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まとめ

  • 喉の風邪にも、鼻の風邪にも、抗菌薬は効かない!!
  • 風邪の原因のほとんどは「ウイルス」です。抗菌薬は「細菌」にしか効きません。
  • 不要な抗菌薬で思わぬ副作用も。

この記事を書いた医師

sekkai

医師

泌尿器科医でしたが好きが高じて感染症内科に転科しました。
筑波大学学長表彰、Harvard University ICRT Program 修了、MIT Bootcamp alumni.
Twitter で感染症診療にまつわる役立つ話1割と日常のどうでもいい話9割をつぶやいています。

カゼをひいた!抗生物質は必要?

「風邪をひいたら病院に行って抗菌薬 (いわゆる抗生物質) を出してもらわないといけない」と思っている方は多いのではないでしょうか。

しかし、喉が痛い、ネバネバとした鼻水が出る、熱が出る、といった症状の出るいわゆる「風邪」に対して抗菌薬を飲んでも、症状が早く良くなることはないと報告されています。

しかも、不要な抗菌薬を飲むことで、効果がないばかりか思わぬ副作用が出ることもあるのです。その根拠を医師が解説します。

カゼとは?そして抗菌薬の作用とは?

そもそも「カゼ」とはなんなのか

そもそも風邪とは、鼻炎や喉の痛みを引き起こす病気全体を指し、しばしば熱や咳、そしてタンを伴います (参考文献 1)。

風邪の原因は細菌とウイルスに分類されます。細菌は自分で増殖することができますが、ウイルスは基本的に人間の細胞の中に入って寄生しないと増殖することができません。

「抗菌薬」とは細菌を退治する薬のこと

抗菌薬は細菌の持っている特徴的な構造に対して働きかけて、細菌を殺したり増殖を抑えたりする薬です(参考文献 2) 。細菌はウイルスとは全く構造が異なるので、残念ながら抗菌薬はウイルスには直接的には効きません。

さらに、1998年に行われたフィンランドの研究では、1年の間に風邪をひいた大学生200人のうち細菌が感染しているとわかった (その風邪の原因が細菌であった) のはたったの7名でした。つまり、その他の原因のほとんどはウイルスであったと報告されており (参考文献 3) 、そういう意味でも抗菌薬では風邪を治すことはできないと考えられます。

「抗菌薬のおかげで風邪が良くなった」わけではない?!

抗菌薬で風邪が治った、と思ってしまうわけ

「でも、自分は病院で出してもらった抗菌薬を飲んだら風邪がすぐに良くなったよ」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は風邪のほとんどは薬を飲まなくても良くなるものです。ですから、抗菌薬を飲んだから風邪が早く良くなったとは言えません。

実際に風邪に対して抗菌薬を飲んで症状が早く良くなるかどうか検討した研究があります。

2013年に「メタアナリシス」という複数の研究をまとめて解析する最も信頼性の高い手法で、風邪に対する抗菌薬の使用に効果があるかどうかを解析した論文が発表されました (参考文献 4) 。「ランダム化比較試験」という手法で、一方は抗菌薬を投与された群、もう一方は効果のないプラセボ (偽薬) を内服した群、それぞれの群で風邪の症状が良くなるまでの時間に違いがあったかどうかを比べる質の高い研究11個が対象となりました。

11個のうち6個の研究では、風邪に対して抗菌薬を飲むと症状が早く良くなるかどうかを合計1,047人の患者さんで比較しました。残りの5個の研究では、風邪で見られることのある化膿性鼻炎というネバネバとした黄色い鼻水が出る状態が抗菌薬を飲んだら早く良くなるかどうかを合計791人の患者さんで比較しました。

その結果、風邪に対して抗菌薬を飲んでもプラセボを飲んでも、症状が良くなるまでの時間に違いはありませんでした。また、化膿性鼻炎に対しても同様に、抗菌薬を飲んでもプラセボを飲んでも症状が良くなるまでの時間に違いはありませんでした

この結果から、抗菌薬を飲んでも飲まなくても、風邪の症状はひとりひとりの免疫で勝手によくなるのだと分かります。

抗菌薬にも存在する副作用

このように、抗菌薬を飲んでも風邪が治るのは早くならないということがわかりました。

「でも、不安だから念の為に抗菌薬を飲んでおきたい……。」そう考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、この研究では、「念の為の抗菌薬」で逆に副作用が増えてしまうということが分かりました (参考文献 4) 。

解析された中で風邪を対象にした6個の研究では、風邪をひいた大人が抗菌薬を飲むと、そうでない人と比較して2.62倍副作用が出やすかったとわかりました。化膿性鼻炎を対象にした5個の研究では、抗菌薬を飲むと1.46倍副作用が出やすかったと分かりました。副作用としては発疹、嘔吐、下痢などがありました。

早く風邪を治したいと思って飲んだ抗菌薬で副作用が出てしまったら嫌ですよね。実際世界四大医学雑誌のひとつである BMJ 誌は、かぜに対する抗菌薬の使用について「大人には恐らく有害で、子どもにも効果の根拠はないよ」と解説しています (参考文献 5)。

抗菌薬を使うべき状況か、信頼できる医師に相談を

風邪には抗菌薬が効かないばかりか、副作用が出やすいことを説明しました。

もちろん、熱が出るなど風邪と似た症状の病気は風邪以外にもたくさんあり、抗菌薬の内服が必要になることもあります。自分の症状に抗菌薬が必要かどうかきちんとお医者さんと相談して、本当に必要な治療をしっかりと受けられるようにしましょう。

COI

本記事について、開示すべき COI はありません。

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