トヨタは2025年までに全国の系列販売店と連携し、2025年頃までに全国約5000店全店に急速充電器を設置する計画を進めているという。現在はレクサスを除く系列店で普通充電器を置くのは約4200店だが、急速充電器は約30店舗にとどまっている。
そこで、本企画では、急速充電器を置くディーラー拠点や全国の急速充電器の設置状況、さらに全国のガソリンスタンド数はどれほど減っているのかを徹底調査。
はたしてガソリンスタンドがなくなる日は来るのか?
文/柳川洋
写真/トヨタ、ベストカーweb編集部、トビラ写真(Adobe Stock@MOONRISE)
■トヨタ「約3年で全ディーラーに急速充電器を設置」宣言に隠された深〜い意図
トヨタは全国のトヨタ販売店と連携し、2025年頃までに全店にEVの急速充電器を設置する計画を進める、と共同通信が報じた。現時点ではトヨタ系列店で普通充電器は約4200店舗に設置されているが、急速充電器は約30店舗のみだそうだ。
このニュースに対して、メディアやSNSでは「特定のマスコミを使った単なる営業用のアピールなのでは?」「本当にそれで顧客の利便性が上がるの?」というやや冷淡な反応が多かったように見受けられた。
実はこの2025年までに5000店の販売拠点に急速充電器を設置する計画は昨年12月14日に行われた「バッテリーEV戦略に関する説明会」で記者の質問に答える形ですで明らかにされている。その際の質疑応答の内容は以下の通り。
Q:来年(2022年)日本で bZ4Xが出る予定で、全国の販売店に急速充電器を設置する構想はあるのか。
前田 CTO:そういう構想はある。少し時間はかかるが2025年くらいをめがけて全国の販売店に設置するように段取りを進めている。お客様にとって重要なインフラ。一方、日本は充電器の設置台数が減ってきているという状況もある。少しでも使い勝手のいい使用環境になるようにお手伝いしたい。ここも手を抜かずにやっていく。
豊田社長:充電設備は協調領域でもあると思う。各OEMがそれぞれのBEV、FCEVに対して持てるところは持てばいいが、それがそのOEMだけのものでなく、使う全てのお客様に共有するインフラを作るよう、トヨタは声を大にしてやっていきたい。使っていただく方の利便性を考えると、各OEMだけでは限界がある。
我々も我々で出来る形で。レクサス 100%といった北米、欧州、中国も、販売の拠点は、北米で 1800、欧州で2900、中国で 1700、日本で 5000 拠点ほどある。そういうところを利用できるが、他のクルマを求めた方も敷居なく使えるような環境をつくることが大切になると思っている。
■「全ディーラーに急速充電器の設置」はトヨタのBEV普及に向けての「仕込み」の一部
だが、「約3年で全トヨタディーラーに急速充電器を設置」という計画には、ただトヨタのBEVの販売促進という側面だけではなく、実は深い意味が込められている。それがよく表れていたのが、トヨタ初の量産BEV、bZ4Xのオンライン発表会とその質疑応答だった。
トヨタが考えるBEV普及への道筋とそのなかでの急速充電器の設置の位置付けについて、以下に解説する。
トヨタの考える「EVの普及が日本で遅れている理由」の最大の一つは、ユーザーが感じているBEVへの懸念や不安がまだまだ大きいこと。
割高な新車価格、バッテリーなどのメインテナンスコスト、乗り換え時の下取り価格など、BEVの保有期間を通じたコストが見えてこない不安に加え、長距離ドライブに出かけられるには一台では事足りないかもという充電インフラに対する不安も強い。
これらをできるだけ解決しない限りBEVに乗り換える人は増えないので、自動車メーカーとしてできることを一つずつやっていくのがトヨタの方向性だ。
手始めに、国内ではbZ4X全車をKINTOによるサブスクリプション形態での販売にした。トヨタが気合い入れて作ったBEVの新型車を全車サブスクにする、というのは相当の決断だ。
サブスクだと、契約期間中は最初に決められた毎月の支払い額以上の追加費用は発生しない。仮に何らかの想定外のトラブルがあって高額のメンテ費用が発生しても、契約期間終了時に残価が大幅に下がっていても、それらのコストはKINTO、というかトヨタが負担することになる。
「BEV買ってみたけどもうこりごりだよ、やっぱりガソリン車に戻る」ということが起きれば、一時的にBEVの販売台数が増えることはあっても保有台数は増えないし、社会全体で見てもBEV投資の元が取れなくなり、非常に大きな無駄となる。単にBEVの販売台数を増やすのではなく、日本のBEV保有台数を増やしたい。そう考えたトヨタは、ユーザーにコスト面でのリスクを転嫁せず、自分でとることにした、ということだ。
