初めて新車を購入する際には、心配ごとが多い。決して安い買い物ではないからだ。国産自動車市場の場合、購入者の60%は自己資金で30%程度はマイカーローン、10%程度は銀行のマイカーローンを活用しているという。しかしマイカーローンを組むにもいろいろあってどれが本当にお得なのかわからないという人が意外に多い。そこで今回はマイカーローンを検証してみたい。
文/松崎隆司(経済ジャーナリスト)
写真/AdobeStock(アイキャッチ写真は@Paylessimages)
■マイカーローンの80~90%はディーラーローン
マイカーローンの主要な提供先はディーラー、メーカー系ファイナンス会社、信販会社、損保、銀行などがある。しかしこうしたマイカーローンには実は一定の棲み分けがある。
自動車の市場というのはトヨタ、ホンダ、日産などの国内ディーラーが販売する「国産自動車市場」、BMW、ベンツといった海外ディーラーが販売する「輸入自動車市場」、そして「中古車市場」の3つに大別されるが、それぞれの市場によってマイカーローンの提供先のシェアは大きく変わってくる。
主に国産自動車市場では、国内のディーラーやメーカー系ファイナンス会社が圧倒的な力を持ち、輸入自動車市場では海外メーカーのファイナンス会社が中心となっている。信販会社は長年培った個人に対する与信管理のノウハウを生かして独立系ディーラーや中古車ディーラーと提携しながら自動車ローンを展開している。ちなみに新車市場のローンはディーラーやメーカー系のファイナンス会社が80~90%シェアを持ち、残り10%を銀行や損保、独立系のファイナンス会社(主に信販会社)が資金を提供している。
そもそもマイカーローンはディーラーの立て替え払いから始まっている。1980年代ごろから顧客が分割返済を希望すればディーラーが「割賦販売通知書」を発行し、顧客がこれを銀行に提示すると銀行はマル専手形(専用約束手形)を交付した。
マル専手形とは、銀行が、約束手形のみを決済する当座預金口座(マル専口座)の開設を認めたうえで利用者に交付する「専マーク」入りの手形をいう。法律上は通常の約束手形とまったく同じ。乗用車のディーラーなど耐久消費財の販売業者が、事前に銀行の支店と提携しておき、割賦販売を希望する顧客について、マル専口座の開設を銀行に取り次ぐことによって、マル専手形が交付されるというものだ。
ディーラーは金融機関や自動車メーカーなどに割り引いてもらって運転資金を確保した。しかし一旦債務不履行が発生するとディーラーの営業担当者が自動車ローンの回収業務を行わなければならならず、バブル崩壊で自動車ローンが不良債権化したことも後押しし、1990年代初頭には、国内外の自動車メーカーはファイナンス会社を設立した。
「それまで割賦販売のファイナンスはファイナンス会社(主に信販会社)が取り扱っていたのですが、ディーラーは自分たちが車を売ったお客様の債権や顧客データまでも売り渡していたのです。戦後車が売れるようになると、自動車メーカーは収益事業の一つとして金融事業を内製化しようと考えるようになったのです」(ファイナンス会社幹部)
ここから本格的なディーラーローンが誕生してくるのである。
ただディーラーローンと一口にいってもいくつかのタイプがある。ここでは代表的な2つを例に挙げてみよう。
■ディーラーの収益は車体、ローン金利、保険手数料
トヨタ系のディーラーの大半は自社で割賦販売をし、ファイナンス会社(主にトヨタファイナンス)に信用調査、保証業務と集金代行業務を代行してもらう「集金保証方式(ディーラー主導型ローン)」を展開した。この方法だと割賦販売の手数料(金利)はディーラーの収益となる。ディーラーは割賦収益の一部から保証料と業務受託手数料をファイナンス会社に支払っている。
トヨタ以外のホンダ、日産など国内自動車メーカー系のディーラーや中古車販売会社などは信用調査、保証業務、集金業務など金融に関わる業務をすべてファイナンス会社に任せ、立替払してもらう「個品割賦販売購入あっせん方式(ファイナンス会社主導型ローン)」が取られている。
海外の自動車メーカーはファイナンス会社(主に信販会社)に債権保証と業務委託を行なったり、信販会社の立替払を併用しているが、これも金融業務を外部に委託しているという意味ではファイナンス会社主導型ローンのひとつと考えてもいいのではないだろうか(BMWは自社のファイナンス会社による立替払)。
