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内閣府が主催する「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」で、参加した社会学者が恋愛支援の重要性を説く中で、「壁ドンを教育の中に組み込んでは」と提唱したことがネットで物議を醸している。

acworks/PhotoAC

同研究会は「未婚・単身世帯の増加、平均初婚年齢の上昇、 離婚件数の増大」など、日本の家族の姿が近年大きく変化していることを踏まえ、少子化や男女共同参画の政策課題を把握するために昨年4月に設置。これまで11回の会議を開いて有識者らからヒアリング。昨年12月には、「婚活」という言葉を提唱した一人として知られる社会学者の山田昌弘・中央大教授もプレゼンに登壇した。

しかしマスコミでの注目度は高いとは言えず、研究会の動向は内閣記者クラブに加盟する新聞、放送局など大手メディアでは話題になっていなかった。そうした中、突然脚光を浴びたのは、大手ネットメディア、ビジネスインサイダー(BI)日本版が13日に「壁ドン」の話題を報道したのがきっかけだった。

BIはビジネスメディアだが、本家アメリカでは社会問題についてはハフポストと並び、穏健左派の論調として知られる。実際、日本版の初代編集長は、朝日新聞社のアエラ元編集長が務めた。

壁ドンの記事を書いたBIの女性記者もアエラ出身で、ご多分にもれず、ツイッターのプロフィール欄でフェミニストを自称する“筋金入りだ”。早速その問題意識そのままに筆を振るい、「壁ドン」を恋愛教育に取り入れることを批判する女性有識者のツイートを引用したかと思えば、返す刀で「壁ドンは相手に威圧感を与え逃げ場を奪うことから、デートDVチェックリストの項目に入っています」とネット民の声を紹介した。さらに本人の筆致部分でも「セクハラやパワハラにもなり得るだろう」と前のめりに追及した。

記事は大手メディアが持つ配信網の強みを発揮し、ツイッターではおすすめモーメントに入って拡散。ヤフーニュースでもコメントが続々と書き込まれ、サイト本体の記事も14日昼時点で、公表中のアクセス数が12万を超えるなどの反響を呼んだようだ。

東京・霞が関の内閣府庁舎(fujikiseki1606/PhotoAC)

「官製婚活」言及も惜しい記事

ただ、フェミニズム文脈を先行させてバズらせた分、公金を使って行うべきかはポイントとしてはやや弱くなった感がある。

記者自身はツイッターで「『官製婚活』そのものを見直す時期にきている」と提起しておきながら、「「本当に結婚を支援したいというのなら、社会保障や教育への公的支援を充実させて若者が安心して結婚生活が送れる社会を作るべきだ」というネット民の声を太字にしていた(太字部分はオリジナル記事と同箇所)。小さな政府的な発想というよりは、あくまで公助重視の大きな政府寄りの視点にあって、“投資先”を自らのフェミニズム的価値観で吟味しているようにも感じる人もいるのではないだろうか。

実際、ヤフーニュースのコメント欄では200以上の投稿(14日17時時点)があったが、一般人のコメントの上位を見ても

国として出来ることはなんじゃろという観点でもないし現実的でもなければ壁ドンと恋愛の相関を示したわけでもない

「前例主義」「画一的」な公的機関が恋愛や結婚に対して何か支援しようなんて無理がある気もする。

将来不安や、生活基盤、経済問題など適齢期の人達が恋愛や結婚に踏み出せない根本的な問題を直視して解決しない限り、この類の問題は解決することはありません。

などと「壁ドン」を研究会で話題にすることや「官製婚活」への疑問は相次いだものの、

「前例主義」「画一的」な公的機関が恋愛や結婚に対して何か支援しようなんて無理がある気もする。できるとしたらせいぜい減税。

というような公的投資の視点から減税を訴えた声は少数派だった。

社会学者による「壁ドン」教育提唱の中身の妥当性と、税金で運営される研究会としての妥当性がない混ぜになった感もあるが、いずれにしても小さな政府の論者から見た場合、「壁ドン」の話以前のことで、こうした「官製婚活」事業は無駄遣いなことこの上ない。

減税派のインフルエンサーで、早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「同研究会は税金で行われております。税金は余っています」と指摘した上で、「政策の大義名分と実質が異なる見本。このようなアホ事業も大義名分では少子化対策として、社会保障関連に入ってくることになります。円グラフや棒グラフではなく、少し解像度を上げるだけで、役所が主張する予算不足など戯言に過ぎないことが分かります」との見方を示していた。