また売り切り形態では、ユーザーがディーラー以外でメンテナンスすることを選んでしまえば、ユーザーとの関係が途切れてしまう。だがサブスクであれば、常にユーザーと販売店/メーカーとの関係は維持され、必要なメンテナンス、ソフトウェア・ハードウェアのアップデートは基本完全実施が可能。
クルマに不具合が発生したらコネクテッド技術ですぐに認識し、入庫を促すことも可能だ。「常に最新のテクノロジーにアップデートされるし、ちゃんとメンテもしてもらえて安心して乗れて便利で、やっぱりBEVに乗ってみてよかった」と思うユーザーを増やすことができる。そして中古車の価値も保たれ、結果としてトヨタが取るリスクも減らすことができる。
さらには乗り換え時に、メーカーや販売店が知らないところで知らない業者に売られていくこともないので、バッテリー回収と3R(リビルト、リユース、リサイクル)も、トヨタがしっかり責任を持って行えて、カーボンニュートラル実現や、社会的責任を果たす観点からも、メリットが大きい。
よく「クルマを所有することから今後『モビリティをサブスクする』形に変化していく」、と言われるが、どういう意味かわかりにくいところもあった。
だが、「クルマを売った後にユーザーとの関係をより広げていくことが重視されるようになる」と言い換えるとわかりやすい。それが今後ますます重要になること、BEVとサブスクとは非常に相性が良いこともわかってもらえるだろう。
前置きが長くなったが、トヨタの持つ全国約5000もの巨大な販売店ネットワークの全てに急速充電器を設置することで、メンテナンスや車検だけでなく、BEVユーザーにより頻繁にディーラーを訪問してもらい、充電を待つ顧客と積極的につながりを持ち続け、広げていくことが可能になる。
また他社のBEVユーザーにも開放することで、新たな顧客とつながりを作り、トヨタファンを増やすことを目指す。単にトヨタが新車を売って儲けるだけではなく、クルマを保有している間にもユーザーにもメリットのある新しい付加価値を提供してメーカー・ディーラーが対価を受け取り、究極的には日本でのカーボンニュートラルの実現、BEVの普及を目指す。
このアプローチが取れるのは、テスラではなくて、地域に密着した実販売店網を持つトヨタだ、という深い思いと考えに基づいているのだ。
■他の自動車メーカーによる急速充電器の設置状況は?
日本の都市部では集合住宅に住む人が多く、新しくBEVを買っても自宅で夜クルマをとめているうちに充電できない人も多い。そんな人にとっては、クルマを買った近所のディーラーで急速充電するのが、便利かつ気兼ねがない。
そこでトヨタ以外のディーラーに急速充電器がどの程度設置されているのか、日本における急速充電で実質的に標準規格となっているCHAdeMO(チャデモ)の充電施設位置情報ファイル(2022年4月更新)をもとに調べてみた。
まず、日本全体では、急速充電器が設置されているのは7232カ所、台数は7503基。うち日産ディーラーとわかる名称で急速充電器がある施設として登録されているのが1769店舗、急速充電器数1769基(日産レンタカー除く)となっている。ホンダは、ウエルカムプラザ青山や寄居工場も含め9カ所、9基。三菱自動車は、岡崎工場や本社ショールームなど含め、188カ所、190基だった。
国産メーカーでは、日産ディーラーにおける設置数が圧倒的に多いという結果になった。三菱自動車も比較的健闘しているといえるかもしれない。
これらの急速充電器は、日産ディーラーに設置されていたとしても、NCSなどその急速充電器用の課金サービスに加入してさえいれば、別のメーカーのクルマでも使うことができる。
ちなみにテスラの場合は、テスラが設置したスーパーチャージャーはテスラ車しか使えない。そのためCHAdeMOの充電施設位置情報ファイルにはテスラのスーパーチャージャーは登録されていない。2022年4月現在、テスラのHPに掲載されている情報によると、スーパーチャージャーの設置拠点数は47、設置数は216基だった。
テスラの場合は、1拠点あたりのスーパーチャージャーの設置数の平均は約4.6基。さらに最高で250kWで充電できる。
拠点数の少なさを充電器の性能と基数でカバーしていると言えるだろう。国産車のディーラーに設置されている急速充電器は、1カ所あたりほぼ1基のみで、先客が充電していたら充電完了まで待つことを余儀なくされる上、充電性能も44kWが多い。
