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 最近発表される新型車では、全幅1800mmを超えるのはザラになっている。かつては1800mm以内に収めることで、日本国内の道幅に合うと謳っていたメーカーも、海外市場がメインとなったことで、どんどん肥大化している。

 新型車が登場するたびに、SNSのコメント欄で見かける「このクルマも1800mm超えか……」という声。裏道に入れば、いまだにすれ違うのもやっとという道が多い日本。駐車場も1800mmを超えるクルマを入れると左右の白線を踏んだ状態で駐車するような狭い所も多くある。

 取材などで「日本の交通事情に合いますか?」と聞かれると、「見切りはいい」や「小回りが利く」と弁解をするメーカー……。

 日本にはやはり1800mm以内、もしくはギリギリくらいのクルマが適しているのか? どのくらいのサイズだと「日本に合わないな……」と思うのか。そのボーダーと、日本車が大きくなり続ける理由を考察していきたい。

文/桃田健史
写真/HONDA、MAZDA、ベストカーWeb編集部

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■ヘリテージカーイベントで感じる旧車の小ささ

「昔のクルマは、本当に小さかったなぁ」。
「オートモービル カウンシル2022」(2022年4月15日~17日、於:千葉県幕張メッセ)の会場内で、さまざまなヘリテージカーの実車を見ながら、改めてそう感じた。

 これは、日本車に対して特に強く感じたことだ。

 主催者テーマ展示で、ランボルギーニ「ミウラ」や「カウンタックLP400」といった在りし日のスーパーカーたちもいた。1970年代のスーパーカーブームをリアルタイムで知る者としては「いま見ても、前衛的なデザインは実に美形であり、ボディサイズとしてけっして小さくはない」という印象がある。

 一方で、日本車については、50周年記念展示に登場したホンダ初代「シビック」や、マツダ「ロータリークーペ」レースマシンには「こんなに小さかったのか?」という感想を持った。

1972年に登場した初代シビック。全幅は1505mmと超コンパクトだった

 ヘリテージカーについてはオートモービルカウンシルに限らず、最近は”昭和ブーム”でもあり、1960年代から1980年代の日本車に関するテレビ番組が衛星放送でレギュラー化したり、旧車関連イベントも増えてきた。

 そうしたさまざまな機会に、ユーザーの皆さんも昭和のクルマたちに改めて接して「こんなに小さかったんだな、昔は」という思いを抱くのではないだろうか。その上で、「どうしてここまで、最近の日本車は大きくなってしまったのだろうか?」という疑問が芽生えてくるはずだ。

 クルマの大きさとは、全長×全幅×全高を示すが、なかでも気になるのは全幅(車幅)だ。

 ユーザーの間では最近、「1800mm越え」というフレーズが聞かれることが増えた。

 なぜならば、日本車は日本の道路事情を加味して「1800mmを越えないこと」を唱える自動車メーカーが、以前は多かったからだ。だが、1800mmに法的な意味合いはなく、あくまでも「日本で扱いやすい車のイメージ」という解釈である。

 そもそも、日本では長い間「大きくて高級な乗用車=3ナンバー車」というイメージが強く、5ナンバーと3ナンバーとの車幅における分岐点として1700mmを意識した時代もあった。だが、税体系が排気量主体に変わるなどした影響もあり、いまではコンパクトSUVでも3ナンバーが当たり前の時代になってしまった。

 そして、車幅の話題は1800mmとなっている。

■近年の日本車の車幅が広がったワケ

 では、なぜ最近の日本車のボディサイズは大きくなり、特に車幅が広がる傾向が強まっているのか? あくまでも筆者の私見だが、やはりアメリカ市場でのC/Dセグメントの影響が最も大きいと思う。

 クルマのサイズや車格について、自動車メーカーはグローバル市場では、Aセグメント、Bセグメント、Cセグメント、Dセグメントというカテゴリ―分けして商品/製品企画を進めるのが一般的だ。

 日本市場でコンパクトカーというのは、Bセグメントを意味する場合が多い。

 一方、アメリカ市場でコンパクトカーといえば、Bセグメントより大きなCセグメントを指す。また、2000年代以降はCセグメントの大型化が進み、ひとつ上のDセグメントと融合してC/Dセグメントと呼ばれるようになった。

 C/Dセグメントの代表例は、トヨタ「カローラ」「カムリ」とホンダ「シビック」「アコード」だ。それぞれがアメリカで年間販売台数が25~35万台という、北米市場での中核モデルとして長年に渡りアメリカのユーザーから支持されてきた。

ホンダ「アコード」などのモデルは、北米市場での中核モデルとして長年に渡りアメリカのユーザーから支持されてきた

 時代を振り返ると、日系メーカーは1980年代から海外戦略を強化してきたが、1980~2000年代初頭までは事実上、大きな販売台数を見込める北米市場対策と同義だった。

 時代が2000年代中盤に移ると、経済新興国BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ等)での市場拡大が日系メーカーにとって必須事項となる。なかでも中央政府による経済活動の民主化運動が急激に進んだ中国事業の拡充に急いだ。

 2010年代中盤頃までは、中国市場でのユーザー志向はアメリカでの生活に対する憧れが強いという特長が強かった。

 結果的に、日系メーカー各社は北米C/Dセグメントのトレンドと、中国市場への現地化を上手くバランスさせるような商品/製品構成を進めていく。

 さらに時代が進み、2010年代前半以降は、アメリカでSUVのコンパクト化が大きなトレンドになった。SUVは、1990年代にピックアップトラック向けのラダーフレームシャーシを活用するフルサイズSUVとミッドサイズのSUVが人気となり、2000年代には乗用車とプラットフォーム共通化が進んだ。それが、C/Dセグメントに波及し、セダンからSUVへの顧客流出が一気に進んだ。

 このトレンドが、中国のみならず、欧州や東南アジアにも広がっていく。

 その流れが2010年代後半以降、日本でも強まり、東南アジア向けAセグメントを活用したトヨタ「ライズ」、ダイハツ「ロッキー」が登場することになる。

 こうしたグローバルで、1980年代~2020年代にかけての『クルマのセグメントの変遷』を俯瞰すると、従来はグローバル市場での中核だったCセグメントが、市場ニーズによって大柄となり、それがSUVに波及し、それが日本市場に揺り戻されているといえるだろう。

2022年4月7日に日本プレミアで発表されたマツダ「CX-60」の全幅は1890mmとワイド。CX-60に限らず、近年登場するSUVは市場ニーズにより大型化している

 とはいえ、日本の国土は7割以上が山間部の島国であり、都市部や地方部を問わず住宅密集地の道路は狭い。

 国土交通省によると、道路の構造を決める道路構造令では、車線幅員は「すれ違いや追越などの実験結果を踏まえ、設計車両の幅に必要な余裕幅を加えて規定している」と示されている。車線の幅員は道路区分によって違い、第1種第1級では3.5mで、特例として3.75m。また第3種第4級では2.75mとなり、最大と最小で1mの開きがある。

 単純な計算で、車幅1800mm(1.8m)のクルマが上下1車線の道ですれ違うのは、1.8m×2=3.6mが必要であり、現在の日本の道路では路肩にはみ出すなどして、ギリギリとなるのが実状だ。

 日本の道の車線幅員、または駐車場の1台あたりのスペースを今後広げることは難しい。

 一方、日本を含めたグローバルでのSUVシフトによるクルマの大型化と幅広化はまだまだ進みそうだ。

 こうしたミスマッチ、そう簡単には解決することはできないのではないだろうか。

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