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中国EVの全世界を見据えた大攻勢がはじまった トヨタ ホンダ 日産… 国内メーカーはどう受けて立つ??【第2回/全4回】

 現在の世界の大潮流である“脱炭素”。その波に見事に乗ったのがBYD、中国のNEV(新エネルギー車)市場でトップに立つ企業だ。

 トヨタと合弁し新戦略を立てているこのBYDが躍進する前、中国は国をあげてNEVを次世代産業のひとつの核として据えて動き始めていた。

 それが2010年だ。そこからわずか12年。現在の“NEV大国”となった礎とは何か?

 中国のEV戦略について、全4回でお届けする『ベストカー』本誌による短期集中連載の第2回。

※本稿は2022年3月のものです
文/近藤大介、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年4月10日号

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■「電動汽車」の購入者には、最大で6万元(約110万円)の補助金

「電動汽車」(EV=電気自動車)という中国語を私が初めて聞いたのは、2010年のことだった。

 当時、私は北京の日系企業の現地代表を務めていて、北京夏季オリンピック・パラリンピック(2008年)と上海万博(2010年)を終えた中国が、どんな産業政策に向かうのかを注視していた。

 そんななか、ある中国国内向けのシンポジウムに参加したら、「2021年フォーチュン・グローバル500」(世界500大企業)2位で中国最大の国有企業、国家電網(ステイト・グリッド)の幹部が、こう述べた。

──来年(2011年)から始まる『第12次 5カ年計画』では、『電動汽車』を中心とする『新能源汽車(NEV=新エネルギー車)』を、次世代の目玉産業のひとつに据える。

2年前(2008年)の秋、財政部など経済官僚や、清華大学を始めとする学者、それに関連する国有企業の関係者たちが西郊賓館(北京市海淀区)に集結して、次世代の自動車産業について討論した。

その結果、中国が主導して10年後には『電動汽車』が、いまのガソリン車に取って代わるよう自動車業界を再編していくとの結論に至った。

そこで、中国政府は『電動汽車』の購入者に、最大6万元(約110万円)の補助金を出すことなどを決めた──。

中国の巨大都市、上海。2010年、「上海万博」を終えた中国は「次世代の目玉産業」へと動きだした

■2010年時点で、次世代の自動車産業の方向性を定めた中国

 私は、話を聞き間違えたかと思った。『電動汽車』など当時、北京のどこにも走っていなかったからだ。

 それでシンポジウムの終了後に、発言した国家電網の幹部のところへ行って、いろいろと質問を浴びせた。すると彼は、「では後日、弊社に案内しよう」と言ってくれた。

 お言葉に甘えて、北京北郊にある国家電網の研究所にお邪魔した。すると正門を入って左手に、「中国電力科学研究院電動汽車充電站」と書かれた、ガソリンスタンドのような白い建造物が見えた。

「これは最近、完成したばかりの中国第一号の『電動汽車』の充電スタンドだ。10年後には、中国のいたるところにこれが据えつけられ、既存のガソリンスタンドに取って代わるだろう。われわれ電力業界が、次世代の自動車産業の主要な一翼を担うことになるのだ」

 私は、眼前にある充電スタンドという「証拠品」を目の当たりにしても、まだ半信半疑だった。

 だが中国は確かに、2010年の時点で、次世代の自動車産業の方向性を定め、実際に充電スタンドを作っていたのだ。

■世界の自動車業界の「再編」それを読んでいたのがカルロス・ゴーン

 この時から、EVに興味を持って調べていくと、「裏の仕掛け人」が浮かび上がってきた。

 それは、2018年11月19日に、東京で電撃的に逮捕されることになるカルロス・ゴーン日産ルノーグループ会長だった。

 ゴーン会長が、胡錦濤政権の幹部たちに、「EVシフト」を強く勧めているというのだ。

 当時、ゴーン会長は、年に何度も訪中していた。そこで訪中しているある時、ゴーン会長が内部向けに行った講演会に入れてもらった。

「中国の社会主義は素晴らしい。政権が安定していて、5年ごとに経済計画を発表するので、ビジネスの計画が立てやすい。

『第12次5カ年計画』(2011〜2015年)の産業政策の目玉は、NEVだ。われわれはこれを商機到来ととらえ、明確に中国の計画に沿ったビジネスを進めていく。

まもなく世界最大の市場となる中国で『自動車革命』が起これば、それは世界の自動車業界を再編する動きになるだろう」

 日産が、2010年に世界初の量産EV『リーフ』を販売したのは、こうした背景があったのだ。

 実際、胡錦濤総書記から習近平総書記にバトンタッチする4カ月前の2012年7月、中国国務院(中央政府)は、「エネルギー節約とNEV産業発展計画」を発表した。

 EV、PHV、FCV(燃料電池車)を合わせたNEVの保有台数を、2020年に500万台にするという気宇壮大な目標を掲げたのだった。

■1日の新車登録台数が5000台を突破。2010年、北京市民は買い漁る

 前回述べたように、中国がガソリン車からEVに方向転換した最大の理由は、いくらガソリン車の性能向上を図っても、日米欧を超えるレベルのエンジンを作れないと結論づけたからである。

