ウクライナ侵攻でロシア軍による民間人の大量虐殺が明らかになっているが、一部の人はそうした事実に触れることに及び腰になっている。親露派の代表格と見られる日本維新の会の鈴木宗男参院議員は、自らのブログで「なにが真実で、なにが正しいのか、受け止めに躊躇してしまう。」と揺れる心中を明らかにした。日頃女性の人権を声高に叫ぶタレント・エッセイストの小島慶子氏は、ロシア兵によるレイプには無言のまま。侵略者による大量虐殺・レイプなどの戦争犯罪の事実に触れず、批判をためらう人々の存在には疑問を感じずにはいられない。
■「なにが真実で、なにが正しいのか」
鈴木議員は自身のブログに6日、新記事を公開した。冒頭で以下のように述べている。
「テレビから、ロシア側、ウクライナ側の主張、映像が知らされるが、なにが真実で、なにが正しいのか、受け止めに躊躇してしまう。情報化の時代、それぞれ都合の良い頭づくりで作られてしまう危険性をつくづく感じながら、同時にメディアの使い方、発信の仕方によって全く違う価値観が出てくることに恐ろしい限りである。」
後半部分は日本語が乱れており、「情報化の時代、発信者にとって都合の良いニュースを作ってしまう危険性を感じさせられる。メディアの使い方、発信の仕方によって、受け取る側に異なる価値観が形成されるのは恐ろしいとさえ感じる。」というようなことを言いたいのであろう。
さらに、2002年の国後島のいわゆるムネオハウスなどに関して自身が浴びたバッシングを例に出し、「メディアによる時には印象操作とも思える場面場面に、何とも言いようのない虚しさが去来した。」としている。
自身が願うことは、早期の停戦であり、一般人に武器を持たせては犠牲者が増える、話し合いで停戦をしてほしいと祈るしかないとまとめている。ウクライナ人が武器を持つことに反対するのは、ロシア兵の被害を減らしたいのかと勘繰られても仕方がない。少なくとも武力侵攻しているロシアへの批判が一切ないという点で、特異な内容と言えるかもしれない。
(以上、ムネオオフィシャルブログ花に水 人に心4月6日公開記事から)
■ウクライナも米国も欧州も
ウクライナでは首都キーウ(キエフ)近郊のブチャでは300人以上の遺体が見つかり、フェドルク市長が「市民を捕まえて、まず手足を縛り、銃で撃った。彼らを軍人と呼ぶことはできない。野蛮人だ」と証言している(FNNプライムオンライン・ブチャの市長「ロシア兵は野蛮人」 市民320人“大量虐殺”)。
ゼレンスキー大統領は4日にブチャを訪れ、「これは大量虐殺だ」と語り(産経新聞電子版・ゼレンスキー大統領「これは大量虐殺だ」 ブチャを視察)、さらに5日には国連安保理で初めて演説し「ロシアが行ったのは第2次世界大戦以来、最もおそろしい戦争犯罪だ」と断じた。
バイデン米大統領は4日、プーチン露大統領を戦争犯罪で裁くべきと主張、西側諸国はロシアの外交官追放を決めるなど非難を強めている(BBC NEWS|JAPAN・ウクライナ・ブチャでの残虐行為、欧米が強い憤りを表明 ロシア外交官追放へ)。
日本政府も6日、「多数の 無辜の民間人の殺害は重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪だ。処罰されなければならない」と松野官房長官が厳しく非難した(読売新聞オンライン・松野官房長官、ロシア軍の「民間人殺害は戦争犯罪だ」…日本政府として初の明言)。
こうした状況にあって、鈴木議員の「なにが真実で、なにが正しいのか、受け止めに躊躇してしまう」という記述に違和感を覚える人は少なくないと思われる。鈴木議員はブチャで見つかった300以上の遺体は、ロシア軍によるものではなく、ウクライナ軍による自作自演とでも考えているのであろうか。もし、そうであれば、日本を含む西側諸国はウクライナのプロパガンダに騙されている、あるいは知っていて同様のプロパガンダを行なっているとでも考えているのであろうか。国会議員として見識を疑われる記述と言える。
