もっと詳しく
日本以外では必須装備なのに…タイヤ空気圧監視システムがイマイチ日本で普及しない理由

 米国や欧州、中国など、主要国で装着が義務化されているTPMS(タイヤ空気圧監視システム)は、タイヤの空気圧の低下をドライバーに警告するシステムです。空気圧を適切にしておくことは、安全のためだけでなく、燃費向上にも有効なことから注目されていますが、日本ではまだ装着が義務化されておらず、装着は一部の高級車に限られます。

 日本では、なぜTPMS装着車が普及せず、また、法制化されないのでしょうか。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、NISSAN、LEXUS、HONDA、MAZDA、写真 AC
イラスト:著者作成

【画像ギャラリー】タイヤ空気圧不足を知らせてくれる「TPMS」が装着されている国産車(27枚)画像ギャラリー

日本ではまだ法制化検討の段階

 TPMS(タイヤ空気圧監視システム)は、タイヤの空気圧を常時モニターして、空気圧が所定のしきい値以下になるとドライバーに警告するシステムです。

 米国では2007年、世界に先駆けて、TPMSの装着が義務化されました。その後、欧州、韓国、台湾、ロシア、中近東、中国と、日本を除く主要な世界の市場で装着が義務化されています。現在、日本でも検討はされていますが、現在のところ法制化されていません。

 米国でTPMSが法制化されたのは、2000年にファイアストーン社のタイヤのバーストによって重大事故が発生したことに起因します。ファイアストーン社は、タイヤの構造に問題があったとしてリコールを行いましたが、一方でタイヤの空気圧管理を怠っていたことが、バーストを誘発させる要因のひとつであることも判明。これを受けて米政府は、常時タイヤの空気圧を監視するTPMSの装着が必要との結論付けたのです。

 日本では近年、タイヤがパンクする事例が増えています。JAFによると、ロードサービス出動件数のうち、タイヤのトラブルは2017年度に約39万件と、過去最多を記録したそう。これは、10年前である2007年度(約29万件)から、約10万件も増えていることになります。

空気圧が20%低下すると、燃費は4%も悪化することも

 タイヤの空気圧が低下すると、タイヤは大きく潰れながら回転するので、サイドウォールに大きな負荷がかかります。その状態が続くと、偏摩耗や劣化が加速していきます。そうした劣化が蓄積し、限界までくるとパンクやバーストが発生。特に高速走行ではそのリスクが高まるため、非常に危険です。

 また、転がり抵抗が増大することから、燃費も悪化します。タイヤの空気圧が20%低下すると、市街地走行で2%、郊外路走行では4%も燃費が悪化するとされています。自転車でも、タイヤの空気の抜けていると、大きな踏力が必要となったり、ハンドルが取られやすくなりますが、それと同じです。空気圧不足は、走りへの負荷が大きくなるのです。

 高速道路でパンクやバーストが起これば、クルマのコントロールができなくなり、最悪の場合、死に至るような重大事故にも繋がってしまいます。

空気圧が低い状態で高速走行すると、タイヤの表面が波状に変形しながら熱を発生。これにより、タイヤの内部の補強材が破損して、タイヤが突然破裂する「バースト」が発生(PHOTO:写真AC_ 隊長37)

ABSを利用した簡易システムも

 一般的なTPMSは、4本のタイヤの空気圧をモニタリングする直接式ですが、簡易的な間接式TPMSを採用している例もあります。

・直接式TPMS
 タイヤのエアバルブ内などに通信機と一体化した圧力センサーを取り付け、空気圧と温度を直接測定、その情報を無線で車両側に送ります。空気圧が所定のしきい値を下回った場合に、インパネなどの警告灯の表示によって、ドライバーに空気圧が異常であることを知らせます

・間接式TPMS
 空気圧を測定する代わりに、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)で使っている車輪速センサーを利用します。もし、どこかのタイヤの空気圧が低下すると、タイヤの外径が小さくなり、他の3輪との回転差が生じます。この回転差から空気圧の異常を推定、警告するシステムです

 現在ほとんどのクルマにABSが制御されているので、間接式TPMSは制御ソフトの変更だけで容易に対応でき、低コストであることが大きなメリットです。BMWやメルセデスなどの欧州車の一部が間接式を採用していますが、直接式に比べると信頼性(精度)が劣り、米国の法規には適合していません。

日本では高級車やランフラットタイヤ装着車に限られる

 ほとんどの輸入車には、TPMSが装備されていますが、前述しているように日本車での装着は限定的です。ただ、空気圧が0になってもタイヤが潰れない特殊な構造のランフラットタイヤ(R.F.T)装着車は、パンクしても空気圧の低下が分かりにくいので、TPMS装着が義務付けられています。

 TPMSが装着されている国産車は、以下のとおり。そのほとんどは、直接式TPMSです。

・トヨタ
 カムリ、クラウン、センチュリー、スープラ(R.F.T)、ランドクルーザー、ランドクルーザープラド
・レクサス
 CT以外の全車種に装備(UX、IS、LC、LSは、R.F.T)
・日産
 スカイライン(R.F.T)、フーガ、シーマ、GT-R(R.F.T)
・ホンダ
 レジェンド、NSX
・マツダ
 CX-5

日本で義務化されないのは、コストの問題か

 欧米でTPMSの義務化が始まって以降、日本でも法制化の要望の声が高まっていますが、国交省は今のところ検討中という立場を変えていません。TPMS装着関しては、メリットはあるものの、デメリットは特に見当たらないことから、日本で義務化されない理由は「コストアップ」だと思われます。

 オプションでTPMSを用意しているランクルを例にとると、その価格はスペアタイアを含めて5本分で2万1600円に設定されています。これを高いと考えるかどうかはそれぞれの価値観によりますが、タイヤの性能が飛躍的に向上している今、道路環境が良く、高速走行の頻度が欧米ほど多くない日本では、多くの人はパンクを経験したことがなく、バーストのリスクも低い、という見方があるかもしれません。

 しかしながら、クルマに高いレベルの安全性と燃費性能が求められている今こそ、TPMS装着は不可欠です。さらに装着を加速すべきもう一つの理由として、自動運転化との関わりがあります。

 自動運転を進める上で、タイヤの空気圧は常時設定値を満たしていなければいけません。さまざまな情報をもとに自動で走行し、曲がったり止まったりする自動運転にとって、タイヤの空気圧にアンバランスが生じれば、運転に狂いが生じる可能性が出てきます。今後、さらに精度の高い自動運転を実現するためには、メーカーは「コストがかかるから」とは、言っていられないのではないでしょうか。

◆      ◆     ◆

 タイヤは、クルマを足元から支える重要な部品、しかしタイヤの空気圧や劣化具合を常日頃からチェックする人は意外に少ないようです。早急な法規制化も必要ですが、メーカー自ら装着を推進する、積極的な姿勢も見せてほしいところです。

【画像ギャラリー】タイヤ空気圧不足を知らせてくれる「TPMS」が装着されている国産車(27枚)画像ギャラリー

投稿 日本以外では必須装備なのに…タイヤ空気圧監視システムがイマイチ日本で普及しない理由自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。