 だが当時、北京に住んでいた私の肌感覚では、もうひとつ、切実な大気汚染問題を解決したいという事情もあった。

 2010年のクリスマスイブの日、北京の1日の新車登録台数は、ついに5000台を突破した。猫も杓子も新車を買い求める時代が到来したのだ。

 東京都の昨年の1日平均の登録台数は575台なので、その10倍近いクルマが、北京の街で日々増えていったことになる。

 そのため、街中にクルマが溢れ、大通りはむろん、「胡同」(フートン)と呼ばれる路地裏まで大渋滞をきたした。レストランに予約の電話を入れる前に、近くの駐車場に予約を入れないといけなかった。

 石炭の産地オルドスから北京へ向かう200kmの道のりに、20日間もかかるという世界最悪の渋滞状況だったのだ。

 こうした事態は、世界最悪の大気汚染をもたらした。

 日本の環境省はPM2.5の数値が、35以内を「正常」と見なしているが、北京市環境保護局の計測器はそれの何十倍の「1000」を突破し、計測の針がふり切れてしまった。

 その頃の北京の大気汚染は、いま振り返っても恐ろしい。

 夜寝る時に、寝室の窓を閉め、カーテンを2枚重ねにして、空気清浄機を3台フル稼働させても、翌朝にはPM2.5の襲来に咳き込んで目覚める。

 出勤時の空は灰色に曇り、視界は数十メートルしかない。マスクをしても目、鼻、口、耳などが痛くなり、喉が腫れる。そのうち頭とともに、背骨や膝までズキズキして、歩行困難になってくる。

 中国政府は、こうしたかなりひどい大気汚染を解消する手段としても、EVへの転換を決めたのだ。

■2015年、初めての中国製EV。乗り心地は「還可以」(まあまあ)

 2010年の年末、北京市は全国に先駆けて、「治堵」(ジードゥ=渋滞緩和)政策を始めた。

 毎月の新車登録台数を2万台に制限し、ナンバープレートの末尾で曜日ごとに運転制限をかけるなどの措置を取ったのだ。そしてしばらくして、「『電動汽車』には制限をかけない」として、EVの普及を図っていった。

 私は2012年に日本に帰国した後も、年に何度か北京を訪れていたが、2015年の暮れ、北京首都国際空港までいつも出迎えてくれる友人の運転するクルマが変わっていた。

「6万元(約110万円)で小型の国産『電動汽車』を買ったんだ。これまでのホンダのSUVは、妻が子どもの学校の送り迎えに使っているよ。

1台目は日本かドイツのガソリン車、2台目は国産の『電動汽車』というのが、いまの北京っ子のスタイルだ。

『電動汽車』は政府から補助金は出るし、すぐにナンバープレートが取れて、道路の運転制限もかからない。充電スタンドも増えてきている。機能的にも、街中を走るくらいなら遜色ないよ」

2015年頃から北京を走るクルマが少しずつEVに変わっていったという。これはBYDのe2

 私はその時、初めてEVに乗った。ガソリン車と区別するため、ナンバープレートが緑色になっていた。

 たしかに、いつ抽選に当たるかしれないガソリン車のナンバープレート取得を待つより(自動車を買ってもナンバープレートを抽選で取得しないと運転できない)、手っ取り早く中国産EVを買う気持ちは理解できた。

 乗り心地は、トヨタのプリウスに比べたらいまひとつだが、軽快な感じで、中国語で言う「還可以」(ハイクーイー=まあまあ)。

■昨年の中国のNEV(新エネルギー車)販売数は352万台。全体の13%

 習近平総書記が第19回共産党大会を開く半年前の2017年4月、中国国務院は「自動車産業中長期発展計画」を発表した。

 そこには、「2025年に自動車強国になる」との目標が明示された。

 第19回共産党大会をつつがなく終えて2カ月後の同年12月、習総書記は「これから3年かけて、『3つの戦い』に完全勝利していく」と宣言した。

「3つの戦い」とは、貧困撲滅、大気汚染撲滅、そして金融安定である。

 実際、中国政府の強力なEVシフトとともに、都市部の大気汚染問題は、目に見えて解決していった。

200km先へ到着するのに 20日間もかかったという中国の大渋滞。当然これは大気汚染にも拍車がかかる(kichigin19@Adobe Stock ※画像はイメージです)

 私は、習近平時代の10年で最も評価するのが、あれほど中国の都市部を悩ませていた大気汚染を撲滅したことだと思っている。

 その何割かは、EVシフト政策の賜物だ。

 2020年から中国全土で新型コロナウイルスが蔓延すると、EVシフトにさらに拍車がかかった。

 それは、EVの価格が下がってきたこと、遠乗りをする機会が減ったこと、さらに、国産品購買運動が起こったことなどによるものだった。

 昨年の中国のNEV販売台数は352万台を超え、全体の13%まで伸びてきた。

 世界全体のNEVの約半数が中国で販売されており、その存在感は圧倒的だ。今年はいよいよ500万台を突破するとの予測も出ている。

 それとともに、さらに勢いを増し続ける「中国ブランドNEV」は、日本を含む海外にも着々と輸出を始めた──。

(全4回の第2回。第3回(12日(木)20時公開)に続く)

●近藤大介…1965年生まれ。東京大学卒業、国際情報学修士。講談社『現代ビジネス』『週刊現代』特別編集委員、編集次長。主著に『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(講談社現代新書)、『アジア燃ゆ』(MdN新書)ほか

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