香港政府トップを決める行政長官選挙が8日行われ、唯一の候補者である李家超(ジョン・リー)前政務官が99.16%の得票率で当選した。候補者が1人しかいない状態で、“形だけ”の選挙が行われた。
李氏は1957年12月生まれの54歳。警察官出身で、2019年の大規模デモの際には、香港保安局長として徹底的に弾圧。その後も香港政府ナンバー2の政務官として、治安維持や言論統制を主導してきた。
今回の選挙結果を中国メディアは称賛しており、中国国務院が主管し香港マカオについて学術研究を行っている「全国香港マカオ研究会」の劉兆佳氏は、中国の大手紙「環球時報」の取材に対し、
香港の将来の戦略的発展のあり方としては、できる限り欧米との経済関係や貿易、金融取引を維持すると同時に、国家の安全維持を高めて香港を安定させていくことが必須となる。その上で、国家の発展とともに東南アジアなどとも貿易関係を強化し、大きく発展していく原動力を得ていきたい。
などと答えた。また
中米対立が激しさを増すなか、これまで香港が欧米から得ていた発展の機会や優遇措置は、いずれ奪われるだろう。
と予言。李氏は米国政府から制裁対象とされており、YouTubeアカウントも凍結されている。米中対立のなかで、どのように欧米とのバランスを取っていくかが試されるという。
制裁対象となっている人物が行政長官となったことを、アメリカは決して快く思っていないだろう。アメリカが香港の新政権に対して妨害を行うかどうかはまだ分からないが、香港が今後どのようにアメリカや西側諸国と関係を築いていけるか、中国政府と李家超は政治的な知見が試されることになる。
“香港の中国化”どう進める?
北京政府としては、“香港の中国化”を進めながらも、欧米との経済的な関係はできる限り維持したいとの考えがあるようだ。劉兆佳氏は、政府管理を強めるべきだと主張している。
「積極的不介入」や「小さな政府と大きな市場」といった統治方法はもはや時代に合っておらず、捨て去るべきである。香港では何もかも管理することは現実的ではないが、経済発展を進めながら市民の支持を得ていく上では、「不介入」や「小さな政府」ではうまくいかない。李家超政権は重大な任務を達成できるであろうし、それによって中国政府と香港市民から信頼を勝ち得るであろう。
「積極的不介入」は、香港返還以前に取られていた政府の介入を抑える経済政策。李家超は8日、香港基本法(憲法に相当)23条に基づく国家安全条例の制定についても言及し、
香港基本法23条は憲政制度の責任であり、政策局や法律の専門家らと研究協議し、しかるべき時に進めていきたい。だが、政治変革は優先項目ではなく、人々の暮らしに関する経済問題や住居問題を優先的に取り組みたい。
と語っている。国家安全条例は反政府的な活動を取り締まるもので、現行の国家安全法を補完し締め付けを強化するものと見られている。李家超は現職の林鄭月娥氏の路線を継承、強化し、“香港の中国化”はより進むものと見られ、今後は基本法23条に基づく国家安全条例制定の可否やタイミングがポイントとなりそうである。