今、日本国内でにわかに注目を浴びつつあるスタートアップがある。プロ棋士の頂点である名人を破った将棋AIの「Ponanza」(ポナンザ)を開発した山本一成代表兼CEO率いる「TURING」だ。同社は2025年をメドに自動運転レベル5を目指しているのだという。
まだ、昨年12月に立ち上がったばかりの同社がターゲットしているのは、かのイーロン・マスク率いるテスラ。将棋のプログラムで頂点に立った山本氏がクルマの世界に身を投じ、自動運転にチャレンジする理由とは何か? 長年、自動運転の取材を続けている国沢光宏氏が独自の視点で直撃した!
インタビュアー/国沢光宏、写真/平野 学
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■「ピュアAI」の人間が自動運転に挑戦するのは敷居が高かった
国沢 山本さんがそもそも自動運転のクルマをやってみようと思ったきっかけってどういうことだったのでしょうか?
山本 私はそれまでずっと将棋のAIのプログラムをやっており、何とか人間より強くすることができたため、次の大きなチャレンジをしたいと思ってました。そんななか、クルマの自動運転に着目したんです。AI技術者にとって制御が非常に難しい自動運転は面白い課題なんです。
国沢 AIを手がけている人たちのなかには特定のグループがあり、社会があるワケですよね? そのなかで将棋やチェス、いろいろなものがあってそのなかでもクルマはチャレンジングで面白いということでしょうか?
山本 もちろんです。クルマの自動運転はかなり昔からあって、ごく最近まではできなかったんですが、そういうのが急速に今、もちろんまだ人には及ばないんですけど、やっと少しは形になってきたと考えています。
国沢 そうかもしれません。自動運転のハードルはひと昔前からすればずっとハードルが低くなりました。例えば、ステアリング系統とかブレーキは電動や油圧制御になったため、プログラムだけで稼働させられます。もうひとつは、センサーやコンピュータが進化し、画像処理なども大幅に進化してます。そういう意味ではクルマのハードも自動運転ができるような素地ができあがったというのは間違いないと思います。
山本 ただ、クルマのソフトウェアは複雑で、簡単に電動パワステをコントロールすることはできません。そういう意味では私みたいなソフトウェアだけ、いわゆる「ピュアAI」の人間がこういう分野に参加するっていうことは、すごく敷居が高かったです。
国沢 なるほど。例えば自動車メーカーと一緒にやれば、まずそこのハードルがなくなるわけじゃないですか?
山本 う~ん、なぜ一緒にやる意味があるのでしょう?
国沢 自動車メーカーからすれば、クルマの制御を乗っ取られたら危険です。走行中に急ハンドル操作すると大事故になりますから。だから制御系に入られないようプロテクトします。メーカーと一緒に開発することで、そこのハードルはなくせます。
山本 それは確かに。
国沢 今回、見せていただいたエスティマは3世代くらい前のCAN(クルマの制御をコントロールするシステム)です。これから新しい時代になると、もっと複雑になってきて、簡単にクルマを制御することができなくなってくると思うんですね。
■クルマを自前で作り、テスラを凌駕する!
山本 メーカーと組むのではなく、我々はクルマそのものを作りたいと思っています。
国沢 独自企業であるテスラのようになると?
山本 そうですね。なりたいと思っています。アメリカではGoogle、Facebook、Amazon、Microsoftなど無数のスタートアップ(起業及び新規事業)ができてとんでもない企業価値になっていますよね。そういうチャレンジをする人って日本にももっといてもいいんじゃないかと思っているんです。
国沢 なるほど。
山本 テスラだって最初は「何なの、この会社」って皆から思われてました。今や新しい産業テクノロジーって、世界でアメリカと中国ばかりで生まれてます。日本人の頭が悪いわけじゃない。やらなきゃ、って最初に思ったんですね。
国沢 100%私も同意します。そのとおりだと。日本はやっぱりそういうところが弱い。新しいことをやろうっていう人もそんなに出てこない。周りから押さえつけられちゃうし。ただ、やっぱり最短距離を進むための方法論は必要かな、と思います。話を自動運転に戻しますが、今の自動運転の現状をどういうふうに思っていますか?
■優れたセンサーを持つ人間をAIは超えることができるのか?