いつ行っても待たされず、サクッと充電できるのもBEVの性能の一部、と考える人にとっては、国産車のディーラーでの急速充電はまだまだフラストレーションが溜まるだろう。
今後設置されるトヨタの急速充電器については、前田CTOいわく「短期的には販売店の利便性やコスト負担能力を考えると既存の充電器を使うことになるため、50〜90kW程度の充電性能となるが、中長期的にはトヨタ自身による急速充電器の開発を手がけていく必要性があると認識しており、90kWもしくはそれ以上の性能を持つものを開発するのは当然。
今後トヨタのBEVの普及が進むなかで、データを蓄積し顧客にとって何がベストなのかを検討する」とのことだった。トヨタが自前で急速充電器を開発すれば、かなりのものができるのは間違いない。
また、トヨタディーラーが急速充電ネットワークに大挙して参加することで、充電の課金が急速充電器設置者に充電時間ベースで配分され、より高出力にしたところで急速充電器設置者により多くのおカネが入るわけではないという現在の課金ネットワークの問題にも声を上げてくれれば、より良いBEV環境が整っていく。
いい意味で政治力があるトヨタには、筋の通ったことを大きな声で言ってくれることを望みたい。
■充電器設置数が増えるとガソリンスタンドがますます少なくなる?
ハイブリッドをはじめとする電動車の登場や、ユーザーの環境意識の高まりなどもあり、クルマの燃費が著しく改善され、またコロナの影響による物流の混乱や旅行の減少などもあり、直近ガソリンの消費量は大きく減ってきている。
それに加え、高度成長期以降のモータリゼーションの拡大とともに増えたガソリンスタンドの数も、ここ10年で次々と設備の更新時期を迎えて費用負担が大きくなっていることや後継者不足、収益性の悪化もあり、ピークの半分以下まで減り続けている。
BEVの保有台数や急速充電設備が増えることで、ガソリンスタンドの数はさらに急激に減っていってしまうのだろうか。
結論からいうと、因果関係が逆だと思われる。高齢化・過疎化の続く地方部を中心に、採算の悪いガソリンスタンドを、地域のインフラだからと言って歯を食いしばって維持してきたが、そのコストは年々上がり続けるのに比べ、BEVの保有コストが大幅に下がりつつあるので、クルマが生活必需品である地方部を中心に、ガソリンスタンドに依存するよりも家で充電できるBEV、特に比較的安価な軽BEVに乗り換える動きが加速すると考える。
ただし、国内の乗用車保有台数は約6200万台、国内での新車販売台数は年間約400万台。今いきなり新車販売が100%BEV化されたとしても、全てのクルマがBEVに置き換わるには15年ほどかかる。
そして全ての新車販売がBEVになるには、相当の時間がかかる。それまではガソリンスタンドは間違いなく必要だが、採算性の悪い地域ではどんどん数が少なくなっていくのは間違いない。
資源エネルギー庁によると、令和3年度末現在、ガソリンスタンドが全くないのは10町村。1ヶ所しかないのは86町村、2ヶ所が109市町村、3ヶ所が138市町村となっている。また最寄りのガソリンスタンドまで15km以上離れたところに人が住んでいる市町村も302あるという。
資源エネルギー庁の「SS (サービスステーション)過疎地対策ハンドブック」では、SS過疎地でこれ以上ガソリンスタンドをなくさないようにする手段として、地域に求められるサービスをガソリンスタンドが一括して担う「総合生活サービス拠点化」や、地元住民や自治体がガソリンスタンドを買い取って共同運営したり、資金や人を拠出する体制構築、複数のガソリンスタンドの統合・集約や移転などのビジネスモデルの大胆な見直しなどが先進事例として挙げられている。
だが日本の地方部での高齢化・過疎化の進行、クルマの低燃費化の流れを止めるのは現実的ではなく、これらの「先進的」アプローチも、正直言って目先の時間稼ぎにしかすぎない。
国の補助金を考慮すると200万円程度で買うことのできる低価格の軽EVが、近々日産と三菱自動車から発売される。
2050年までのカーボンニュートラル実現を国としての公約としていることを考えると、安価な軽EVの発売をきっかけに、クルマがないと生活できない地域で無理やりガソリンスタンドを存続させるだけでなく、どこの家にも供給されている電気で走るBEVの普及促進による地方部でのモビリティの確保の方向に本格的に政策の舵を切ってもいいタイミングなのではなかろうか。
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