クルマを開発するにあたって、まずはサイズや機能を考慮し、そのうえでルックスを良くするためにエクステリアを造形する。しかし商品でもある市販車でユーザーが最初に目にするのがその外見であるのも事実。ここでしくじってしまったクルマの販売台数はやはり伸びない。そこでメーカーでは、売り上げを増やすことを目的にしばしばクルマの“美容整形”を断行する。
今回は美容整形がうまくいったクルマを筆頭に、微妙な結果に終わったモデルも見ていくことにしたい。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産、スバル、三菱、FavCars.com
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フェイスリフト=美容整形で合ってる?
クルマのマイナーチェンジなどで、その顔つきを変えることを「フェイスリフト」と呼んでいる。実はこのフェイスリフトを日本語に訳すと「美容整形」になるのだ。ただしフェイスリフトには「改築」や「模様替え」などといった意味もある。
つまりフェイスリフトを行ったクルマは美容整形済みと言っても差し支えはない。マイナーチェンジだけでなく、フルモデルチェンジの際に大きく意匠を変えたクルマもフェイスリフトされたと言えるだろう。では、どんなクルマが美容整形で成功したのだろうか?
ソフト化路線で不評を跳ね返す 「トヨタ プリウス」
世界初の量産型ハイブリッドカーとして1997年に登場したトヨタのプリウスも、現行型で数えて4代目。だが、この4代目が登場した時は、その顔つきを巡って賛否両論の意見が飛び交った。
2015年に発表された4代目プリウスは、先代のイメージを大きく覆す攻撃的なスタイルでデビューした。基本的なラインは先代を踏襲するものの、ヘッドライト回りのデザインを大きく変え、シャープな印象を強調していた。
この大胆なデザイン変更は一部で評価されたが、「歌舞伎顔」とも揶揄され、実際に先代までのような販売台数を記録できなかった。この事態を重く見たトヨタは2018年のマイナーチェンジでフェイスリフトを実行した。
それまでエッジの効いた縦基調のヘッド&テールライトを変更し、上品な顔つきになって登場したマイナーチェンジ版は市場からも受け入れられ、再び販売台数を伸ばすことに成功した。人気にあぐらをかかず、思い切ったデザインに挑戦したトヨタの姿勢は評価できるが、やはりやりすぎはダメということか。
“カエル顔”へのチェンジには成功したが…… 「日産 マーチ」
日産が1982年にリリースしたコンパクトカーのマーチは、当時の同社ラインナップにはなかったリッターカーとして開発されていた。実用性を重視するこのクラスのクルマらしく、初代マーチでは各部に堅実な構成を採用し、著名デザイナーのジウジアーロが基本デザインを担当した外見も奇をてらわないコンサバティブなものだった。
初代マーチは好評によるロングセラーモデルになり、1992年に2代目が登場するまで、10年に渡って生産が続けられた。そして登場した2代目マーチは初代に比べて丸みが増え、女性ドライバーへの訴求力がアップ。こちらもまた好セールスを記録している。
3代目マーチの登場は2002年だったが、この3代目ではモデルの外見が大きく変更されていた。ルーフを含めてさらにボディ全体がラウンド化されるとともに、ヘッドライトの位置と形状が大幅に変わり、より愛嬌のあるフォルムへと生まれ変わっていたのだ。
先代が好調だったのにもかかわらず大きく意匠を変更した日産の決断は吉と出て、3代目マーチの初年度売り上げは目標を上回り、街中で“カエル顔”のマーチを見かける機会も一気に増えた。
マーチのモデルチェンジサイクルは国産車にしては長めで、4代目の登場は2010年になった。しかしこの4代目はデザインを含めて全体的に不評であり、販売成績は低迷してしまった。そのため欧州向けモデルは2017年に早くもモデルチェンジを行っているが、国内での販売はなし。それどころかシリーズ終了のウワサも流れている。マーチの未来は果たして?
