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日産ルークスが軽販売2位に躍進、ライバル車に対するメリットデメリットとは

 絶対王者のホンダ「N-BOX」や、それに続くスズキ「スペーシア」とダイハツ「タント」など、いまや軽自動車において不動の人気ジャンルである、軽スーパーハイトワゴン。軽自動車の販売台数ランキングにおいても、常にこの3車種が3位までを独占する状態がつづいていたが、2022年3月は、2年前に登場した日産「ルークス」が、N-BOXに次ぐ2位となった。

 ルークス躍進の理由とは!? そしてルークスはこれを機に軽スーパーハイトワゴンジャンルの勢力図を変えることができるか!?? ルークスのライバル車に対するメリットとデメリットを挙げつつ、考察しよう。

文:吉川賢一
写真:NISSAN

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ルークス躍進の理由は単に「部品不足の影響」

 まずは、ホンダ、スズキ、ダイハツ、そして日産の軽スーパーハイトワゴン4台の販売台数を確認しよう。全国軽自動車協会連合会のデータによると、2022年3月は、N-BOXが1位(25,529台)、2位がルークス(13,245台)、3位がスペーシア(10,148台)、4位がタント(10,012台)であった。

 ルークスは2021年8月まで、スペーシアやタントよりも販売台数は少なかった。また2021年12月~2022年1月は、一部でエアバッグの動作不良が確認されたため生産・販売・登録を中止しており、販売台数は数百台程度と急ブレーキがかかっていた(2月上旬に改良されて生産と販売が再開、既販モデルもリコールを実施して対応)。

 その反動として3月の販売躍進が考えられるが、それでも地力がなければここまでの躍進はない。ルークスは実力があるからこそ売れているといえる。

 実は半年前の2021年10月、単月ではあるものの、ルークスはN-BOXにも販売台数で勝っていた。これも、半導体を含む自動車用部品不足の影響によるものと考えられ、ルークスが人気となったわけではなく、単にN-BOXの生産量が減少していたのだろう。

ルークスは、2021年12月~2022年1月に工場での生産制限を行っており、販売台数は急ブレーキがかかっていた

弱点はないが、勝てるポイントもないルークス

 日産がアピールするルークスの訴求ポイントは、デザインとプロパイロット、インテリジェントアラウンドビューや広い室内空間、後席ロングスライドや大開口&ハンズフリーオートスライドドア、そして運転のしやすさ、の7つだ。

 デザインに関しては、旧型のデイズルークスに対して、つり上がったヘッドライトや、フロントからリアまで直線的なキャラクターライン、ウィンドウ下端のラインの延長線上にボンネットを持ってくるなど、完成度の高いシャープな印象だ。車両後端にあるウィンドウラインのキックアップは、まるでセレナのようにも見える。

 プロパイロットとアラウンドビュモニターに関しては、ホンダセンシング(N-BOX)や全方位モニター(スペーシア)など、既にライバルも導入している技術であり目新しさはないが、「全部乗せ」していることには価値があるといえる。ただ、広い車内空間に関しては、他の軽スーパーハイトワゴンと比べて、ルークスが特別優れているわけではない。ラゲッジルームのフロア下にあるアンダーボックスも、他メーカーも当たり前に採用しており、ルークスだけの魅力とはいえない。

 後席ロングスライドに関しても、320ミリ前後ロングスライドは、実際に使ってみると、移動量は相当大きく感じるが、N-BOXの助手席スーパースライドシート(最大570ミリ)と後席の前後スライド(190ミリ)との組み合わせや、タントの「運転席ロングスライド(最大540ミリ)」の使い勝手の良さの前では、ルークスのスライド量なんて、霞んでしまう。また、大開口&ハンズフリーオートスライドドアに関しても、ドラマチックな大きさではないし、ハンズフリーオートスライドドアは、N-BOXにもディーラーオプション設定されている。

 運転のしやすさに関しても、見晴らしの良いアイポイントの高さはあるものの、死角に影響するAピラー幅はN-BOXほど細くもなく、N-BOXに勝てる魅力とは言いがたい。ただ、走行性能に関しては、静粛性の高さとすっきりとしたハンドル操舵力が素晴らしく、エンジン音もガサツな感じがなく、音質もいい。ロードノイズは静かで、路面を滑るように走るので、軽自動車だということを忘れてしまうほどだ。ただし、静粛性はN-BOXの方が勝っている印象で、ノイズ低減はまだまだ対策の余地があると感じた。

 このように、日産は7つも訴求ポイントを挙げているが、どれもルークスだけの魅力とはいえない。クルマとしての仕上がりは優秀で、日産のもつアイテムが全部乗せされてはいるのだが、これといって目玉ポイントがなく、これがルークスの人気が、いまいちパッとしない理由であろう。

軽用e-POWER搭載で突き抜けろ!!

 王者N-BOXのクルマとしての完成度は本当に高い。まさに「コンパクトカーをつくる要領で「軽」をつくるとこうなる」というのがN-BOXで、この一台があれば、普段の買い物からドライブ、長距離旅行まで、何の不便も感じないだろう。荷物も大量に乗るし、乗り心地や音振性能といった「走りの質感」も高いし、ホンダの技術力の高さ、仕上げの丁寧さが表れている。

 ルークスも、日産の開発の息吹が大いにかけられていることで、スペーシアやタントに比べれば、俄然走りは良い。だが、N-BOXに追いつき、真に打ち負かすためには、まだ仕掛けが足りていないのも事実だ。コストに厳しい軽自動車にこれ以上を求めるのか、という声もあるが、隙が全く見当たらないN-BOXに勝つには、それをやらなければならない。

 日産はこのあと、軽自動車規格のバッテリーVを発表する予定だ。補助金込みで、実質200万円以下で購入できるとされている。軽とバッテリーEVの組み合わせこそ、小型車の「答え」だと確信している筆者だが、一般ユーザーにとっては、バッテリーEV購入のハードルは依然として高い。

 日産は、e-POWERでノートを一躍人気車に引き上げた。軽自動車では、まだどのメーカーからもフルハイブリッドは登場していない。軽自動車向けの小排気量e-POWERを用意し、他メーカーに先駆けて軽のストロングハイブリッド「ルークスe-POWER」を登場させることができれば、ルークスは軽スーパーハイトワゴンジャンルで優位に立つこともできると思う。

 ダイハツは、ロッキーハイブリッドに搭載したスマートeハイブリッドは、「軽へも使えるユニット」だということを説明している。電動車開発にいそしむホンダも軽用e:HEVを開発していてもおかしくはない(2022年末~2023年に登場する次期型N-BOXに搭載されると予測している)。先行するクルマだけが得られる「利益」を手にするのはどのメーカーか、今後も要注目だ。

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