「国内の自動車メーカーの中で、トヨタ系の大手ディーラーがなぜこのような方式をとったかというと、戦後、クルマがどんどん売れていた時に、値引き合戦が起こってきたのです。そのためディーラーの収益はどんどん落ちていく。トヨタ系の大手ディーラーには地場の独立系のディーラーが多いのですが、金融、保険で収益を上げようとディーラーが直接自社割賦販売をするようになったのです」(ファイナンス会社幹部)
一方でホンダ、日産、マツダなどトヨタ以外のメーカー系ディーラーは、直販店が主流を占めており、メーカーが主導する形でメーカー系のファイナンス会社が主導するローンが誕生した。メーカー系ファイナンス会社を使うことでメーカーやファイナンス会社から販売促進費が提供されることもある。
「自動車業界は販売競争が激しく値引き合戦になりやすい。そこで車の車体だけでなく、金利や保険を組み合わせて利益が出るような構造になっているのです。ただ基本的には金利補てんだとローンを組んだお客様だけの特典になってしまうので国内のメーカーやディーラーはやりたがりません」
ただ海外の自動車メーカーのローン金利は非常に安く設定されている。それは国内の自動車メーカーと海外の自動車メーカーとの販売戦略の違いからだ。
「国内の自動車メーカーは自動車ローンの金利を高く設定し、自動車の販売価格の値引きを実施する傾向がある。一方で海外メーカーは販売価格の値引きをしません。値引きをすると車のブランドイメージが下がってしまうからです。だから自動車ローン金利を低く設定する代わりに、車体価格の値引きを行わない傾向がある。ローン金利を収益とみなすか、販売促進の手段とみなすか、という経営戦略の違いを反映しています」(同)
■低金利が売りの銀行系マイカーローン
一方でディーラーローンよりも金利が安いとしてWeb上で注目されているのが銀行のマイカーローンだ。
銀行のマイカーローンはだいたい1~4%程度の変動金利で中には、横浜銀行(0.9~2.4%)や千葉銀行(0.85~2.55%)のように破格の低金利を提示しているところもある。そうじてディーラーローン(3~8%程度)に比べれば金利は安い。しかもクルマの所有権は最初から所有者に移り、車検証の名義も所有者名義となるから金融機関に相談しなくても自由に売却したり、譲渡したりすることができる。
「銀行はディーラーやファイナンス会社に比べて資金の調達コストが圧倒的に安い。だから安い金利を設定することができるのです」(同)
ほかにもメリットはある。
ディーラーローンは購入する車が決まって費用が確定しないと審査できないところが多いが、銀行マイカーローンは大まかな費用がわかっていれば審査できる。
さらに融資の対象がクルマではなく個人であるため、用途が広いということだ。
クルマは取得後に自動車税、重量税、取得税などの税金がかかるが、ディーラーローンでは購入時の車体+オプション代、取得時の税金のみで、取得後の税金など法定費用はローンで賄うことはできない。
しかし銀行マイカーローンは交渉次第で取得後の法定費用もローンに組み込んでもらえる。低利ローンの借り換えにも使える。ただその一方で、銀行は個人に対して無担保で融資するわけだから、銀行融資(通常実際に審査するのは保証会社である信販会社やファイナンス会社)の審査に必要なさまざまな書類を自分で用意する必要がある。
そのため煩雑な手続きが必要となり、審査自体も厳しく、時間もかかる。審査する保証会社との連携度合いにもよるが5日程度かかるといわれている。ディーラーローンの場合、申請はディーラーが代行し、審査も迅速で原則当日、早ければ1時間程度で結果が出る。
では銀行マイカーローンは手続き上の煩雑さと審査の厳しさを除けば、ディーラーローンよりも好条件だといえるのだろうか。
確かにローンの金利だけ見れば銀行のマイカーローンに分があり、中古車の購入や独立系のディーラーなどで新車を購入する場合にはかなり役に立つだろう。
しかしメーカー直販のディーラーや特約店で新車を購入する場合には、金利だけでなく車体の値引き率やさまざまなサービスを総合的に見て比較しなければならない。車両の本体価格をあらかじめ残価として据え置き、残りの金額を毎月支払う「残価設定ローン」を選えらべば、月々の支払が銀行のマイカーローンよりも少なくて済むこともある。
利便性を取るのか、金利を取るのか、実際の月々の支払額の少ないものを選ぶのか。
どのようなローンを選ぶのかは購入者が何をもっとも重要視するかにかかっているといってもいいのではないだろうか。
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