ダイムラー・トラックグループに属するメルセデスベンツ・トラックスは2022年5月30日、長距離輸送用のバッテリーEV(BEV)大型トラック「eアクトロス・ロングホール」の公道での試験を2022年中に開始すると発表した。
大型トラックにとって最も重要な長距離輸送という市場を担うことになる同車は、既にプロトタイプが製造され社内での試験を行なっているという。また、詳細は不明ながらeアクトロスの追加車型を準備していることも明らかにした。
併せて低床特装シャシのBEV大型トラック「eエコニック」を、早ければ今年7月から量産化することも発表した。
商用車で世界最大手のダイムラー・トラックは、2030年までに欧州で販売する車両の50%、2039年までに日・米・欧の新車販売のすべて、2050年までに道路輸送全体の「CO2ニュートラル」実現を掲げる。
欧州では、メガワット級の充電器を要する商用車向けの充電インフラでトラックメーカー各社が提携するいっぽう、顧客向けの試乗会にBEVトラックを用意するなど、ダイムラー・トラックグループが電動化を着々と進めている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Daimler Truck AG
大型トラックの最重要セグメント
ダイムラー・トラック傘下のメルセデスベンツ・トラックスは2021年に短距離の集配送用のバッテリーEV(BEV)大型トラック「eアクトロス」の量産・販売を開始しているが、この度、追加のBEVトラックの投入が発表された。
大型車にとってとりわけ重要なのが長距離輸送用トラック(トラクタ)というセグメントだ。発表された「eアクトロス・ロングホール」はこのセグメント(の一部)を担うもので、1充電当たり500kmの航続距離を目指している。2024年の量産化を計画する。
その最初のプロトタイプとなる40トンのBEVトラックが既に製造されて、社内での試験を行なっているといい、開発チームの予定では、2022年中に公道でのトライアルを開始することになる。
eアクトロス・ロングホールは、いわゆる「メガワット充電」に相当する高度な充電にも対応する。また、メルセデスベンツ・トラックスではeアクトロスに追加するバリエーションを準備中としたが、詳細は明らかにしなかった。
これまでのeアクトロスの車型は、航続距離の異なる「eアクトロス300」と「eアクトロス400」で、eアクトロス300ならバッテリーパック3つで航続距離300km、eアクトロス400は4つで400kmというスペックだ。
バッテリー容量はBEVの車両価格に大きく影響を与えるほか、トラックの場合は積載量への影響があり、「大は小を兼ねる」というわけにはいかない。eアクトロスシリーズで航続距離を細かく刻んできた背景には、こうした事情もありそうだ。
さらに、ゴミ収集など自治体需要の多い低床特装トラックのBEV「eエコニック」を、早ければ7月までに量産化し、ヴェルト工場からロールオフする。同工場が製造する完全電動トラックはeアクトロスに続き、2モデル目となる。
欧州で試乗イベントを開催
メルセデスベンツ・トラックスの目標は、2030年までに欧州でCO2ニュートラルな車両の比率を50%にすることだ。欧州の顧客に電動モビリティの導入をさらに加速してもらうために、ヴェルト工場周辺で6月上旬から数週間の予定でBEVトラックへの試乗を含むイベントを計画している。
インフラ、サービス、BEVトラックなど、電動モビリティの重要な側面について専門家が解説するほか、eアクトロス300の試乗も可能だ。もちろんルートや積載量などは現実に即したものとなっている。
メルセデスベンツ・トラックスのCEOを務めるカリン・ラドストローム氏は次のように話している。
「ヴェルトで開催するeアクトロスの試乗イベントに多くの興味を持っていただいたことは、お客様の間で電動モビリティが受け入れられている証拠です。お客様が私たち関係者送っている強いシグナルは、より多くの電動のトラックを市場に投入し、充電インフラを拡充すること、そしてEVトラックがコストパリティ(=ディーゼル車と同等のコスト)を達成することです」
eエコニックは間もなく量産化
