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日産の次世代エース、新型アリアを実際に乗って見えた日産の新たな課題と試練

 東京モーターショー2019で登場してから2年半、待ちに待った日産「アリア」が、注文したユーザーのもとに納車され始めているようだ。当初の発売予定よりも3ヶ月延期されるなど、順風満帆とはいかなかったアリアのデビューだが、納車が開始となったことで、日産関係者はほっとしていることだろう。

 筆者も先日、アリアのB6 2WDに試乗させていただくことができた。試乗でみえたアリアのよさと課題、そして、日産ラインアップの今後について、考察しよう。

文:吉川賢一
写真:NISSAN、ベストカーWEB編集部/撮影:佐藤正勝

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ロードノイズのなさ、小回り性能、適切な効果音がアリアの魅力!!

 日産によると、現在(4月中旬)は、予約注文の限定車のうち、容量66kWhバッテリーのベースグレード「B6 2WD limited」の納車が始まっている状況。このあと5月12日以降に、通常モデルの「B6 2WD」の納車が開始となり、2022年夏以降には、B6 e-4ORCE、B9、B9 e-4ORCEといった大容量、高出力の上級グレードが納車開始となる。

 冒頭で触れたように、筆者が試乗させていただいたのは、エントリーグレードのB6 2WD。B6 2WDに乗っただけでアリアを語るのは時期尚早、真の実力が分かるのは、「B9 e-4ORCE」に乗ってから、ではあるが、このB6 2WDで筆者が感じたアリアの強みは3つ、徹底的に排除されたロードノイズ、19インチで5.4mの小回り性能、そしてサウンドだ。

 アリアに乗れば、誰もが「静か」と感じるだろう。日産自動車の中嶋光チーフヴィークルエンジニアは、「ラウンジのような快適な静けさ」と表現したが、まったくそのイメージ通りだ。吸音スポンジ入りのタイヤもあたりの柔らかさが感じられ、「毛足の長い絨毯の上を走る」かのような静けさで、「音振性能エンジニアの執念」がうかがえる完成度だ。

 小回り性能については、アリアB6 2WDのカタログ上の最小回転半径は5.4m、タイヤ外径740mmクラスの19インチタイヤ(235/55R19)を装着したSUVではトップベンチだ(エクストレイル(5.6m)よりも小さい)。バッテリーEV専用プラットフォームを起こしただけのことはある。

 また、アリアは、前進時や加速時、後退時など、車内には絶えず「効果音」が聞こえている。「キーン」「ヒューン」「ファー」、人によって聞こえ方は違うだろうが、このエフェクトサウンドが心地よく、独自の世界観に没頭することができた。他社のバッテリーEVではあまりなく(無音か微小なモーター回転音のみ)、このトータルサウンドコントロールは、アリアの差別化ポイントになっている。

試乗したアリアのB6 2WD。横風が強いアクアラインの上でも、横へ流されることもなく、終始、安定した高速直進性であった。またロードノイズなどがなく、常に静かで快適な乗り味であった

気になった点もなくはないが…

 一方で、気になった点もある。前席での乗り心地は良いのだが、後席はやや硬めで、段差を乗り越えると跳ね上げられることがあった。また、長く続く下り坂などでは、Bレンジやe-PEDALの1つの減速度コントロールだけでやり過ごすのは難しく、減速度を段階的にコントロールできるような装備が欲しいと感じた。

 しかし、後席の乗り心地は、足周りが馴染んでゆけば解消されることがよくあり、大した課題ではなく、減速度コントロールにしても、筆者がホンダヴェゼルハイブリッドのパドルシフトで感動して「あったらいいな」と感じただけなので、こちらも大した課題ではない。前述したように、アリアの本領発揮はこれからだが、このエントリーグレードでも十分に魅力的なクルマだった。

アリアが日産のフラグシップになる!?

 日産はアリアを、「英知を宿したモンスター」と呼んでいる。キャッチーで「やっちゃえ日産」に匹敵するインパクトがある、いいフレーズだ。試乗したB6 2WDでは「英知を宿したモンスター」を味わうことはできなかったが、トップグレードの「B9 e-4ORCE」であれば、味わうことができるだろう。

 トップグレードは、e-4ORCEによる俊敏なハンドリングと、珠玉の完成度を誇る最新の運転支援技術(プロパイロット2.0)、加えて、最高出力290kW(394ps)にもなる強烈な加速。B6 2WDの最高出力が160kW(217ps)であることを考えると、B9 e-4ORCEは2倍近くにもなり、出力の世界観はガラッと変わる。アクセル全開で、頭がヘッドレストへ食い込むほどの強烈な加速を手に入れるはずだ。

 こうなるとアリアは、ジャガーI-PACE(最高出力400ps/最大トルク696Nm)やメルセデスEQC(408ps/765Nm)といった欧州ハイパフォーマンスバッテリーEVと対等に戦えるレベルになる。日産のラインアップのなかでも、性能・価格ともにトップレベルとなるアリアだが、こうなると疑問になるのは、「アリアは日産のフラグシップモデルになるのか」ということだ。

アリアと同じプラットフォームでフラグシップを!!

 先日、日産が「シーマ」と「フーガ」の生産を今夏に終了することが報じられた。フラグシップであるシーマが引退となると、その後を継ぐモデルがどれになるのか気になるところ(もちろん「フラグシップを設定しない」ということも考えられるが)。

 (フラグシップが設定されるのであれば)このアリアをフラグシップとするのか、セダンで現時点はかろうじて生き残っているスカイラインをフラッグシップへと上級移行するのか、スポーツカーであるフェアレディZフラッグシップとするのか、はたまた、新たなクルマを用意するのか。

 アリアの価格は、エントリーグレードのB6が、B9 e-4ORCE Limitedが790万円と、補助金があるとはいえ、フラグシップといってもいい高額車だ。しかし、ボディサイズ的には、アリアはミドルクラスのクロスオーバーSUVであり、アリアをフラグシップとよぶには、少々戸惑いがある。

 筆者は、シーマの引退後は、このアリアと同じプラットフォームを使用した「ラグジュアリーEVセダン」を、日産のかつてのフラッグシップセダン「プレジデント」として登場させ、フラグシップに据えるのが、もっともふさわしいと思う。

 フラグシップは台数が売れるモデルではなく、高品質な素材によるコストアップや、求められる性能も高いため開発費も膨らむが、これならば、存分にコストをかけても、回収できるだけの価格設定も可能だろう。アリアで使われているバッテリーEV専用プラットフォームは素晴らしい。ぜひこれを活かし、アリアよりも上級モデルをフラグシップとして登場させてほしいと思う。

 ただ、アリアやもうすぐ登場すると思われる軽バッテリーEVのように時間をかけすぎてはダメだ。アリアと軽バッテリーEVは、どちらも東京モーターショー2019で初披露され、アリアは2年半かかってようやくデリバリーが始まり、軽バッテリーEVにいたってはまだ正式発表もない(もうすぐ登場するようだが)。

 もちろん、コロナ禍という不運はあっただろうが、それはどのメーカーも同じ。シーマといれかわるくらいのスピード感で登場させることができれば、大いに話題になるだろう。アリアにつづく、今後の展開にも注目だ。

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