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 上海電力と元大阪市長の橋下徹氏をめぐる「疑惑」話が、ネット上で燃え上がっている。同氏に太陽光発電がらみで、中国企業との疑惑があるというものだ。結論を言うと、その話はおかしい。問題は、橋下氏よりも、外国企業が日本国民の電力料金で儲けられる再生可能エネルギー振興策を政府が放置していることにある。

◆上海電力疑惑とは何か?

テレビ出演時の橋下徹氏(フジテレビ・日曜報道 THE PRIME画面から)

 橋下氏は、過激な言動を繰り返し、いわゆる右からも左からも叩かれる。しかも以前から、政敵を攻撃して、その後に落とし所を探ったり、自分の政治的利益を得ようとしたりする行動を取り続けていたため、他人から感情的に攻撃されやすい。

また、橋下氏が作った日本維新の会は最近、党勢を伸ばしており、野党からも攻撃されている。その創業者の橋下氏を攻撃することで、維新の党勢を削ごうとするネガティブキャンペーンがあるようだ。

 この疑惑は、いろんな人がいろんなことを言って、何が問題なのかよく分からなくなっている。整理すると以下の問題を批判されている。

【その1】大阪市南港咲洲メガソーラー発電所を上海電力の日本法人と日本伸和工業が共同出資で運営している。大阪市が土地を貸し出すなどの優遇措置をしている。出力は2.4MW(メガワット)で、大阪府では最大規模である。上海電力は、中国上海地区の配電会社で、同社は中国の国家政策「一帯一路」の成功例として同国、日本でPRしている。

【その2】ジャーナリストの山口敬之氏がこの発電所を訪問し、それが草だらけで杜撰な管理になっていることを報じた。

【その3】山口氏の調査では当初は日本企業2社が応札したのに、上海電力の名義に変わったと言う。契約は橋下氏が市長時代に行われた。橋下氏は中国企業を支援した可能性があり、説明責任があると山口氏は指摘している。

【その4】以下は山口氏とは別の人らが言っている。上海電力は、山口県岩国市などでも日本の事業者から権利を買い、メガソーラー発電を運営している。これは1月の衆議院予算委員会で、右派に人気の自民党高市早苗政調会長が取り上げた。高市氏は、再エネ振興策で外資が日本国民の電力料金で利益を得ているのはおかしいと指摘した。

◆どこが疑惑なのか―仕組みが問題

 これだけの事実を見ると、法的な問題はない。「上海電力が大阪市で大規模事業をやった」「橋下氏が大阪市長だった」「当時の菅直人首相と民主党政権が行った再エネ過剰優遇政策、1kWの強制買取価格が42円で太陽光バブルが起き、誰もが参入したがった」という3つの事実は存在し、相互に関係する。しかし、それを橋下氏のスキャンダルに結びつけているのは無理筋だ。

 例えば橋下氏が鳩山由紀夫元首相のように積極的に中国系企業と関係を持ったり政治イベントに招かれたりしているとか、橋下氏がビジネスで上海電力などと関係があるということがあれば倫理的に政治家として問題だが、そうした情報は今のところ出ていない。また契約の詳細は不明だが、このメガソーラーに大阪市は土地の貸し出しでのみかかわり、売電は関電と発電所の間で契約が結ばれているはずだ。これがFIT(後述)の仕組みだ。橋下氏は市長だったとしても事業全体を左右できる立場にない。

 そして以下の事実がある。海外の企業が日本の再エネ事業に参入し、補助金を受け取ることは、法律上、何の問題もない。WTO(世界貿易機関)のルールで、どの産業でも原則として国内と国外の企業に差別的待遇を設けてはいけない。そして外資系でも日本法人が事業をしているなら、何も問題はない。

孫正義氏ら再エネ振興策を喜ぶ文化人と菅直人首相(当時、テレビ東京WBS画面から)

 FIT(固定価格買取制度)は東電の福島原発事故後の混乱の中で、原発の代わりに再生可能エネルギーを導入しようと当時の菅直人首相と民主党政権が推進した。固定価格買取制度は、電力価格に再エネ料金を上乗せし、再エネ設備建設を促すものだ。

