水平対向エンジンとAWD(4輪駆動)を組み合わせた、スバル独自のAWDシステムである「シンメトリカル(左右対称の)AWD」。優れた運動性能が自慢のシンメトリカルAWDは、スバルブランド確立の原動力となったコア技術です。
なぜシンメトリカルAWDは、優れた運動性能を発揮できるのか、シンメトリカルAWDの特徴をご紹介しつつ、その将来性について考察します。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:SUBARU
スバルとポルシェだけがつくる、水平対向エンジン
スバルが、初めて水平対向エンジンを搭載したのは、1966年にデビューした「スバル1000」。この時の駆動方式は、AWDでなくまだFF方式でした。
水平対向エンジンは、シリンダーを左右水平に配置し、左右に向かい合った一対のピストンが、水平方向に往復運動するエンジンです。ボクサーが、パンチを打ち合う様子に似ていることから、「ボクサーエンジン」とも呼ばれます。一般的なエンジンに対して、1対2つのシリンダーヘッドが必要で機構も複雑になることから、現在生産しているのは、世界でスバルとポルシェだけです。
なぜスバルとポルシェは、この希少な水平対向エンジンを採用しているのでしょうか。それは、スポーティな走りを実現するために、大きな武器になるからです。
・低重心
シリンダーが水平に配置されるため、全幅は広くなるものの、全高と全長が短い低重心エンジンになるため、運動性能において有利になる
・低振動
対向しているピストンが、互いの慣性力を打ち消すように働くため、回転がスムーズで振動が少なく、乗り心地がよくなる
・高回転高出力
全幅に制約があるので、ショートストロークエンジンとなりやすく、基本的には高回転型エンジンとなるので、高出力でスポーツ走行向けとなる
ただ一方で、ロングストローク化が難しいため、燃費面では不利になる、というデメリットもあります。
どんな路面状況でも、安定した走行が可能
その水平対向エンジンに、スバルが初めてAWDを組み合わせたのは、初めて水平対向エンジンを搭載した「スバル1000」の後継車「レオーネ」のレオーネ・エステードバン。今からちょうど50年前の1972年のことです。この時のAWDは、FFとAWDをメカニカルに切り替える方式でした。その後、数々の改良が加えられ、以下のような優れた性能をもつ、シンメトリカルAWDが完成しました。
・優れた悪路走破性と高速安定性
一般的なフロント横置きエンジン車は、トランスミッションをエンジンの右か左の同軸上へ配置するので、左右輪の軸重を厳密に合わることができません。そのため、クルマが跳ね上げられると、左右輪で動きの差が生じやすくなります。
それに比べてシンメトリカルAWDでは、4輪にバランスよく荷重がかけやすいため、車体が揺れにくく、安定したタイヤ接地性を確保することが可能。これにより、4輪駆動のポテンシャルを最大限に発揮でき、ダートや雪路など悪路での高い走破性、さらに雨天時や高速道路でも安定した走りができます
・軽快なハンドリング性能
また、エンジンが縦置きレイアウトとなるので、重量のあるトランスミッションが、車体の重心近くに配置されます。フロントタイヤの軸線上にエンジンとトランスミッションがくるFF車と比べれば、慣性モーメントが小さくなるため、コーナリング時やブレーキ時に軽快なハンドリングが楽しめます
優れた制御とクルマの特性に応じた様々なAWDシステム
シンメトリカルAWDでは、クルマの特徴や特性に応じて様々なシステムが採用されています。以下に、最新の制御技術と3つのAWDシステムを紹介します。
・X-MODE
雪道やぬかるんだ悪路でタイヤが空転した時に、4輪の駆動力やブレーキ力、エンジン&トランスミッションを総合的に制御して、タイヤの空転を抑えながらスムーズな走行ができます
・アクティブトルクスプリットAWD
アクティブトルクスプリットAWDは、燃費と安定性を重視した基本的な電子制御AWDです。前60:後40のトルク配分を基本とし、走行状況に応じてリアルタイムに前後輪のトルク配分を制御。あらゆる走行状況において、AWDのメリットを最大限に引き出すシステムです
・VDD-AWD
VDD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)は、センターデフによってトルクを前45:後55に不等配分して、旋回性能を高めた電子制御AWDです。適切なトルク配分によって、旋回時のスムーズなハンドリングを実現。また、走行状況に応じてトルク配分を連続可変するので、直進時にも安定した走行ができます
・DCCD方式AWD
DCCD(ドライバーズ・コントロール・センターデフ)方式AWDは、WRX STI(MT車)といったスポーツ走行向きのスバル車へ採用されています。前41:後59を基本にトルクを不等配分した本格的モータースポーツ向け電子制御AWDです。レスポンスに優れたトルク感応機械式LSDと、電子制御LSDを組み合わせることによって、より大きな駆動力を発揮しながら、高い安定性を確保します
ただ、電動化が進む中では方向転換が必要
優れた運動性能を誇るシンメトリカルAWDですが、前述したように、水平対向エンジンが全幅の制約から燃費に優れるロングストローク化が難しく、また、機構が特異なため、VVT(可変バルブタイミング)など、燃費向上技術が採用しづらいため、燃費の面ではハンディを負っています。
スバルは2018年にハイブリッド「e-BOXER」をフォレスターに搭載しましたが、e-BOXERはマイルドハイブリッドであるため燃費向上は十分ではありません。十分な燃費向上を得るためには、フルハイブリッド化が必要となりますが、シンメトリカルAWDと水平対向エンジンの組み合わせは、レイアウト上、フルハイブリッド化が難しいことから、現在ラインアップにはありません。
スバルは北米で、トヨタのプラグインハイブリッドを搭載した「クロストレックハイブリッド(2019~)」を登場させています(スバルXVのフルハイブリッド、国内未導入)。THS-IIを水平対向エンジンと共存させるため、THS-IIの向きを90度変えて組み合わせるという手法を取りました。やってできないことはないのですが、窮屈なエンコンレイアウトは、この先もスバルを苦しめることになるはずです。
スバルは今年5月、トヨタと共同開発したバッテリーEV「ソルテラ」の受注を始めます。ただ、走りに特化したシンメトリカルAWDとそれによってブランドを構築したスバルが、バッテリーEVでも今後これまでのようなスバルらしさを発揮できるか、岐路に立っているといえます。
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シンメトリカルAWDで4輪駆動を熟知しているスバルなら、自由度の高いモーターを制御してスバルらしいバッテリーEVをつくれると十分期待ができますが、近年の燃費低減や電動化の要求によって、ブランド構築の最大の立役者であったシンメトリカルAWDと走りのスバルの存在感は薄れつつあります。今後の電動化時代でどのようにスバルらしさを発揮するのか、スバルの今後に注目です。
【画像ギャラリー】電動化でどう変わる!?? 走りに特化したシンメトリカルAWDでブランド構築したスバルの国内ラインアップ(38枚)画像ギャラリー投稿 スバルのシンボル「シンメトリカルAWD」抱える長所と大きな課題 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。