自民党のNFT政策検討プロジェクトチーム(PT)が3月末、「Web3.0」を成長戦略の柱に据えるという意気込みで提起したホワイトペーパーは、どちらかといえば、永田町の定住者である政治部の記者たちより、デジタルエコノミー系のメディア、あるいはその読者であるNFTユーザーなどの関心を集めた。
SAKISIRUでも一時、週間ランキングの中位に入るほどの関心を持たれたが、今回の政策づくりを主導した議員たちの発言をウォッチしているうちに、議員立法の新しい方向性、ひいては党派を問わず、政策づくりのこれまでにない可能性を示したように感じ始めた。
異例の弁護士ドリームチーム
筆者が最初に「これは普通の政策づくりでは全くない」と驚いたのは、関係者のSNSにアップされた画像を見た時だった。自民党の会議室に居並ぶ、若い精悍なオーラを漂わせる異質の4、5人ほどの集団が写っている。今回のホワイトペーパーの実働部隊の中核を担った弁護士チームだという。
しかもただの弁護士ではない。彼らのいずれもがブロックチェーンや仮想通貨などデジタルエコノミー案件の法務を実践で知り尽くしている。その1人が増田雅史氏。4大法律事務所の一角である森・濱田松本法律事務所に所属、金融庁のブロックチェーン関連法制にも携わった第一人者だ。
特定の案件でトップクラスの弁護士を多数集めて政策づくりに携わる事例など前代未聞だ。通常は議員立法といえども役所の人材が黒子として動員される。PT座長の自民党の平将明衆院議員に経緯を聞くと、「WEB3全体を見渡して、ペーパー書ける役所や役人がいなかったので、議員と外部弁護士チームでつくるしかなかった」と振り返る。当該問題について詳しい人材が霞が関にいないという事情が、逆に思わぬ形でのチームビルディングを生み出したわけだ。
増田氏クラスの弁護士を何人もアサインするだけでも大変だが、引っ張り込めたのは昨年初当選した塩崎彰久衆院議員の弁護士時代のネットワークが発揮された。塩崎氏といえば厚労相、官房長官を歴任した恭久氏の長男。実は筆者個人は、塩崎氏に対し、2世議員ということや自民党所属にしては安保などでややリベラル寄りな考えで微妙に感じている部分もあったのだが(塩崎さん、ごめんなさい)、日経新聞の「弁護士ランキング」で上位に何度も選ばれたのは伊達ではなかった。
ただ、塩崎氏の能力や人脈だけではない。弁護士チームが誕生した大きな要素には「彼らもクライアントからいろいろな相談を受けて途方に暮れていた」(平氏)という。やはり実務上切迫していた事情がPTへの参画を後押しした。
実務家と問題意識をリモート共有
「事務方」は最強チームが担ったことに加え、もう一つ興味深い裏舞台があった。「コロナのDXの象徴的な現象」と平氏が振り返るのは、WEB3.0業界の起業家などインフルエンサーたちとリモートで協働できたことだ。平氏のツイートを見た彼らとフェイスブックで繋がり、メッセンジャーで連日議論を行なって、「網羅的に最先端の問題意識をカバーすることができた」という。
平氏らに現場の実情を訴えてきた1人が26歳の起業家、渡辺創太氏。ブロックチェーンでWeb3.0の実現を目指す企業、ステイクテクノロジーズのCEOだ。
日本のいまの税制は、トークンを発行した際、現金化されているわけでもないのに時価評価で課税してしまうため、この分野のスタートアップが日本で事業することを断念し、海外に拠点を移し始めている。
渡辺氏自身も日本での起業を断念し、シンガポールでローンチ。仮想通貨やトークンの時代に合わなくなった日本の税制の“被害者”の1人で、今年1月にはツイッターで「本当は日本でローンチしたかった」と投稿し注目された。そうした当事者からの気づきや貴重な体験を提言に盛り込むことができた。
議員立法の新たなあり方
今回は政策提言という形をとり、今後の具体的な法案化に向けた詰めは霞が関で行うことになるが、自民党のイノベーション政策のみならず、他の分野、あるいは他党も含め“議員立法”のあり方として示唆することは多かったのではないか。「変化の激しい時代の新しい政治の形」と平氏。政治や行政側がよく知らない新しい政策課題にスピーディーに対応する上で、官僚に依存せず、政治家が主導して民間の頭脳を駆使。ネットを使えばリモートで、地方や海外にいる人材からも幅広く知恵を結集することは可能だ。
日本の議員立法を強化するには制度的な課題は少なくない。民間の頭脳を使いやすくと言っても手弁当で来てもらうには限りがある。特に資金力でも劣る野党はそうだろう。イギリスは政党間競争を促進するため、野党に対する公的助成金も充実している。政策づくりに公的リソースを使いやすい与党との格差が大きくなりすぎないように配慮しているわけだ。
これに対して日本の政党助成金は、議席数に応じて配分が決まる「勝者優先」の思想設計だ。そのあり方を抜本的に見直すのは難しいだろうが、野党も民間の頭脳をうまく使いやすくすることで建設的な対案づくりを促すように、公的助成のあり方を再検討する余地があるのではないだろうか。コロナ禍に入ってからひと頃、自民党の若手で盛り上がっていた国会改革の機運が萎んだ感もあるが、霞が関で若手の退職者が続出する人材の先細り、政策課題の高度化・複雑化という時代の変化を考えても、政党の政策立案機能を強める意味は小さくあるまい。