いっぽう、ミュンヘンで開催されたIFAT(上下水道、廃棄物処理などに関する世界最大級のトレードショー)で「eエコニック」が公開された。消防はしご車のベースなど日本にも導入されている「エコニック」は大型の低床特装用シャシで、eエコニックはそれを電動化したものだ。
低床シャシはゴミ収集など自治体での利用が多いトラックだが、電動化により騒音が非常に少ないeエコニックは、特に早朝の都市部などでの利用に適している。
eエコニックの構造は、ダイムラー・トラックのグローバル・プラットフォーム戦略の恩恵によるものといっても過言ではない。パワートレーンはeアクトロスのものと同じだからだ。
ヴェルト工場は2021年10月からeアクトロスを量産しており、同工場で低床シャシと組み合わせることで、早ければ今年の7月にもeエコニックの量産を開始する。
なお、フランクフルトで廃棄物の運搬を行なっているFES・フランクフルター・エンツォルグンクが量産前のeエコニックを使用して実用試験を行なっているそうだ。
充電インフラでは各社と提携
BEVトラックを運行する場合に欠かせない充電インフラに関しては、運送会社の駐車場や物流施設に設置する充電器の開発に、メルセデスベンツ・トラックス、シーメンス、ENGIE、EVボックスグループなどが共同で取り組んでいる。
ただ、長距離輸送となると毎日帰庫できるわけではないので、幹線道路沿いなどに公共の充電設備(パブリック・チャージャー)を整備することも重要になる。このため、欧州ではダイムラー・トラック、トレイトングループ、ボルボグループの3社が合弁企業を設立することで合意している。
合弁の目的は、欧州における長距離輸送用BEV大型トラックと長距離BEVバスのために、高性能な充電ネットワークを開発し、運用することだ。欧州の運送会社のオペレータはトラックのメーカーやブランドに関係なく、この充電ネットワークを使えるようになる。
ちなみにダイムラー、トレイトン、ボルボの3社は商用車の世界では欧州のトップ3であるとともに世界でも最大規模のグループだ。
HoLaプロジェクトと呼ばれる高性能充電ネットワークの整備計画は、ドイツ自動車工業会(VDA)の支援を受けており、ドイツ国内の4地点のうち2か所にメガワット充電システム(MCS)を備えた高性能充電器を設置し、実運用を通じて試験する。プロジェクトには他にも多くのパートナーや研究者が参加している。
究極のゴールに向けて
メルセデスベンツ・トラックスは今年、デジタル(カメラ式)サイドミラー「ミラーカム」を刷新した。改善したのは表示と安全性に関する部分で、外見としてはカメラのアームが左右ともに短くなった。第2世代のミラーカムは、もちろんeアクトロスにも装着されている。
寸法を変更した利点はいくつもあるが、一般的なサイドミラーの視点に近づけることで、従来車から乗り換えた場合にドライバーが感じる違和感が少なくなったという。ドライバーにとって親しみやすいものとすることで後退時などの安全性向上につながるそうだ。
安全性やドライバビリティの改善を続けるいっぽう、ダイムラー・トラックは2039年までに欧州、日本、北米で販売する新車をすべてCO2ニュートラル(タンク・トゥ・ホイールで)にするという野望を掲げている。
ダイムラーは「メルセデスベンツ」ブランドのBEV商用車としては2018年に大型バスの「eシターロ」、2021年に大型トラックの「eアクトロス」をローンチした。先述のとおり、今年(2022年)中に大型低床トラックの「eエコニック」、2024年に長距離大型トラックの「eアクトロス・ロングホール」をリリースするというロードマップだ。
ダイムラーグループでは今年、三菱ふそう(日本)の小型トラック「eキャンター」新モデル、フレイトライナー(米国)の大型トラック「eカスケイディア」量産モデルも発売する予定で、グループとしてもトラックの電動化を進めている。
しかしBEV一辺倒というわけではなく、2020年代の後半には水素燃料電池(FCEV)トラックの量産化を計画しており、世界最大級のトラックメーカーらしく、BEVとFCEVの両面戦略を採る。
最終的には2050年までに道路輸送そのものをCO2ニュートラルにするというのが、ダイムラーグループの目標だ。
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