2022年3月31日、インドネシアの首都ジャカルタで開幕したインドネシア国際モーターショー。このなかで、トヨタ・アストラ・モーター(トヨタ自動車のインドネシア販売会社)が、新型BEV(電気自動車)を発表している。
東南アジアやインドで販売されているキジャン・イノーバのBEV版が「イノーバEVコンセプト」だ。新興国向け世界戦略車として位置づけられたEVミニバンは、どのような役割を持つのだろうか。日本市場への影響を含めて考えていく。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA
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トヨタIMVプロジェクトの旗艦車種「イノーバ」
イノーバの現行モデルは2004年に誕生している。キジャンという東南アジアやインド、南アフリカ等で販売されていた多目的車の後継モデルとして生まれた。先代となるキジャンは、1976年から販売されている、歴史の深いクルマだ。
「2010年までにトヨタが世界市場の15%を獲得する」というコミットメントの、グローバル15における主要プロジェクトの1つであり、新興国市場をターゲットにしたものがトヨタIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)プロジェクトである。
このプロジェクトでは、1つのプラットフォームから5車種を展開した。イノーバは、そのうちの1車種であり、ミニバンの役割を付与されている。
イノーバには、日本のミニバンにはみられない特徴がいくつかある。
シャシーは7代目ハイラックスと共用するラダーフレームを用いた。リアサスペンションにリーフ式を採用し、駆動方式はFRだ。クルマに頑丈さとパワーが求められる新興国市場向けとあって、トラックやクロスカントリー車向けのシャシーに、乗用車のボディを乗せたような仕上がりになっている。
ボディは5ドアハッチバックの形式となり、リアドアはスライドドアではなくヒンジドアを採用。全体的な雰囲気としては、1998年に日本市場で登場した「ガイア」に近い。
東南アジアで長年愛されてきたイノーバに、BEVのコンセプトモデルを誕生させた。このクルマは、新興国でBEVを広げるきっかけとなるのだろうか。
海外トヨタにおけるEVの出発地点
イノーバの生産はインドネシアとインド、台湾で行われている。トヨタ生産方式を現地へ持ち込み、生産から販売まで日本の力を加えずに、新興国だけで完結するクルマだ。このようなクルマがBEV化されることは、自動車市場全体のBEV化を大きく加速させることにもつながるだろう。
自動車の電動化技術を積極的に取り入れているインドネシアでは、HEVやPHEVを含め、これまでに11モデルの電動車を販売してきた。販売台数は5800台を超え、約1万5000トンの二酸化炭素排出量削減に貢献している。
また、2021年4月からは、バリ州ヌサドゥアの観光エリアにおいて、EVスマートモビリティプログラムがスタートした。トヨタが、観光客向けの電動車として、トヨタCOMS(BEV)やプリウスPHEVなど、30台の電動車を提供している。
イノーバEVコンセプトは、こうした電動化への取り組みを、非日常域から日常へ広げていく。「特別な車」と称されたイノーバEVコンセプトは、今後の新興国自動車市場の方向性を、決定づける1台となっていくはずだ。
イノーバEVコンセプトがもたらす日本への影響
イノーバは登場から長きにわたり現地で愛されてきたが、これまで日本導入がささやかれたことはない。ラダーフレームを用いたミニバンは、日本では希少な存在だ。しかし、機能性や快適性に目を向けると、日本国内のニーズを満たすクルマにはなっていない。
イノーバEVコンセプトについても、新興国市場に限った展開が予想され、欧州や北米、日本市場への導入はないと考える。しかしながら、先代ハイラックスのプラットフォームを用いてBEV化されたことは、今後のトラック(ピックアップを含む)車両へ、技術の広がりが期待できるものだ。
bZ4X、レクサスRZと、新たなBEVを続けて発表してきたトヨタ。今後BEVラインナップは乗用車のみならず、商用バンやトラックにも広がっていく。ここで、イノーバEVコンセプトにより培われた技術が、役に立つだろう。
日本ではSUVからスタートしたトヨタBEVだが、今後セダン・コンパクト・ミニバンなどに広く普及していく。仕様が大きく違うため同様にとはいかないものの、BEVミニバンの先陣を切ったイノーバの存在は、良いお手本となるのではないか。
BEVならではのパワー、そして静粛性などは、ミニバンを作る上でも好都合だ。今後、国内市場にはイノーバEVではなく、e-TNGAを使った新型BEVミニバンが投入されていくだろう。
トヨタによる世界を舞台にした、壮大なBEV計画はまだ始まったばかり。今後、各地で培われた技術が結集し、大きな成果となって現れるはずだ。そのときを、期待して待ちたい。
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