世界の新聞社の中でもDXの成功例として知られるニューヨークタイムズ(NYT)のディーン・バケ編集長が、記者がツイッターに費やす時間を減らすように社内のスタッフに通知していたことがわかった。米新興メディアのアクシオスが8日、内部文書を入手して報じた。
日本では朝日新聞などが記者のツイッター使用を積極的に推奨する一方で、読売新聞は記者個人が業務での発信にツイッターアカウントの開設は規制するなど対応は分かれてきた。NYTのここにきての動きは日本でも注目を集めそうだ。
アクシオスによると、バケ編集長はスタッフ向けの文書の中で、
「我々は、ツイッターが私たちの仕事にどのように作用するかに気が取られるあまり、自分たちの使命と独立性を損なってきた」
「ジャーナリズムの評判を傷つけるような対応を反射的に行うこともできるが、大半のスタッフにとってツイッターの経験はハラスメントと攻撃によって形作られてしまった」
などと述べるなど、ツイッターを有害視。ツイッターを辞める記者には会社として支援し、継続する記者には、NYTの編集基準やソーシャルメディアガイドラインなどを遵守するように求めているという。
NYTは2010年代に入ると、社内のデジタル化に舵を切り、2014年には「イノベーション・レポート」を発刊。日本を含む世界各地の新聞関係者に影響を与えるなど、新聞DXの旗手としても知られてきた。記者のツイッター使用も積極的に行ってきたが、ここにきて自社の記者同士がツイッター上で論争。他にも社内のスキャンダルが取り沙汰され、アクシオスは、バケ編集長の今回の方針転換の背景に指摘している。
日本では朝日新聞が会社として記者のツイッター使用をいち早く取り組んだことで知られる。ソーシャルメディアガイドラインを策定。ベテラン記者らがネット上でも解説や論評を加えていた。2014年、池上彰氏が連載コラムで慰安婦報道の問題点を取り上げようとした際に朝日の上層部が掲載を拒否。少なくとも30人以上の記者がツイッターで会社を猛批判する“反乱”を起こしたことは、劇薬ながら社内の風通しを良くする効果もあったが、政権批判や事実関係の誤認などで記者が炎上することも絶えなかった。
読売新聞は現在も記者個人が公式にツイッターで情報発信することは規制している。これについて「時代遅れ」と批判する向きもあったが、読売の関係者の1人は「NYTの今回の規制を受けて時代の先を読んでいたという評価になるのだろうか」と皮肉気味に語った。
コロナやウクライナで陰謀論が跋扈するなど、SNSを取り巻く情報環境の課題が浮き彫りになる中、新聞記者のツイッター活用について見直しの流れになるのだろうか。