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リアドアはなぜ全部スライドドアにならないのか? スライドドアの功罪

 昨今人気があるクルマ、といえば、軽のスーパーハイトワゴン、そして、SUVやミニバンだろう。軽スーパーハイトワゴンとミニバンの魅力は、広々とした車室内もあるが、何といっても後席のスライドドアの利便性だ。

 一方、いま大人気のSUVは、最低地上高が高いことによる悪路走破性の高さが魅力のひとつではあるが、おそらく多くの人が「SUVの見た目のかっこよさ」で、選んでいると思われる。そのため、「ほんとうはSUVがほしいけど、スライドドアの利便性は捨てがたい…」と、泣く泣くミニバンを選んでいるケースも多いのではないだろうか。

 それならば、SUVやセダン、コンパクトカーなど、全てのクルマの後席ドアをスライドドアにすれば万事解決、大ヒット間違いなしで、多くの人が選んでくれるはずだが、現時点ではそうなってはいない。すべてのクルマの後席ドアを、スライドドアにすることはできないのだろうか。

文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN、SUZUKI、DAIHATSU、ベストカー編集部

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レールを設置しようとすると、ボディ形状が変わる

 スライドドアは開口部が広いので、荷物を持ったままでも、乗り降りがしやすい。また、ドアがボディに沿って開くので、駐車場などで隣のクルマとの隙間が少なくてもラクに乗り降りができるし、ドアを開けたままでもジャマにならないので、乳幼児や子供の世話なども容易にできる。これらは、スライドドア車のみが持つメリットであり、SUVをはじめとしてセダンやハッチバックなどのヒンジドア車では出来ないことだ。

 ただ、「SUV+スライドドア」の組み合わせたクルマは無いわけではない。その筆頭がデリカD:5だが、上屋のかたちは7人乗りのミニバンに近いので、いま我々が考えているような、「スライドドアのSUV」像とは違なる。もうちょっと、スライドドアを付ける方法を、具体的に考えていこう。

 スライドドアを設置するには、ボディと平行にドアが移動するよう、上側と下側にレールを設置しないとならないが、リアガラスが緩く傾斜しているSUVやセダン、クーペ、全長が短いハッチバックには、上側のレール自体を設置する場所がない(下側はサイドシル下側に仕込むことは可能)。設置のためには、レールを延長する分だけルーフを伸ばす必要があり、伸ばしてしまうと当然、それぞれのボディ形状は変わり、SUVもセダンもクーペもハッチバックも、ステーションワゴンや大型SUVに近い形状となってしまう。

利便性が高いスライドドアだが、デメリットも多い

 すべてのクルマがスライドドアにならない理由は他にもある。例えば、上記で触れたレールの設置という課題が解決され、「スライドドアのSUV」が実現できるとなったとしよう。このスライドドアのSUVが、ヒンジドアでつくられた場合よりも悪化(低下)することは、価格が高くなること以外に2つある。

 ひとつは重量増加による燃費悪化だ。スライドドアはスライド機構を持つために重量がかさむうえ、自らの重さでドアが撓まないよう、内部に補強が必要となる。また両側パワースライドともなれば、さらに重量が増し、車体側にも補強が必要となる。重量増加は燃費悪化につながり、商品力としては大きなデメリットとなる。高い次元の環境性能が求められる現代において、このデメリットのインパクトは大きい。

 もうひとつが、運動性能の低下だ。スライドドアは、従来のヒンジドア車と比べて、車両重心が上がるため、これまでのようなハンドリングや高速直進性は望めなくなり、SUVやセダン、ハッチバックの持つ「走りの良さ」は台無しとなってしまう。さらには開口部が大きくなったことで、こもり音のようなノイズが発生しやしくなる。その分、余計に音振対策が必要となり、コスト、重量に跳ね返るという堂々巡りとなる。

 もちろん、「それよりもスライドドアによる利便性がほしい」と考える人もいるだろうが、ボディサイズが大型化して燃費も悪化し、走りのよさもスポイルされてまでもスライドドア車がほしいと考える人は、既存のスライドドア車を選んでいるだろう。もちろん開発するメーカーの努力次第ではあるが、SUVであればSUVのいいところを伸ばす方が、失敗する可能性も少なく、物理的に不可能ということ併せて、現時点はそういう方向で、スライドドア車が限られているものだと思われる。

ダイハツ「タント」のミラクルオープンドア。助手席側はBピラーがないため、前席ドアと後席スライドドアを開けると大開口となる

ブレークスルーに期待!!

 昨今は、4ドアクーペやクーペSUVなど、新しいジャンルのクルマが多く登場している。凝り固まった車型をブレークスルーしてくれたこうしたクルマの存在には、ワクワクさせられるが、ドア形状に関しては、現時点、ミニバン以外はヒンジドアが大多数であり、スライドドアは不可能だったとしても、ドア形状にはまだ、ブレークスルーの余地があるような気もする。

 観音開きで登場したマツダMX-30のほか、過去には助手席側がスライドドア一枚のトヨタポルテなどもあったが、これらの後を追うようなクルマが登場してくれることを期待したい。

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