2020年4月7日に日本プレミアで発表されたCX-60で、マツダが新たに開発した直6エンジンを投入したが、その出来自体は評価が高いようだ。
そんなマツダの直6エンジンだが、一体どのような特徴があるのだろうか? CX-60を試乗した自動車評論家でありレーシングドライバーでもある松田秀士氏が「なぜ今直6エンジンなのか!?」を解説しつつ、かつて自身が乗り、その出来に驚いた名直6エンジン(ガソリン、ディーゼル問わず)を選出していく!
文/松田秀士
写真/マツダ、BMW、日産、メルセデスベンツ
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■なぜマツダは今直6を送り出したのか!? 直6エンジンが持つ魅力とは何か!?
マツダが直6ディーゼルターボを搭載するCX-60を間もなく市場投入する。世の中のエンジンは直4が主流になり、コンパクトや軽自動車にいたっては直3というのがデフォルトになっている。
直4も直3もエンジンの全長を短くすることが主な目的。短くしてエンジンルームに横置きにするためだ。こうすることでエンジンルームを短くしてキャビンを長くし、ゆとりのあるスペースを確保できる。
横置きにすれば出力軸と平行にトランスミッション⇒ドライブシャフトと駆動を伝達でき、AWDを除いて伝達ロスを最小限にできる。
このような環境の中、マツダがあえて直6エンジンをリリースしてくる意味は、効率主義に傾かずクルマ本来の面白さを追い求めたいからだ。直6ゆえにエンジン長が長くなるからエンジン縦置きの新しいプラットフォームまで開発し、FRベースのCX-60としたのである。
エンジンを縦置きにすれば重いトランスミッションを車体の中心に搭載することができる。これによって前後の荷重配分も理想に近づける。ましてや駆動輪と操舵輪が別々のFR(AWDを除く)。楽しいに決まっているのだ。
筆者は現在マツダのテストコースとなっている旧MINEサーキット(山口県)でCX-60に試乗し、改めてマツダは楽しく気持ちの良いクルマ造りが好きなメーカーだと感じた。
それはさておいて、どうしてここにきて直6エンジンなのか? これまでエンジン長を短くするためにV6エンジンが主流になっていた。縦置きレイアウトのラグジュアリーセダンなどV6が主流だったのだ。
これはV6にしてエンジン長を短くすることで、前突時の衝突安全性能を上げることが目的だったから。エンジン長を短くすればフロントセクションの衝撃吸収構造をしっかりとれる。つまりボディー設計がやりやすいのだ。
ただしV6エンジンも直4も直3も、振動や音質の面で直6エンジンにはかなわない。例えばスープラRZに搭載されるB58 直6エンジンはBMW Z4と共用。シルキーシックスとも呼ばれ、全回転域で振動が少なくトルク変動がスムーズ。それゆえ完全バランスエンジンとも呼ばれているのだ。
4サイクルエンジンは吸気 ⇒ 圧縮 ⇒ 燃焼・膨張 ⇒ 排気という1行程の間に出力軸となるクランクシャフトは2回転する。1回転は360度、つまり360度×2回転=720度。
これを6気筒で割れば120度となり、4気筒の180度に比べてより細かい爆発を得られるのは当たり前だが、この120度は振動を各気筒相互のピストン&コンロッドが打ち消し合う角度となり、バランスにおいて理想的な値なのだ。
4気筒や3気筒は振動が発生しやすい角度となり、そのためにバランサーシャフトなどの振動対策が必要になる。つまり余計なものを装着するためにフリクションロス(抵抗)と重量がかさむこととなる。
実はV6も直6と同じなのだが、最近メルセデスも直6をSクラスに採用している。V6よりも直6にする理由は排気系が片方向に集中しているから。触媒は高温の排気ガスで反応するため、可能な限りエンジンに近づけたい。
V6だと2つに分割しなくてはいけないけれど、直6なら大型にして1つで済む。排ガス対策は現在の重要テーマなので、改めて直6が重宝され始めているのだ。
■松田秀士が選ぶ! 乗って痺れた珠玉の直6エンジンとは!?
そこで過去に筆者が感動した直6エンジンを挙げてみよう。筆者が初めて購入した輸入車がBMW 323i(E30確か1986年ぐらい)。知り合いから購入した中古車だった。
2.3Lの直6エンジンは驚くほどスムーズで。その後、ハイデッガー(リヒテンシュタイン)というF2エンジンチューナーのカムやバルブでチューニングしてアルピナを食うほどのパワーが素晴らしかった。つまりチューニングでパワーアップしても耐えられるエンジンベースだったわけだ。
さらに古い話をいえば、最近何かと話題の日産 フェアレディZ。筆者が学生の頃(1976年頃だ!)、友人が所有していたフェアレディZをエンジンチューニング。2.0LのL20型、しかもこのころはSOHC。鋳鉄製のエンジンブロックだったから重いけれどもパワーチューニングしても頑丈だった。
素晴らしい吹け上がりで、高回転まで気持ちよく回った。しかし、すぐオーバーヒートした。Zのデザインでは大きなラジエーターを装着しても十分に冷却することができなかったんだね。現在ではアルミ製のエンジンブロックに鋳鉄製のシリンダーライナーを入れ軽量化と剛性のバランスをとっている。
しかしメルセデスベンツがSクラスに搭載する直6 3.0LのM256エンジンでは、シリンダー内壁を鉄でコーティングしている。これはF1で培った技術で、ライナーの代わりにコーティングするから薄くでき、これによってボアピッチ(シリンダー相互の距離)を短くでき、結果全長の短い直6エンジンが完成した。
また48Vのマイルドハイブリッドモーターをエンジンと9速ATとの間に採用し、これが発電も行うからオルタネーターさらにはウォーターポンプ、スーパーチャージャーなども48Vモーターで駆動している。これまでにあったベルト駆動を廃止することで、さらにエンジン長を短くでき直6のデメリットである長さを極力抑えているのだ。
実はマツダの直6ディーゼルも8速ATとの間に48Vモーターを仕込んだマイルドハイブリッド。しかもトルコンを廃してクラッチ式とし、変速ショックをリニアにトルクコントロールが可能なモーターで制御している。つまり、現在の技術革新で直6エンジンは生まれ変わりつつあり、ラグジュアリーモデルにはこれからも採用される可能性がある。
話は前後するが、最後にもう1台歴史に残るエンジンを紹介しよう。それは日産 R32型スカイラインGT-Rに搭載されたRB26DETTエンジン。筆者自身当時のN1耐久シリーズで十勝24時間を含め複数戦ドライブしたが、パワーもトルクも素晴らしい直6エンジンだった。
直6エンジンは滑らかな加速だけでなくエンジンブレーキもきめが細かくよく効く。気筒数が増えれば増えるほどエンジンブレーキは繊細になるものなのだけれど、直6はちょうど良いレベル。コーナーへのターンイン(進入)時にアクセルOFFでのスムーズなハンドリングが期待できるのだ。
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