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トヨタEV説明会から4カ月超 トヨタ以外の国産メーカーは今、何をしているのか?(日産・ホンダ編)

 最近、自動車業界のニュースはトヨタの話題が目立つ。一般メディアでは8割以上、ベストカーのような自動車専門メディアでも話題の半分以上がトヨタ1社で占められている感覚だ。国産乗用車メーカーはほかに7社もあるのに、だ。

 トヨタの動きがダイナミックなのは確かだが、他社も鳴りを潜めているわけではなく、将来を見据えたさまざまな戦略を打ち立てている。本企画では2022年下半期以降の「トヨタ以外のメーカー」の主要ニュースを見ていく。

 前編となる今回は国産BIG3の残る2社、日産・ホンダの「今」をお伝えしたい。

※本稿は2022年2月のものです
文/国沢光宏、桃田健史、写真/ベストカー編集部 ほか、撮影/三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY ほか
初出:『ベストカー』2022年3月26日号

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■まずは「進撃の巨人」トヨタを振り返る

今年の春にデビューするレクサスのBEV「RZ」。レクサスは100%BEVのブランドになると発表している

「トヨタ以外」のメーカーの動きを探り評価していくこの企画だが、まずはトヨタの動向を確認しておこう。

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 直近で最もニュース性が高かったのは、昨年12月14日に行われた「バッテリーEV戦略に関する説明会」だろう。

 今は閉鎖された東京お台場のメガウェブに今後登場させる16台のBEVを並べ、2030年までに350万台のBEVを販売するとの目標を発表。それまでトヨタはBEVに消極的と見られていたからびっくり。年の瀬にメガトン級の大ニュースを炸裂させた。

 これ以外にも話題は豊富。今年1月28日には定額新車サービス「KINTO」で購入したクルマを最新版に進化させる「KINTOファクトリー」を開始している。

 買い替えなくても最新版の愛車に進化させるサービスは画期的で、スタートはトヨタ&レクサスの8車種、29店舗と限定的だが、これからの展開を期待させるニュースだ。

 また、BEVの新戦略を発表する1週間前の昨年12月7日にはノースカロライナ州に米国での車載バッテリー工場の建設を正式に発表。稼働は2025年で、年間120万台分のバッテリーを供給するとした。車載バッテリーを確保できてこそのBEV戦略だけに、地味だがこれも重要な動きと言える。

 このほか公表されているニュースリリースで目立つのは、静岡県裾野市に建設中の実験未来都市「ウーブンシティ」など、トヨタのイノベーション部門を担当する子会社ウーブンプラネット社の動き。

 豊富な資金力を生かして海外の新テクノロジー企業の買収、投資を重ねており、世界と闘うための最大の武器は「スピード」と決めているように見える。このスピード感こそが他社との最大の違いかもしれない。

 新型車の話題もBEVが中心だ。スバルとの共同開発車「bZ4X」を昨年秋に発表したほか(発売は今年6月頃)、レクサスブランドでも「RZ」を今年春に発売すると公表している。

■「Zには負けません」と言われた日産は何してた?

ニッサンインテリジェントファクトリー内の生産ラインの様子。ロボットラインの上でアリアが生産されているのがわかる

 フェアレディZに注目が集まった日産だが、トヨタの陰に隠れながらもいろいろ発表していた。桃田健史氏に昨年7月以降の日産のニュース評価を依頼した。

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■オーテックジャパンとニスモの統合新会社設立を発表(2021/12/17)

 日産関連会社のオーテックとニスモが2022年4月1日に合併し、日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社となることが発表された。

●桃田氏の見解と評価…このニュースの重要度は「80点」

 なぜ、このタイミングで2社が合併するのか?