山本 まず、人間ってクルマの運転がうまいんだなって改めて思います(笑)。実際に自動運転を作るっていう視点で考えてみると、人間というものは本当にいろんな判断をして運転をしてるんだって気づかされました。限定された区間を走るっていうだけだったら、センサーをいっぱい積んでしまえばできると思うんです。けど、何が難しいかというと「判断」なんですね。例えば、走行中に路駐している車両があって、これが本当に路駐かどうかって、人間は軽やかに判断してますけど、AIだと難しい。
国沢 そうですね。
山本 人間が今まで見落としてきた、あるいはとっても上手いドライバーしか理解できなかったことまで汲み取るようなレベルじゃないと絶対いけないと思うんです。そういう高度な判断を作らなきゃいけないっていう意味では非常にまだ拙いレベルでしかないです。意味不明なことが起こった時にどう対応するか、あるいは危険を事前に遠巻きに逃げるっていうことが必要です。
国沢 人間と同じくらい高度な判断って今のコンピュータの解析性能とか容量とかで対応できると思っていますか?
山本 この瞬間は届かないと思ってます。私の将棋のAIプログラムは今から12年前に始め、10年ほどやりましたが、最初はまったく駄目でしたね。AIの機会学習とかやってもぜんぜん技術として成立してなかったし、コンピュータも今と比べてすごく貧弱でした。でも、結局そういったAIコミュニティのパワーアップとか、あるいはハードウェアの進歩とともに大きく変わって人間の将棋の名人をも負かせるようになりました。自動運転に関しても5~10年あればたどり着けないものではないと思っています。
国沢 たぶん将棋の世界では、いきなり殴りかかってきたり、将棋盤をひっくり返して逃げたりする人って、考える必要がないと思うんですね。でも、クルマの場合は当て逃げしてきたり、目の前に飛び出してきたり、女の子がひとりで乗っていればクルマは止まるだろうからって止めてからガラスを割って連れ出す輩も出てくるわけじゃないですか。そういうレアケースをやっていかないと、自動運転ってダメだと思うんですよね。先日も自動車メーカーの開発者と話をしていて、死亡事故って1台のクルマが2億7000kmくらい走らないと起きないそうです。それを例えば100件集めてシミュレーションすることもできると思うけど、やっぱりパターンにはまらない事故とって起きるんですよね。そういうものに対して人間はいろんな対応をします。人間よりも優れたセンサーって何かありそうな雰囲気ですか?
山本 例えば、人間の目ってよくできてるんですけど、カメラなら可視光線だけでなく赤外線も取れます。人間には難しいような情報だって入ってくる。問題は目がどれだけよくても不明な行動をしてクルマに対してどうすればいいかっていうことは、センサーは答えを出してくれないです。
■「これまでの常識を超えたい」
国沢 山本さんはカメラ単独使用で行くつもりのようですが、人間って例えば目の前に何か汚れがついたり、物が飛んできたりしたら、とりあえず顔の位置を変える。カメラって固定だから前が曇ったらもう見えない。そういう時の対策をどうしますか、という問題があります。自動車メーカーが何をやってるかというと、カメラだけではなく、レーダーを使ったり、LiDERを使ったりして、いろいろなものを副次的に見ているんですね。カメラだけで人間のこと全部をAIができるかっていうと、けっこう難しいでしょうねっていうのがこの業界の常識です。
山本 わかっています。ただ、我々はこれまでの常識と戦わなきゃいけない。だから「そうですか」っていうふうには言えないんです。
国沢 例えば、カメラが見えなくなったとかそういう時ってどうしますか?
山本 カメラが見えなくなってしまったら、その時はもう諦めるしかないんじゃないでしょうか。例えば、鳥の糞とかいきなりカメラについてきた時とかですよね。正面カメラを三つバラバラの場所に置けば安全かもしれないですけど、フロントガラスが割れてしまったとかあらゆることが起こるので、そういう意味では諦めるしかないですね。
国沢 それが高速道路を走行中で片側3車線の真ん中で起きたらどうなりますか?
山本 脇に寄るしかないんじゃないんでしょうか。サイドビューカメラとか360度カメラがあるから、1個潰れても全滅ということにはならないと思います。ただ、大きな前提上の話として事故ゼロにはできない、それはもう構造上できないんです。この世界で、例えば地震が起きるとか橋が落ちるとか、対向車線からタイヤが飛び出してきた場合にクルマがかわせるとはかぎりませんから。
※「後編」に続きます。
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投稿 「テスラに追いつき、そして追い越す!」 AIで将棋の名人を破った天才がクルマの自動運転に挑む!! TURING代表、山本一成CEOインタビュー(前編) は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。