 上記の42円の価格は投資収益が年10%になったため、再エネバブルが起きかねないと、私を含め問題を知る専門家は批判したが、顧みられなかった。その通りバブルが起こり、再エネ賦課金は22年度には年3.8兆円にまで膨れ上がっている。また太陽光発電所が設置される際に森林伐採による環境破壊が広がり、社会問題になっている。

 また当時から、電力会社が原発事故で混乱しているため、またWTOルールがあるため、メガソーラーは外資が席巻すると、私を含め専門家は予想した。それも、その通りになった。経済産業省・資源エネルギー庁は、再エネでの外資の参入割合の統計を作っていない。業界推計では、外国資本の割合は太陽光で20%、再エネ全体で15%程度と推定されている。

 そして再エネの買取価格は年々下がっている。そのために早期で取られた権利は売買が続いており、当初落札者と事業者はよく変わる。またFITは電気を売ることが目的の制度で、その管理が杜撰であろうと法令上の違反、罰則はない。民主党政権の規制緩和で建築基準法などが適用されず、壊れやすい設備が大量に導入された(のち改正はされた)。

 つまり、上記の1、2、3の事実、上海電力が大阪で事業をしようと、その管理が杜撰であろうと、事業者の権利が変わろうと、何の問題もない。山口氏の言う通り、説明責任はあるが、スキャンダルにはできない。上記4の高市氏の指摘通り、日本国民の電力料金で外国企業が再エネで儲けるのは馬鹿馬鹿しいと、私も思う。

 しかし、その仕組みは、民主党政権の政治家が主導して日本の国会で作った法律に基づくものだ。責任は民主党だけではない。問題を放置し続けた自民党政権と経産省・資源エネルギー庁の不作為にも責任がある。WTOルールがあっても抜け道のルールを作るのは、たいていの国がやっている。再エネは支援すべきだが、市場原理に反する過剰優遇は再エネと日本のエネルギーシステムをおかしくしている。

◆橋下氏の因果応報を「他山の石」に

太陽光発電による環境破壊(2015年、山梨県北杜市)(撮影・石井孝明)

 橋下氏の行動の問題は、この咲洲メガソーラー発電所の設置の経緯だ。この案件は、エネルギー関係者の間では知られていた。橋下氏の政治手法は、勝てそうになったら強い敵を叩き、圧迫を加え、大衆の支持を集めるというものだ。

 大阪南港のメガソーラー事業が計画された2013年当時、橋下氏は原子力事業の混乱で弱っている関電を叩き、原子力発電を叩き、政治的立場が左右問わずに存在した反原発の人から喝采を浴びていた。関電は、原子力の発電比率が高く、今に至るまで批判を集め苦しんでいる。大衆受けする政策の一つとして、余った大阪南港の土地を再エネに使い、新しい発電事業者を作ろうと関電叩きのパフォーマンス政策にしていた。

 エネルギー問題をまじめに考える人たちは、揃って彼のパフォーマンスに当時うんざりしていた。今になって、その行為が橋下氏を困らせている。「因果応報」という言葉を思い出す。彼のような他人を攻撃ばかりしている人が、自分のした行為によって自ら傷ついている。「他山の石」として気をつけたい。

 そして、何か問題があると「××が悪い」と、俗人的な批判だけする幼稚な日本の政治文化にもうんざりする。これは橋下氏と同じレベルだ。「善意で問題は解決しない。仕組みが問題を解決するのだ」はAmazonを創業したジェフ・ベゾフ氏の名言だ。

 上海電力騒動は、その仕組みの再エネ過剰振興策が問題なのであって、属人的に橋下徹さんが悪いのではない。日本のあらゆる場面で、物事を総合的に、深く考えないから、解決策も頻繁におかしくなる。ずれた行動を多くの日本人がしている陰で、賢い中国など外資系企業のは、その日本人から金を稼ぎ続ける仕組みを利用し、儲けているのだ。その仕組みは日本人自ら作ったものだ。