 会見では、「両社が持つ専門ノウハウや高度な技術力……」という形で綺麗にまとめられているが、要するにブランド戦略の根本的な見直しだ。

 急激なEVシフト、ユーザーのライフスタイルに対する意識の転換など、時代が大きく動いているなかで、モータースポーツやカスタマイズの在り方が問われている。

 ニュースとしてのインパクトは薄いが、根深い話だ。

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■栃木工場の「ニッサンインテリジェントファクトリー」公開(2021/10/8)

 カーボンニュートラルの実現に向けた日産のコンセプト『ニッサンインテリジェントファクトリー』が導入された日産栃木工場の生産ラインが2021年10月8日に初公開された。同工場ではEV『アリア』の生産などが行われている。

●桃田氏の見解と評価…このニュースの重要度は「60点」

 カーボンニュートラル達成に向けて、自動車メーカーとしては当然の動きだ。LCA(ライフサイクルアセスメント)というクルマの一生を考えるうえで、製造現場のグリーン化は必然である。

 そうしたなかで、EV先駆者の日産としては『日産にしかできない』要素をたくさん盛り込めば、もっと大きなニュースとして取り上げられたのではないだろうか?

『インテリジェントらしさ』のさらなる説明が必須だ。

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■日産長期ビジョン「日産アンビション2030」発表(2021/11/29)

 2021年11月29日、「日産アンビション2030」宣言にて、電動化技術に今後5年で2兆円投資することなど、日産の長期戦略が発表された。

現在の日産のキーパーソン、代表執行役社長兼最高経営責任者の内田誠氏(写真左)と代表執行役最高執行責任者アシュワニ・グプタ氏(写真右)

●桃田氏の見解と評価…このニュースの重要度は「50点」

 次世代に向けた大きな発表を期待していたメディアにとっては“肩透かし”を食らったような印象があるのでは? ただし、2020年前半にルノー日産三菱アライアンスの新たな方向性が示され、収益性の高い事業形態へと着実に転じていることは評価できる。

 2022年1月27日には同アライアンスによる「アライアンス2030」を発表し、3社で2030年までに35車種の新型EVを投入するなど踏み込んだ内容としていたが、特に新しい情報はなく、3社の体制がうまくいっていることをアピールすることがメインだった印象だ。

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■日産、欧州市場にマイクラの後継となる新型コンパクトEV投入(2022/1/27)

 2022年1月27日、日産は欧州市場へマイクラの後継となる新型コンパクトEVを投入すると発表した。ルノー日産三菱アライアンスのCMF B-EVプラットフォームを採用。開発と生産をルノーが、デザインを日産が行う。

●桃田氏の見解と評価…このニュースの重要度は「40点」

 アライアンス2030のなかで出てきた話だ。ルノー日産三菱アライアンスでCMF(コモンモジュールファミリー)と称する車体のプラットフォームについて、どのセグメントで、どの仕向け地で、どのモデルで……、といった市場全体を俯瞰する形で3社の役割分担を紹介した。

 そのなかで、欧州マイクラ後継はBセグ用EVプラットフォーム化すると公表。当面、欧州市場優先であり、日本市場でのインパクトは薄い。

発表ではシルエットが公開された。日本市場にもぜひ投入してもらいたいものだ

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■EURO7導入と同時に欧州でのエンジン開発を終了。その他市場では継続(2022/2/8)

 日本経済新聞が「日産がエンジン開発を終了する」とスクープし、ニュースになった。桃田健史氏の解説と見解をお届けする。

●桃田氏の見解と評価…このニュースの重要度は「40点」

 第3四半期決算発表の前日に、日産が日米欧で新規エンジン開発を段階的に止めるとの報道があった。

 決算発表後の質疑応答のなかで、記者から「事実確認」として出た質問に対して、日産幹部が欧州排ガス規制EURO7への対応を軸に回答したもの。

 日産はEURO7以降欧州ではエンジンをやらないが、(それ以外の市場では)理にかなっている限り続けると発言した。日産が積極的に広報した事案ではない。

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桃田氏の日産 今後の期待値:80ポイント(100ポイント中)

 過去2年間の事業再生の経営陣の手腕は見事。一方でやや生真面目な雰囲気も。大きな夢を語るべき時期かと。

■F1ドライバーズチャンピオンを獲得したホンダは何してた?

