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安倍晋三元首相が先週4日の講演でロシアのウクライナ侵攻について発言した際、「ロシアにはだまされた感があった」と述べたことが見出しで一人歩きをし、安倍氏嫌いの人たちが文脈を確認せずにツイッターで批判をして拡散してしまう“騒動”があった。

安倍元首相(画像は首相時代の2017年の講演、官邸サイトより)

安倍氏の講演は、自民党京都府連が開催した「政経文化懇談会」の目玉行事として行われた。安倍氏の発言内容について、報道各社の関心はさまざまで毎日新聞は、安倍氏が菅義偉前首相について携帯電話料金の引き下げなど「身近な政策進める力あった」と評価したことにスポットを当て、「一時は距離が指摘された両氏だが、安倍氏が菅氏に配慮を示した形だ」と、岸田首相に対しての距離感が取り沙汰される、政局的な観点から報じた。

一方、時事通信は安倍氏がロシア問題に言及した内容を記事の主題に選び、安倍氏が「ロシアにはだまされた感があった」との見方を示したと綴った。安倍氏のこの発言はNATOの東方拡大についてプーチン大統領が根強い不信感を持っていたことに触れたものだが、「だまされた感があった」という部分が微妙なインパクトがあったためか、ツイッターでちょっとした反応を呼んだ。

特に安倍氏の首相時代の政治手法や、森友・加計問題を激しく攻撃してきた人たちはめざとく反応。山口二郎法政大教授は「政治の世界、騙されたと言うのは自分が馬鹿だと自白するようなもの。結果に対して責任を取るべき。騙された愚か者はこれ以上日本政治に口出す(※原文ママ)するな」と投稿した。山口氏は、安保法制制定時の国会前デモで、安倍氏に対し「お前は人間じゃない!たたき斬ってやる!」と叫び、物議を醸した。

ジャーナリストの清水潔氏も安倍氏に対し、辛辣な発言を続けてきたが、この時事通信の記事を引用し、「国民は、あなたにだまされた感しかないよ」と投稿。

 

確かに「だまされた感あった」という見出しの一部を見れば、「だまされた」の主語が安倍氏のように思われてしまいそうだが、見出しには「NATO拡大で」の但し書きもあり、記事を読めば、主語は、NATOの東方拡大に対して不信感を持ったプーチン大統領であることは明らかだ。記事を十分に読んでいない可能性も考えられ、山口氏らに対してネット民から

「(私が)ロシアにはだまされた感があった」ではなく、「ロシアには(米・欧に)だまされた感があった」との発言であると思います。

「ロシアはアメリカやNATOに騙されたと感じていた」という安倍の見かたの紹介記事なのだが、コメントの大半は「安倍自身がロシアに騙されていた」と述懐したと誤認して書かれている。見出しだけ読むとそうとしか読めないし。

などと“忠告”する人たちもいた。

しかし2人のコメントに反応したフォロワーらの中には

ロシア、友達だと思ってたのかな

普段は国民をだます立場の自分が他人に騙されたからショックを受けた or 腸が煮えくり返っているということ?

などと「安倍氏嫌い」で同調している人たちも少なくなかった。

2人のフォロワー数は山口氏は10万超、清水氏は8万超をそれぞれ擁する“インフルエンサー”とあって影響力は小さくない。

他方、ドキュメンタリー映画監督、五百旗頭幸男氏は「これについては安倍氏ではなく記事が酷い。タイトルが『安倍氏「ロシアにはだまされた感あった」』なので、安倍氏が「ロシアにだまされた」と認識しているかと思いきや、ロシアが「NATOにだまされた」と認識しているというのが記事の文脈。メディア不信を強める釣りタイトルだ」と投稿し、時事通信の見出し作成を批判していた。

何かとスピード重視のSNS時代。メディア側の見出し作成については本サイトも含めてメディア側は常に自戒をすべきところだが、一方で、記事を読まずにうっかり発言してしまうと、逆に「たたき斬られる」ことにもなりかねないので、注意したいものだ。