レクサス車らいし独自性が出てきた新型LX
レクサスLXは、レクサスのフラッグシップSUV。グローバルでの歴史は長く、初代レクサスLXは1996年に登場している。日本マーケットでは、3代目レクサスLXが2015年に初めて日本に導入された。
レクサスLXは、トヨタブランドのランドクルーザーと姉妹車関係にある。とくに、初代と2代目はちょっと高級なランドクルーザー的。3代目LXのマイナーチェンジで、スピンドルグリルが装備されるなどし少しレクサスとしての独自性がアップ。2度目のマイナーチェンジで日本に導入された3代目LXから、ようやくデザイン面での独自性が出てきた。
ただ、レクサス車として独自性が強くなった3代目LXだが、走行性能面ではそのままランドクルーザー的。3代目LXの車両価格は1,100万円超。ランドクルーザーの最上級グレードが約700万円だったので、400万円という大きな価格差を納得させる機能や性能差が見いだせない状態だった。
4年待ち!? 世界中で大人気な新型LX。新型ランクル中古車は1500万円越え?
そして、2022年1月フルモデルチェンジし4代目となる新型レクサスLXがデビューした。基本的には、従来のモデルと同様でプラットフォーム(車台)など基幹部分はランドクルーザーと共通だ。両車共に、世界中で人気が高いこともあり、納期はなんと約4年(2022年5月現在)とのこと。待っている間にマイナーチェンジしそうなくらい長い。
こうなると、動き出すのが転売ヤー。4代目レクサスLXの中古車は、まだ出回っていないようだ。だが、新型ランドクルーザーの中古車に関しては、トヨタも転売ヤー対策を行っているのにもかかわらず、わずかだが流通し始めている。なんと、1,500万円越えの車両ばかりで、なんと新車価格の2倍以上になっている。
新型LXエグゼクティブの価格は1,800万円。ランドクルーザーのように2倍以上になれば、3,600万円オーバー!? この車両が転売ヤーにより、中古車マーケットに流通したら、いったいいくらになるのか恐ろしくなる。
オンロードでの走行性能を高めたオフローダー
そんな転売ヤーの話はさておき、新型LXには新開発のプラットフォームGA-Fが採用された。新型LXも本格オフローダーの血統なので、ラダーフレームとなる。ラダーフレームは、その強靭さゆえに重いのが欠点だが、GA-Fでは200㎏も軽量化された。
ただ、本来なら、オンロード中心の高級SUVとしての価値を高めるのであれば、モノコックボディを採用するべき。多くの高級SUVがモノコックボディを採用し、優れた乗り心地やハンドリング、静粛性を高めている。
しかし、新型LXは単なる高級SUVでなく、高級オフローダーとしての価値も追求。過酷な悪路をものともせず走り抜ける走破性を維持しながら、高級SUVとしての乗り心地や走行性能をも両立することを選んだ。それは、最も難しい道を選択したことになる。
新型LXは、伝統のオフロード性能とLexus Driving Signatureを追求しオンロード性能との両立を目指した。いかなる路面状況においても、楽で上質な移動体験を提供することをコンセプトとしている。
先代LXの走行性能は、ほとんどランドクルーザーだっただけに、新型LXの走行性能に期待が高まる。
こだわりを感じる新グレード「エグゼクティブとオフロード」
こだわりを感じるのが、グレード構成だ。新型レクサスLXでは、4人乗りのエグゼクティブとオフロード、基準グレードの3グレード構成とし、それぞれの個性を明確化した。オフロードと基準グレードでは、5人乗りもしくは7人乗りが選択可能となる。
レクサスブランドらしさを最もアピールするのが、新型LX600エグゼクティブ。なんのヒネリもないストレートなネーミングだ。もはや、オフローダーのショーファードリブン。後席はキャプテンシートとなる2名乗車になり、計4人乗りとなる。
元々、3列シートをもつモデルなので、3列目シートの必要が無く、荷室スペースも重視しないとなると、2列目シートのスペースは当然広大になる。最大レッグスペース1,000mmとなり、まさにエグゼクティブのためのスペースだ。
このリヤシートは、最大48度のリクライニングと座面角度をコントロール。マッサージ機能を装備する。もちろん、オットマンも用意されている。まさに、ショーファーカーだ。
そして、最もカッコよいと感じたのがオフロードと呼ばれるグレード。グレード名を考えるのが面倒だったのか、それとも分かりやすさを重視したのか不明だが、こちらもかなり直球なネーミングだ。
まず、外観も他のグレードとは若干異なっている。マットグレー塗装のホイールや、ブラック塗装のホイールアーチモール、黒光輝塗装を施したフロントグリルなどが異なる部分。全体的に引き締まった印象が強く、よりワイルドで塊感がアップしたスタイリングに見える。
機能面では、より高いオフロード走破性を発揮するために、3つのディファレンシャルロック(フロント・センター・リヤ)を標準装備。扁平率の高い18インチタイヤを装備、悪路での路面追従性を高めた。日本では、こうした機能をフル活用することは、ほとんど無いだろう。しかし、これだけのオフロード性能をもつクルマに乗っているという満足感を満たしてくれるというのも、とても重要な要素だ。
AHCが肝?