 ホンダは2021年上半期に代表取締役が八郷氏から三部氏へと交代した。2021年下半期は三部カラーを発揮できたのか? それではホンダのニュースを見ていこう。評価は国沢光宏氏にお願いした。

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■グーグルと車載コネクテッドサービスで協力(2021/9/24)

 2021年9月24日、ホンダはグーグルと車載コネクテッドサービスで協力することを発表した。音声アシスタントやナビゲーション、車載用のアプリがこの提携によりグーグルから提供されることとなる。

Android Autoよりもさらに車載インフォテイメントと融合した、高機能なシステムになりそうだ

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「80点」

 これまでコネクテッドサービスは独自で立ち上げなければならなかった。トヨタが好例です。けれど今やマップはグーグルが当たり前になったのと同じく、独自で構築するシステムだと情報量も薄くなってしまう。コストだって莫大。

 そこでボルボなどはグーグルの共通サービスを採用し始めた。同じことをホンダもやる、ということ。少なくともコネクテッドサービスでほかのメーカーに後れを取る心配はなくなりました。

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■全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」発表(2021/10/13)

 2021年10月13日、ホンダセンシング360が発表された。単眼カメラに5つのミリ波レーダーを組み合わせて全方位をカバーする。2022年に中国で発売される車両を皮切りに、2030年までに先進国で発売される全モデルへの展開を目指す。

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「70点」

 システムの内容を見ると、同レベルのADASはすでにトヨタや日産などが実用化しており、目新しさはない。

 むしろ壁などで左右方向が見えない路地から道路に出る時の「前方交差車両警報」は、他社は危険を感知したら自動ブレーキをかけるが、ホンダの場合、警報だけしか出ないなど、まだ遅れている点も残っている。世界に先駆けてレベル3を実現したホンダだけに、ライバルを凌ぐスペックにしてほしかった。

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■中国向けホンダEVブランド「e:N」シリーズ投入を発表(2021/10/13)

 2021年10月13日、ホンダは「中国電動化戦略発表会」で、中国で発売予定のEVを2台、コンセプトEVを3台発表した。これらは「e:N」シリーズと名付けられている。

中国で発売されるホンダのEV「e:NP1」

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「70点」

 その後、トヨタが世界中を驚かせるほどの規模で電気自動車を発表したこともあり、すっかり忘れさられてしまった。ホンダの問題点は、同じようなボディしかなかったことと、中国市場だけの展開という点にある。

 トヨタは小型車からSUV、スポーツカー、ミニバンまで自動車ジャンルのすべてを網羅していた。「間もなく出す2車」は普通だし、コンセプトカー3車もデザインなど似通っていて驚きはなかった。

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■東風ホンダ、電気自動車専用工場を建設。2024年稼働を目指す(2022/1/6)

 ホンダは、2024年の稼働を目指し、中国の武漢市にEV専用工場を建設すると発表した。国沢氏の見解は?

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「70点」

 ホンダのカーボンフリー戦略を考えたら、当然の流れだと思う。生産台数12万台ということだから、最初の一歩というレべル。ホンダの世界販売台数450万台のウチ、2030年代の中頃に300万台規模のEVを生産しなければならない。

 おそらく2024年時点での生産台数は世界30万台規模に留まっていると思う。2025年から毎年20万〜40万台規模で工場をEV生産に振り替えていかなければならない。

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■バッテリー研究開発会社アメリカのSESと共同開発契約を締結(2022/1/19)

 ホンダは、次世代バッテリーの選択肢を増やすための取り組みのひとつとして、EV用バッテリー研究開発会社の米SESとバッテリーの共同開発契約を締結。

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「70点」

 この分野、今までホンダが一番苦手としてきた。ハイブリッド車の電池調達コストは、おそらくトヨタより圧倒的に高いと思う。

 だから、電池搭載量がトヨタや日産と比べて少ないのだ。今回のニュースはアメリカでの調達に関する内容。同じようなことを中国でもやっている。日本で売るEVの電池は中国製になるかもしれません。