コロコロ変わる顔つきにユーザーも困惑? 「スバル インプレッサ」
スバルが販売する4ドアセダン&5ドアハッチバックのインプレッサは、1992年発売の初代モデルから4WD仕様をラインナップし、世界ラリー選手権でも活躍するなど、スポーツ志向の強いモデルとして知られている。そのインプレッサも、2000~2007年に販売されていた2代目では、わずかな期間に複数回のフェイスリフトを実施している。
最初に登場した2代目インプレッサは通称「丸目」で、その名のとおり丸形のヘッドライトが見た目のアクセントになっていた。しかしこれは不評だったようで、2002年には横に長い「涙目」形状に変更されている。
この涙目にも賛否両論があり、2005年には再びフェイスリフトが行われた。今度の通称は「鷹目」。これはユーザーにも受け入れられ、2007年のモデルチェンジでは鷹目の意匠が引き継がれた。
現行のインプレッサは5代目にあたり、他のスバル車と共通した顔つきが与えられている。
美容整形と言うにはあまりにダイナミック 「三菱 デリカD:5」
三菱自動車のデリカは歴史のあるSUV・ミニバンであり、すでに50年を超える歴史を誇っている。そのデリカには商用車を含む多数のバリエーションがあるが、D:5(ディーファイブ)は乗用ミニバンのオールラウンダーだ。
D:5の現行モデルが発売されたのは2007年。以降はマイナーチェンジを繰り返して現在に至っているが、ディーゼルエンジン搭載車に関しては改良を加えたビッグマイナーチェンジの新型が2019年に登場している。そしてその新型が驚くべき変貌を遂げていたのだ。
新型デリカD:5には三菱が推し進める「ダイナミックシールド」が採用され、大胆なフェイスリフトが施された。その顔つきは迫力満点で、ビッグマイナーチェンジとは思えないほど大きく変化していた。
さすがにここまでの大きな変更には戸惑う声も聞かれたため、これまでのデリカがいいというユーザーに向けて、ガソリンエンジンモデルはフェイスリフトされず従来型のまま継続販売された。しかし2019年をもってガソリン仕様の販売は終了している。デリカD:5の大変身がどのように評価されるのか、結論が出るのはもう少し未来のことになるだろう。
フェイスリフトは恒例行事? 「トヨタ セリカ」
クルマがモデルチェンジを行う際に、先代のイメージを引き継ぐケースと、大幅に見た目を変えてくるケースの両方がある。成功した車種のモデルチェンジでは前作を踏襲するのが手堅い戦略で、販売が振るわなかったモデルは大幅なテコ入れを行うことが多い。だが、トヨタが販売していたスポーティモデルのセリカは、販売のいかんに関わらずモデルチェンジごとにその顔つきを変えていた。
初代モデルは「ダルマセリカ」と呼ばれるルックスであったが、1970年登場のモデルとしては十分に先進的であり、現在でもデザインを評価する声は多い。しかし1977年のモデルチェンジでは大胆な変更を行い、1981年発売の3代目も先代&先々代とは大きくイメージを変えている。
4代目は開閉式リトラクタブルライトの採用などでまたしてもデザインが変わり、5代目でようやく4代目の正常進化版といった出で立ちに落ち着いた。しかし6代目では丸目4灯フェイスに変貌し、シリーズ最後になった7代目でも大幅にフォルムが変更されている。
こうした変化の歴史もあって、クルマ好きなら実車や写真を見ただけで何代目のセリカか当てられるほど各世代の違いは大きい。これが果たして販売戦略として正しかったかどうかは不明だが、セリカの歴史がフェイスリフトの歴史であるのも間違いない。
美容整形じゃなくてダイエットで目標を達成 「ホンダ インサイト」
美しくなる方法は美容整形だけじゃない。ダイエットもまた見た目に気を使う人には要注目のトピックだ。しかし、クルマのダイエットとなると少々事情は変わってくる。
クルマのダイエット(=軽量化)は、加速性能や運動性能を高めると同時に、燃料消費量を減らすことにも貢献してくれる。そのため、市販車であっても安全性などの必要な要素を満たしたうえで軽量化が行われているが、1999年にデビューしたホンダ初の量産型ハイブリッドカー・インサイトは、目標の燃費性能実現に向けて涙ぐましいまでのダイエットが行われたのだ。
インサイトは先行して販売されたトヨタのプリウスを燃費性能で上回るため、オールアルミ製モノコックを採用し、ボディにもアルミとプラスチックを使用。シートは運転席と助手席のみにするなど、極端なダイエットを行ったことにより、重量のあるバッテリーを搭載しながら820kgという車重に仕上げられた。
徹底的なダイエットも奏功し、インサイトの燃費は当時の量産車最高となる35km/L(10・15モード)を達成した。しかし、2シーターにしたことなどで実用性が低下し、初代インサイトの販売成績は低迷してしまった。「ダイエットもほどほどに」とは人間に対してよく言われることだが、クルマに関してもこれは当てはまりそうだ。
さすがにホンダでもやりすぎを反省したのか、2009年登場の2代目インサイトは、サイズこそ5ナンバーのままだったが5ドアハッチバックスタイルに変更。アルミ製モノコックをやめて、ホンダ製他モデルと共通パーツを多数採用してコストダウンを実現した。強烈な個性こそなくなったが、普通のクルマに近づいたインサイトは市場でも歓迎された。
商品でもあるクルマが美を追求するのはある意味必須。そのための美容整形(フェイスリフト)も度々行われている。今回は美容整形が成功した例を中心に紹介したが、いつも成功するとは限らないのが難しいところだ。
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投稿 ぶっちゃけ見た目が命でしょ!? 美容整形で成功したクルマたち は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。