レコード、カセット、CD、ダウンロード購入する音楽ファイルやストリーミングサウンドに至るまで、私たちが体験する音楽は、長らくステレオ2チャンネルでマスタリングされていたものが中心でした。左右2本のステレオスピーカーないしは、ステレオヘッドホン・イヤホンで聞くことが一般的であるため、音楽ソフトもステレオで作られてきました。
しかしアップルのiPhoneやiPad、MacBook、また数多くのWindowsノートが、全方位から音に包まれるような体験ができる空間オーディオの1つである「Dolby Atmos」をサポートしたことから、映画やドラマ、アニメだけではなく音楽でもイマーシブな音響を再生できる環境が整いました。
AirPods Pro、AirPods Max、AirPods(3代目以降)を使えば、ヘッドトラッキングを行い、頭の位置・向きで聴ける音場が変わりますし、iPhoneなどのデバイスの内蔵スピーカーでもDolby Atmosが楽しめる。これは空間オーディオの民主化といってもいいでしょう。
ポータブルな機器で空間オーディオが楽しめる。この時代の流れに、ユニバーサルミュージックが動きました。東京・原宿にある本社ビル内のスタジオの2つに手をいれ、Dolby Atmos対応スタジオとしたのです。そのスタジオを見学してきました。
レコーディング業界で高い評価を得ているジェネレックスピーカーで構成
ステレオ2チャンネルのマスタリングで使われてきたムジークやヤマハのスピーカーはそのまま、スタジオモニターの世界で高く評価されているジェネレックのスピーカーを壁や天井に設置。
ミキシング卓の椅子の位置がスイートスポットとなるように、セッティングされていました。スピーカーのレイアウトは9.2.4チャンネル。9台のスピーカーが水平線上にミキシング卓の椅子を囲み、2台のサブウーファーは床、4台のスピーカーが天井にインストールされています。
このジェネレックのスピーカーは、ドライバーユニットの性能を引き出せるアンプを内蔵。さらに設置した場所の反響状態をチェックして正しい音が聴こえるように自動調整するオートキャリブレーション機能を搭載しています。
J-POP、K-POP、EDMの曲を聴かせていただきました。ステレオ2チャンネルの音は1音1音の輪郭がピシッとシャープにまとまっており、各楽器やボーカルの位置の見通しもよく立体的な音場となっていました。スピーカーからの音離れもきわめて良好で、2本のスピーカーでも、空間を感じさせる音響は作れるんだという気づきがあります。
続いて、9.2.4チャンネルのDolby Atmosマスタリングの曲が流れてきました。音が動き、回り、踊っているかのよう。重みのあるリズムが背後から真横を通り、前にまで移動したと思えば、空からキラキラとした音が降ってくる。晴れやかで澄み切った音が自分を取り囲んでくれている、音楽の世界のど真ん中にいるという気持ちが高まります。
またクラシック曲でもステレオ2チャンネルとDolby Atmosの違いを体験しました。ステレオ2チャンネルは左右方向に楽器の音が広がり、コンサートホールの前のほうの席で聴いている雰囲気。対してDolby Atmosは天井や壁で反射した豊かな間接音が全身を包みこみます。これはリッチなサウンドです。
マルチトラックのデータが残っていれば古い曲もリマスタリング可能
海外のユニバーサルミュージックでは、音楽業界のなかでDolby Atmosのリーダーシップをとるべく以前からDolby Atmosの楽曲製作をしてきたそうです。そのグローバルの方針と、音楽ストリーミングサービスのApple MusicがDolby Atmos対応となったことで、日本でも本格的に取り組むことになったとのこと。
リスナーの声をSNSをチェックすると「この曲が、こんなにも広い音場感で楽しめるんだ」と好評。それを知ったアーティストが「じゃあ僕らもDolby Atmosの曲を作ってみようか」と反応し、とても良い相乗効果を生んでおり、次第にDolby Atmos対応曲が増えてきています。
最新の曲だけではありません。デジタルレコーディングシステムのデータやマルチトラックのマスターテープがあれば、過去の曲もDolby Atmos対応曲としてマスタリングできます。30周年記念などのタイミングで、Dolby Atmos版をリリースするという戦略も考えられます。
ところでVRゲームやVR SNSなど、仮想空間内で聴ける音も空間オーディオといえます。そして「VRChat」や「cluster」といったVRSNSでは、リアルの世界でライブ活動が制限されているアーティストがVRライブに取り組みつつあります。
この状況に対して、ユニバーサルミュージックも興味を抱いているとのこと。グローバルでVRにおける音楽を見据えているところがあるそうで、今後はもしかしたらVRを活用したコンテンツがユニバーサルミュージックからリリースされるかもしれません。
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