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■自律移動するモビリティ「ホンダオートノマスワークビークル」発表(2022/1/21)

 ホンダは自律移動モビリティ「Honda AWV」を米イベントで展示した。アタッチメントやツールの追加で、さまざまな作業に活動できるモビリティとなっている。

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「70点」

 トヨタの「eパレット」のホンダ版と考えればよかろう。屋根なしが話題になったが、そいつは本質とまったく関係ない。この手のニーズ、少なくないだろう。

 ただトヨタは「ウーブンシティ」という“実験場”を自社で作り走行環境を整えようとしているが、公道を使うことを前提としているホンダは許認可や使用制限と闘わなければならない。

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■オンラインストア「Honda ON」をオープン(2021/10/4)

 ホンダ車がネットで買えるオンラインストア「Honda ON」がオープン。トヨタKINTOと同じサブスクリプションサービスだ。

●国沢氏の見解と評価…このニュースの重要度は「40点」

 ここにきて欧米で増え始めている販売形態だが、当然ながら営業担当と顧客の関係は完全になくなってしまう。同じメーカーのクルマに乗り続けるという傾向が薄まっていく。トヨタのように販売店の強いメーカーからすればあまり好ましくないだろうが、ホンダのように弱ければ試す価値はあると思う。

 ただ個別対応や値引きといった柔軟なサービスが難しくなるため、日本で普及するか少しばかり疑問だ。

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国沢氏のホンダ 今後の期待値:60ポイント(100ポイント中)

 ホンダには新興国向けに開発した“買いやすい価格”のモデルを収入が伸び悩む日本でもぜひ売ってほしい。


【番外コラム】メーカーの垣根を超えて オールジャパンの日本自動車業界注目ニュース

 自動車メーカーは、企業の垣根を越えた連携も行っている。2021年下半期では、次のような複数メーカーの取り組みが注目された。

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●5社が内燃機関活用の選択肢を広げる挑戦を発表

 川崎重工業、スバル、トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機の5社が、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる挑戦を’21年11月13日に発表した。

 燃料を「つくる」「はこぶ」「つかう」選択肢をさらに広げていくために、

1)カーボンニュートラル燃料を活用したレースへの参戦(マツダ、スバル、トヨタ)
2)二輪車などでの水素エンジン活用の検討(川崎重工、ヤマハ発動機)
3)水素エンジンでのレース参戦継続(トヨタ、ヤマハ発動機)、という3つの取り組みに挑戦する。

 今後5社は連携を深めることで、カーボンニュートラル実現のために電動化に加え、ユーザーにより多くの選択肢を提供することを目指す。

内燃機関を活用した挑戦で、マツダは次世代バイオディーゼル燃料でレースに参戦

●MBD推進センターを発足して国内10社が連携

 国内の自動車メーカーと部品メーカーが参画するMBD(モデルベース開発)推進センターが昨年9月24日に発足。参加するのは、スバル、トヨタ、日産、ホンダ、マツダの自動車メーカー5社と、アイシン、ジヤトコ、デンソー、パナソニック、三菱電機の部品メーカー5社。

 MBDとは、実物の試作部品ではなくコンピュータ上で再現したモデルの基本形。自動車メーカーと部品メーカーによる、すりあわせ開発に同じモデルを使うことで高効率化を図り、自動車産業の国際競争力を上げるのが目的。世界一の開発効率を目指し10社が協力体制を作る。

●スズキとダイハツがトヨタなどのCASE事業に参画

 スズキとダイハツが昨年7月21日、商用事業プロジェクト「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ(CJP)」に参画すると発表。

 CJPは、いすゞと日野が培ってきた商用事業基盤に、トヨタのCASE技術を組み合わせることで、CASEの普及や脱炭素社会の実現に貢献することを目指したもの。

 スズキ・ダイハツを加えて協業体制を軽自動車まで拡大することで、大動脈のトラック物流から軽商用車までつながる物流効率化を図る。また良品廉価な軽自動車の電動化に向けた技術協力も進める。

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