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新型アルカナからルノーは変わる!? ハイブリッド大国日本でルノー独特の電動モデルはどう評価される?

 2022年5月26日より販売開始となる、ルノーの新型5ドアクーペSUV「アルカナ」。欧州市場では2021年3月より発売されており、2021年は約4万台(月間平均4000台)と、いま欧州で人気急上昇中という話題のモデルだ。

 コンパクトでエレガントなスタイリングと、F1で培ったノウハウを取り入れたハイブリッドシステム「E-TECHハイブリッド」を携えて、いよいよ日本デビューとなるアルカナにこの度、試乗させていただくことができた。

 試乗を通して分かったアルカナの実力と魅力、そして、ルノーの目指す日本市場の将来戦略について考えていこう。本記事最後には内外装をご紹介する動画もアリ!!

文/吉川賢一、写真/森山良雄、ルノージャポン

【画像ギャラリー】アルカナの内装に注目! ハイブリッドでもルノースポールの世界観は生きていた!!(12枚)画像ギャラリー


■独自開発した本格ハイブリッド第一号!! 市街地はほぼ電気のみで走行可能

ルノー アルカナ。4570×1820×1580(全長×全幅×全高)mm、ホイールベース2720mm、最小回転半径5.5m、最低地上高は200mm。215/55R18のタイヤを装着する

 日本市場ではメガーヌやキャプチャーなどが人気のルノーだが、欧州市場ではメガーヌ(Cセグハッチバック)やキャプチャー(BセグSUV)のほかにも、クリオ(日本名ルーテシア、Bセグハッチバック)やカジャン(日本未導入、CセグSUV)など、各カテゴリでメジャーなブランドを持っている。

 今回のアルカナは、CセグクーペSUVというちょっと珍しい新ジャンルで登場した。新たな顧客層を開拓したい、という狙いがあるのだろう。

 日本市場にやってきたアルカナは、R.S.ラインE-TECH HYBRID(税込429万円)の1グレード展開。駆動方式はFFのみでエンジン側に4つ、モーター側に2つのギアを持ち、電子制御でドッグクラッチをコントロールするマルチモードATだ。

 1.2kWh(250V)の駆動用バッテリーを搭載し、市街地ではほぼ電気だけで走行可能だという。カタログ燃費は22.8km/L(WLTCモード、市街地19.6、郊外24.1、高速23.5)だ。

 ボディカラーはブランペルエM、ブルーザンジバルM、オランジュバレンシアM、ノワールメタルMの全4色。ちなみに欧州市場では、1.3L直4ガソリンエンジンと補助モーターのマイルドハイブリッド仕様も存在する。

 アルカナは、エクステリアも独特だが、中身もかなり独特。日産とのアライアンスで開発した1.6L直4エンジンに、ルノーが独自開発したストロングハイブリッドシステム「E-TECHハイブリッド」が組み合わせられている。

 スタート時は100%モーターで発進、シチュエーションに応じてエンジンが始動し、モーターへの充電と駆動を行う。高速の合流などでパワーが必要な時は、エンジンとモーターの両方が駆動力となる。

 F1で実績のあるルノーが、そのノウハウを盛り込んだというE-TECHハイブリッド。「F1のノウハウ」とは、メインモーターとハイボルテージスターター兼ジェネレーター用モーター(HSG)、そしてエンジンを繋ぐトランスミッションに、電子制御のドッグクラッチを採用したこと。

 衝撃を吸収するクラッチやシンクロナイザーを持たないので小型軽量化が可能で、ダイレクト感に優れたフィーリングとなるが、衝撃や異音が出やすい。そうした特徴を、どこまで制御できているのか、そのあたりが今回の試乗の注目点だ。

■R.S.ラインらしさ全開!! 内外装の質感は高いがセンターモニターのサイズは少々不満

インテリアは黒を基調としながらも、各所に入れられたレッドラインがスポーティな印象。インパネ中央のタッチスクリーンはちょっと小さいか!?

 アルカナをひと目みた印象は「車高を上げたハッチバック」だ。最低地上高は200mmもあるため(エクストレイルと同じ)、SUVといわれればそうなのだが、セダンのような上屋のクーペSUV、というのは見たことがない。

 ただ、ルノーお馴染みのCシェイプのLEDヘッドランプとテールランプ、フロントバンパーの端にはエアディフレクターも付き、前後フェンダーやサイドシル下にも樹脂ガードを備えた佇まいで、ルノー好きの所有欲は十分に満たされるであろう。艶やかなバレンシアオレンジのボディカラーが実に眩しい。

 インテリアは、ルノー・スポール由来の「R.S.ライン」らしく、黒を基調としながらも、各所に入れられたレッドラインがスポーティな印象を与えてくれる。カーボン柄のダッシュボードも質が高い。

 10.2インチのフル液晶メーターの視認性はよいが、インパネ中央最上段にあるタッチスクリーンが7インチというのは、(欧州版には9.3インチの縦型 タッチスクリーンがあるのに)429万円という車両価格を考えると寂しい。ルノー担当者も苦笑いをしていたので、この点についてはこれ以上触れずにおこう。

■メカニカルサウンドはさすがF1のルノー!!