■実際に流れたフェイクニュース
SNSで気軽に情報発信ができる時代になり、社会に出回るフェイクニュースが格段に増えている。2020年の米大統領選では、当時のトランプ大統領が敗北を認めずにツイッターなどで情報発信を続けた結果、様々なフェイクニュースが飛び交った。中には、人民解放軍が米加・米墨国境に集結し、米国内に侵攻する準備ができているという、漫画の世界でも考えつかないような情報も流されている。
それは極端な例であるが、ウクライナ侵攻でも同様にフェイクニュースは相当に流されてきた。激しい内戦があったシリアの映像や、2014年のロシアのクリミア侵攻時の映像をウクライナ侵攻での映像とするなどの例があるという(BBC NEWS|JAPAN・偽情報の見分け方、専門記者が解説 ロシアのウクライナ侵攻)。
特に戦争時には情報も混乱しがちであり、ニュースの真偽を見抜くメディアリテラシーが問われる。その観点から鈴木氏は冒頭の「なにが真実で、なにが正しいのか、受け止めに躊躇してしまう」という表現が使用したと思われるが、ウクライナ当局だけでなく、日本政府や西側諸国もその事実を認め、その前提に立って新たな対露政策を行うに至っているのに、それでも虐殺を含む事実の受け止めに躊躇するのであれば、自分の目で見て確かめたこと以外は真実と認めないと言っているに等しい。
■小島慶子氏も虐殺に無言
こうした例は鈴木議員だけではない。タレントでエッセイストの小島慶子氏は、自身のコラムの中で、ウクライナ侵攻に関して自分達ができる3つのことを息子たちに話しているとしている。その3つは「人道支援機関に寄付をすること」「誤った情報を拡散しないこと」「ロシアの政権とロシアの人びとを一緒にしないこと」(AERA.dot「幸複のススメ!」・小島慶子「ウクライナとロシアの人々のために 私たちが今すぐできる三つのアクション」)。
誤った情報を拡散しないのはいいとして、小島氏の中で今回の虐殺はどのように捉えられているのか。同氏のツイッターを見る限り、虐殺については4月7日午前の段階で一言も触れられていない。ウクライナからの避難民を受け入れる我々の接し方に関する記事の紹介や、人道支援機関への寄付などを呼びかける内容のツイートはあるが、ロシア軍の残虐さを批判するツイートは見当たらない。
一体、どういう基準で情報発信をしているのか、そしてニュースの真偽の見分け方はどのように行なっているのか、我々の理解が及ばない世界で生きているとしか言いようがない。
ロシア軍はウクライナの女性をレイプしており、その被害も報じられている(COURRIER JAPON・我が子の前で何度も… 残忍すぎる「ロシア兵によるレイプ事件」をウクライナ議員が明かす)。ソ連軍の時代から戦時のレイプは横行しており、第二次大戦末期のベルリン、旧満州国、南樺太でもその類の話はいやというほど出てくる。
小島氏は自身の夫が「歓楽街で女性をモノのように消費」(婦人公論.jp・小島慶子〈エア離婚〉を選んで2年「夫婦リセットか、続行か。いま心は揺れて」)したことを非難しながら、それなど問題にならない究極の女性への迫害に声をあげないことに、強い違和感を覚える。
■ごく簡単な善悪・正邪の区別
ウクライナ侵攻はロシアによる帝国主義の時代さながらの侵攻であり、どんな理由があるにせよ許されることではない。さらに民間人の大量虐殺、レイプは戦争犯罪として責任を追及されるべきもの。
この明白な国際法違反、戦争犯罪を鈴木氏は「なにが真実で、なにが正しいのか」と事実と認めることを躊躇し、小島氏は見て見ぬふりをしているようにしか見えない。
こんな簡単な善悪・正邪の区別はないと思われるが、あれこれ理由を付けて巨悪を認めない、正視しようとしない人々を、誰が信用すると言うのか。その意味でウクライナ侵攻は政治家・ジャーナリストらが、どれだけ社会正義や人権に対する意識を持っているかを測定するリトマス試験紙になっている。そのことを鈴木氏と小島氏はよく認識した方がいい。