そんな個性をもつ新型LXで、最初に試乗したのは新型LX600エグゼクティブ。先代LXに欠けていた、レクサスらしさは感じられるのか?
まず、高速道路を走ってすぐに感じ取れたのが、ステアリング操作に対する反応のよさだ。ランドクルーザーでは、ややフラフラして真っすぐ走らせることが難しく、高速道路でのロングツーリング向きではなかった。もちろん、これはオフローダーとしての悪路走破性を重視し優先した結果。高速道路での走行安定性などとオフロードでの走破性の両立は難しい。
ところが、新型LX600エグゼクティブは、意外なほど直進安定性がよい。モノコックボディの高級SUVほど、ビシッとは走らないものの、ランドクルーザーとは比べ物にならないくらいシッカリと走る。かなり高い速度域での走行も驚くほど車体が安定。先代LXやランドクルーザーで、高速道路でのロングツーリングは疲れそうなイメージが強かったが、新型LXはそんな印象は受けなかった。
しかも、パワーステアリングの設定もランドクルーザーに比べ、かなりクイックな設定。山道などでも、曖昧な部分がかなり少なく、ステアリング操作に対して、しっかりとクルマが反応してよく曲がる。
乗り心地も、かなり優秀。ランドクルーザーでは、路面の凹凸やしっかり拾いゴトゴトした乗り味だった。ところが、新型LXの乗り心地はしなやかだ。振動の吸収も早く、ボディが揺すられている時間が短い。
こうしたオンロードでの優れた運動性能は、路面や走行状態に応じてきめ細かく、滑らかな減衰力を制御するAVS(Adaptive Variable Suspension system)と、車速に応じて最適な車高に自動調整し、路面との干渉回避と操縦安定性を両立するAHC(Active Height Control suspension)によるものだ。
ただ、22インチホイールを履く新型LX600エグゼクティブは、路面が大きな凹凸が連続するような道を、やや高めの速度域で走るとバタバタした乗り味になる傾向があった。それに対して、新型LX600オフロードの18インチタイヤ装着車は、とても快適。カーブなどでのクルマの反応は、22インチホイール車の方が少しよいが、乗り心地面では18インチホイール車が圧倒する。
オンロードでの走行性能は、さすがにモノコックボディの高級SUVにまだ及ばないものの、ラダーフレームをもつ高級オフローダーの中では、間違いなくトップレベル。かなり、驚いた。
オンロードでの走行性能は、姉妹車関係にあるランドクルーザーとは全く異なる高次元のレベルに達した。走行性能面も含めたレクサスブランドらしさは、明確になった。また、ランドクルーザーに対して大きな車両価格差も、十分納得できる。
新型レクサスLX600に搭載されたエンジンは、セダンのLSと同じガソリンV6 3.5LツインターボであるV35A-FTS型。このエンジンをベースとして、新型LX用にチューニング。出力は415ps&650Nmで、燃費は8.0~8.1㎞/L(WLTCモード)となった。
新型LXの車重は、2,540~2,600㎏という超重量級。これだけの出力があれば、パワー不足は感じることはない。むしろ、オンロードではその速さに驚く。試乗コースとなった新東名での、120km/h巡行も余裕たっぷり。ターボエンジンながら、アクセル操作に対するレスポンス良好で気持ち良い。
10速ATもいつシフトアップ、ダウンしているか分からないくらいスムース。静粛性も高い。こうした部分は、まさにレクサスといった印象で高級車に乗っている感がある。
さらに磨き込まれた伝統のオフロード性能
オンロードでの走行性能は、ラダーフレームを採用したオフローダーの中では、間違いなく世界トップレベルといえる新型レクサスLX。オンロードでの走行性能向上と同様、オフローダーとしての性能もさらに磨き上げた。
路面状況に応じて最適な4WD制御を行うことが可能になるマルチテレインセレクトは継続採用された。AUTO/DIRT/SAND/MUD/DEEP SNOW/ROCKと計6つのモードから選択可能だ。この制御は、従来のブレーキ油圧に加え、新型LXでは駆動力、サスペンションを統合制御する。
