、見ていると当時の製作時の苦心などを思い出す。付属しているビニールコードが太くて、ディストリビューターになかなか挟み込めなかったのだ。したがって最近作では付属のビニールコードより細いアフターパーツを使用したことでスムーズに製作出来た。
どうやら私は昨日の夕食のメニューはなかなか思い出せないのに、40年以上以前のプラモデル製作で苦心した事柄は思い出せる、という年頃になってしまったようだ。
「プラモデル」or「ミニカー」
好きなクルマをミニチュアとして手元に置きたい、という願望などから私たちはプラモデルあるいはミニカーを手に入れるのだと思う。ミニカーであれば完成品として店頭にあるのだから、そのままの姿で手に入れられる。しかしプラモデルの場合は違う。店頭では箱絵を見て、あるいは箱を開けられてもパーツを眺めて完成後の姿を想像するしかない。しかも自分に上手に完成させられるか、というハードルも越えねばならない。意を決して、手に入れたキットの製作を開始するわけだが、私はこの瞬間はプラモデルに命を吹き込んでいるのだと思う。箱に入ったバラバラのパーツがクルマになってゆく様子は、苦心しながらも楽しい時間である。
だから製作を開始したキットはどんな形でも完成させたいと思う。完成後、多少の失敗した箇所が目立つこともある。しかしそれが自分流であり、次回作に期待してしまうのだ。どんな風に完成するか、は全て自分次第である。
Text & photo: 桐生 呂目男