異音もなく滑らかに作動するトランスミッション。減速時にシフトダウンをすると時折聞こえる「カシャ」という音が逆にメカっぽくて良い

 プッシュスタートボタンを押しても、発進時は100%モーター駆動なので、当然エンジン音は無い。ゲート式シフトをDレンジに入れ、ブレーキをリリースすれば、スルスルと無音発進する。

 初期のころのDCTのように、盛大なメカニカル音がするかと懸念していたが、異音もなく滑らかに作動するトランスミッションの印象は、国産ストロングハイブリッドと何ら変わりない水準で、緩加速から強めの加速まで、スムーズに変速していく。

 シフトチェンジは素早く、低いギアで引っ張ることも少なく、次々に変速していくのは期待通り。減速時にシフトダウンをすると、「カシャ」という音が聞こえるシーンもあるが(ドッグギアが噛みあうときに鳴る音と推測)、そのサウンド自体もF1由来といわれれば、納得できる。

 メカが好きなドライバーであれば、こうしたメカニカルサウンド(ノイズではない)は結構、好きな音なんじゃないだろうか。MY SENCEモード(初期設定)から、出足の加速が強まるSPORTモードや、燃費重視のECOモードもそれなりに可変するので、用途に応じて使い分けができそうだ。

 今回の試乗コースは登坂が多かったため、エンジンが頻繁に始動し、加速と充電を繰り返し行っていたが、その際、エンジンの音と振動がキャビンへと伝わる。

 そのため、同じCMF-Bプラットフォームを使っているノートe-POWERのような電動車感はない。ノートにはある「ヒューン」といった電動車サウンドが、アルカナにはないことも影響しているのかもしれない。

 ハンドリングや直進性は良好で、視界も良く、運転はしやすい。クムホの18インチタイヤ(215/55R18 KUMHO ECSTA HS51)を装着していたが、段差の突き上げも少なく、後席でも快適な乗り心地だ。

 後席空間は、外見から受ける印象の通り、頭上は狭い(コブシ1個未満)が、膝前はコブシ2個入る程度のスペースはある。シートバックの角度がやや立ち上がっているので、窮屈に感じるのだが(背もたれの角度調節機能はない)、多人数で移動する用途のSUVではないので、問題にはならないだろう。

 ただし車高が高い上にサイドシル段差も高いので、乗り込む際に、他のクルマよりも少し高いところまで足を持ち上げる必要があるのは、気になった。

■なぜアルカナを第一号モデルに!? フルハイブリッド戦略の勝算は!?

「新開発の『E-TECHハイブリッド』を最初に搭載するのは、このアルカナこそが相応しいと考えた」と、ルノージャポンの小川隼平副社長

 試乗は良好な印象で終えたのだが、この手の新ジャンルのクルマが日本市場でヒットするのかは気がかりだ。

 なぜE-TECH搭載第一弾をメガーヌやキャプチャーにしなかったのか、なぜコストの安いマイルドハイブリッドを持ってこなかったのか、ルノージャポン副社長小川隼平氏(元・日産でEV戦略を担当していたエキスパート)へ、率直に聞いてみた。

 小川氏によると、ルノージャポンは、ルノー・スポールブランドをウリにした戦略を長年行ってきており、ルーテシアやメガーヌなど、R.S.モデルを筆頭にブランドを確立することはできた、という。

 とはいえ、昨今のカーボンユートラル時代に応えるにはこれまで通りではダメで、変わっていかないと、ルノーは日本市場で生き残ることができない。

 その変わるための新たなチャレンジとして「アルカナ」を投入し、新開発の「E-TECHハイブリッド」を最初に搭載するのは、ルノーの変化を象徴するこのアルカナこそが相応しい、と考えたそうだ。

 ルノーのウリであるハイパフォーマンスな内燃機関モデルは、今後減らさざるを得ないだろう。小川氏の言葉からは、アルカナ発表という華々しい場にはふさわしくない、「変わらないと消滅する」という危機感すら感じられた。

 いま日産とルノーの関係は、お互いがリスペクトしあっており、以前ほどは悪くない(小川氏)という。

 それならば、なぜ日産のe-POWERを共用しなかったのか(キャシュカイやエクストレイルなど、欧州の高速走行にも耐えうるユニットがあるにもかかわらず)という疑問もあるが、そこはルノーのプライドなのかもしれない。

 独自のE-TECHの先陣を切るアルカナには、日本市場の反応を探るといった目的があるのだと考えられる。

■ルーテシアなどハイブリッドモデル続々投入予定!

ヨーロッパでは期待を上回る人気のアルカナ。2021年は約4万台を販売した

 冒頭で触れたように、アルカナは、2021年3月の欧州での発売以降、期待を上回る人気で、2021年の約4万台という販売台数は、ルノー車のなかでは、メガーヌ(2021年の欧州販売台数:約7万台)やトゥインゴ(約6万台)に次ぐ販売台数だ。

 欧州市場では、環境性能が極めていい電動車が大いに受けているそうで、コストは高くても、積極的に電動車が選ばれるようになってきているという。

 この独特なアルカナが、日本市場で欧州と同様にヒットするかは未知数。独特なエクステリアは、控えめな性格の人が多い日本人には敬遠される可能性がある。

 それに日本市場はまだ、欧州ほど「高くても電動車が売れる」という状況にはないうえ、トヨタ、日産、ホンダを中心とする国産メーカーのストロングハイブリッド車は、現時点で世界一といえる完成度を誇っている。わざわざアルカナを選ぶ理由は少ないように思う。

 だが、アルカナはこれら国産メーカーたちとガチンコで戦う必要はない。まずは既存のルノーファンへ確実に新型のルノー車を届け、そのファンに、ルノー車ならではの「凄み」と「感動」を味わっていただくような戦略が適しているように思う。

 「量より質」に向かうのが、いまのルノーに求められていることなのではないだろうか。

 その上で、E-TECHを搭載した次なる一手が早くみたいところだ。E-TECHには、さらに高性能なプラグインハイブリッド仕様もある。

 ルーテシアやキャプチャー、メガーヌなど、本命のルノー車にプラグインハイブリッドが搭載されて日本導入された時こそ、ルノーの躍進が始まるのかもしれない。ルノーの今後に期待している。

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