また、従来ローレンジ(L4)のみであった動作範囲をハイレンジ(H4)にも拡張。岩石路などの超低速走行から、未舗装路の高速走行まで制御範囲を拡大。これにより、どんな道でもより快適に走行できるようになっている。
オンロード同様、悪路でもAHCの存在がとても大きい。機能拡張による走破性能のアップが大きい。AHCは、ショックアブソーバーとガス・油圧併用のばねと金属ばねで車高を調整する。先代モデルでは、この機能が前輪のみ。しかし、新型LXには後輪にも装備された。その結果、より早く最適な車高設定が可能となったのだ。
大きな凸凹の悪路でも瞬時に車高を変化。とにかく大きく伸び縮みするサスペンションとの相乗効果で、しっかりとタイヤは路面を掴む。優れた4WD制御も加わり、グリグリと駆動力がタイヤに伝わり「こんなとこ、走れるの?」というような悪路でも、何事もなかったように走る抜ける。試乗コースには、色々なタイプの悪路が用意されていたが、とりあえずマルチテレインセレクトをAUTOにしておけば、ほとんどOKといった印象だった。走破性に関しては、隙が無い。
進むべき道を見つけた新型レクサスLX
この伝統の優れた走破性を維持したうえで、新型LXが目指したのは「悪路での乗り心地」。過去を振り返ってみても「悪路での乗り心地」にこだわったというコメントは、ほとんど聞いたことがない。自分自身もよくよく考えてみたら、悪路での乗り心地なんて気にしたこともない。だって、悪路なんだから乗り心地なんて悪くて当たり前でしょ! って考え方がベースにあるからだ。
ところが、レクサスの皆さん、頭がよい。悪路だって乗り心地が良ければ、うれしいに決まっている。とくに、高級オフローダーに乗るエグゼクティブなら、価格なりの価値を求める。しかも、悪路での乗り心地なんて、誰も気にしていなかったはずなので、この部分が良くなれば、それは他のオフローダーには無い魅力になり、レクサスらしさにもつながる。
そこで、新型LX600のエグゼクティブの後席に乗った。まず、比較的フラットな未舗装路。ここでは、細かい凸凹が連続するが、振動や衝撃がしっかりと抑え込まれていた。大型のシートも細かい振動を上手く吸収し、ドライバーに不快な振動を遮断している。
大きな凸凹では、やはりそれなりにクルマが大きく揺すられる。だが、足が良く動くので、衝撃を緩和。本来なら、ドン、ドンと刺すような衝撃が乗員の頭まで到達するのだが、意外とマイルド。ドーン、ドーンと衝撃が少し柔らかくなって伝わってくる。頭が振られる力も少なく、確かに快適性は高い。
先代LXは、姉妹車関係にあるランドクルーザーとの違いがあまり見つからず、なんだかモヤモヤとした不透明感があった。しかし、新型LXは、レクサス車として進むべき道を見つけた。それは、どんな道でも快適に移動できること。その進むべき道は、誰も通ったことがないと思われる世界へ続く。レクサス、やるじゃん。別にレクサスファンではないが、素直にそう思えた。
<レポート:大岡智彦>
■レクサスLX価格
・LX600 “EXECUTIVE” 18,000,000円
・LX600 “OFFROAD” 12,900,000
・LX600 12,500,000円
■レクサスLX 燃費、ボディサイズなどスペック
代表グレード LX600 EXECUTIVE
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) 5,100×1,990×1,895mm
ホイールベース[mm] 2,850mm
トレッド前/後[mm] 1,675/1,675
最低地上高[mm] 210
車両重量[kg] 2,600
エンジン型式 V35A-FTS V6 ツインターボガソリン
最高出力[kw(ps)/rpm] 305(415)/5,200rpm
最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] 650(66.3)/2,000~3,600rpm
トランスミッション 10速AT
WLTCモード燃費[km/L] 8.0km/L
サスペンション前/後 ダブルウィッシュボーン/トレーリングリンク
定員[人] 4人