このところ、配信サイトの放送を見るために、家庭用のホームプロジェクターの売り上げが急速に伸びているという。日本経済新聞が6日に配信した「プロジェクターがテレビ侵食 東大発スタートアップなど」という見出しの記事によると、家電大手のビックカメラでは今年4月の売上高が一昨年同月の2倍になった。さらに、ヤフーの電子商取引(EC)サービスでは、2021年度の取扱高は2019年より5割多かったという。
家電量販店店長「とても売れている」
家庭用プロジェクターは全世界で売り上げを伸ばしている。アメリカ、ヨーロッパ、日本など世界100カ国以上で展開するプロジェクターブランド「XGIMI」の発表によれば、全世界での売上高は2020年の548億円から2021年には783億円に拡大。特に、日本では急速に流通網が拡大しており、アマゾンや楽天市場といったECサイトに加えて、ヨドバシカメラ、ビックカメラといった実店舗でも取り扱いを開始。今年4月時点での取扱店舗は150店舗以上を数える。
ホームプロジェクターが売れていることは現場レベルでも感じられることのようだ。大手家電量販店店長は、次のように語る。
「このところ、とても売れていますね。ネットフリックスやアマゾンプライムなど、ネット配信の放送を大画面で見たいという需要が増えていると感じます。それに、3万円から4万円で買えるのも人気の理由です。高機能なものでも10万円ほどで買えます。もちろん、中には数十万円するものもありますが、数万円のものでも十分キレイに再生できます。あと、お客様にとってはNHKの受信料を支払わなくて良い点も魅力なのでしょうね。“NHKの受信料は支払う必要がありますか”とはよく聞かれます」
NHKが受信料を徴収する根拠となっている放送法には、次のように記載されている。
協会(編集部注・NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
ホームプロジェクターは、商品によっては「協会の放送を受信することのできる受信設備」にあたるテレビチューナーを搭載しているものもある。しかし、テレビチューナーを搭載していないものの方が主流だ。テレビチューナーを搭載していないプロジェクターであれば、NHKの放送を受信できないため、受信料の支払い義務はない。
NHK受信料、63%が「高い」
大手ディカウントストア「ドン・キホーテ」が販売する、テレビチューナーを搭載していない“テレビ”が品切れするほど好調な売れ行きだ。他社も追随する動きを見せており、今年5月には液晶事業や電子部品の製造などを手掛けるユニテク(東京都練馬区、成田進社長)と、スマートフォンの周辺機器の開発などを行うSTAYERホールディングス(東京都千代田区、石渡武社長)から、テレビチューナーを搭載していない“テレビ”が相次いで発売された。そして今度はNHK受信料の支払い義務のない、ホームプロジェクターが流行の兆しを見せているわけだ。
そうした中、今月3日、放送法が改正され、正当な理由がないのに受信契約をせず受信料を支払わない人に割増金を課す制度が導入される。しかし、テレビチューナーを搭載していない“テレビ”やプロジェクターに対しては、そもそも受信料を徴収できない。
朝日新聞の世論調査(2020年11月)によると、NHKの受信料が高いと考えている人の割合は63%に上り、若い世代ほどその割合が高くなっている。別の朝日新聞の世論調査(2021年5月)では、「テレビを設置している人はNHKの受信料を支払わなければならない」ことに納得できない人は64%に上っている。
今は、テレビ番組が見られなくても、ネット配信動画さえ見られれば問題ないと考える人は少なくない。国民の不満に応えずに、不払い世帯に対して訴訟を起こしたり、割増金を課したりなど、強硬的な手段を取るだけでは、よりNHK離れが進んでいくのではないだろうか。