毎年冬になると迷うのが、スタッドレスタイヤの購入や交換をどうするか。マンション住まいだとタイヤの保管場所にも困ってしまう。
ワンシーズンに10日も雪が降らない地域に住んでいればなおさら悩んでしまう。しかし、どうしてもクルマで移動が必要な日に雪なんて降ってしまうと、交換しなかったことを悔やんでもあとの祭り。突然の雪予報でもまたしかりである。
そこで最近注目されているのがオールシーズンタイヤ。その名のとおり夏冬通して一年中使用できるというふれこみの便利なタイヤである。
しかし、過信は禁物。その性質上どうしても夏タイヤと冬タイヤの中間的な性能になってしまうのは否めない。
そこで、各タイヤの特徴と違い、特にスタッドレスタイヤとオールシーズンタイヤの違いを解説し、最近注目のオールシーズンタイヤがどこまで使えるかを考察する。
文/斎藤 聡、写真/グッドイヤー、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップ、クムホ、ピレリ、BFグッドリッチ、トーヨータイヤ、AdobeStock(トビラ:Coloures-Pic@AdobeStock)
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■国産乗用車が新車装着しているタイヤはほぼすべてがサマータイヤ
ここ数年、オールシーズンタイヤが注目を集めている。オールシーズンタイヤはその名前のとおり、一年を通して使えるタイヤだ。
タイヤには大別してサマータイヤとウインタータイヤがあるが、オールシーズンタイヤはその中間、サマータイヤの性能とウインタータイヤの性能を併せ持ったタイヤ。分類の仕方はメーカーそれぞれで、オールシーズンタイヤとして1カテゴリーを設けたり、サマータイヤに組み入れたりしている。興味深いのはウインタータイヤにカテゴライズしているメーカーがないことだ。
一般的に新車装着されている乗用車用タイヤは、国産乗用車の場合はほぼすべてがサマータイヤとなる。新車用タイヤの開発に当たっては、冬季にチェーンを装着することを前提に開発されており、冬になったからといって純正装着しているタイヤがまったく使い物にならない、というわけではない。ただ、気温が低くなるとゴムが硬くなり、グリップ性能が低下していく。
乾燥した舗装路であれば、気温が0度付近になっても危険を感じることなく走ることができるが、冬の冷たい雨が降って路面が濡れていると制動距離が伸びたり、カーブで踏ん張りがきかず、足元をすくわれたようにツーッと横滑りしてしまうこともある。
雪が降るともっと顕著で、普段はまったく意識していなかった緩やかなスロープさえ登らなくなったりする。もちろんブレーキの効きも極端に悪くなってしまう。
■タイヤにとって世界で最も過酷な環境にある日本の冬
これに対して冬用タイヤをウインタータイヤと呼ぶ。日本ではスタッドレスタイヤがよく知られているが、ウインタータイヤの1カテゴリーで、かつて売られていたスパイクタイヤに代って登場したタイヤだ。1980年代にスパイクタイヤの粉塵問題でスパイクタイヤの製造と使用が禁止され、これに代わって作られたのがスパイク(=スタッド)を持たないスタッドレスタイヤだった。
なぜ日本でスタッドレスタイヤが進化したのかというと、日本の冬はタイヤにとって世界で最も過酷だから。気温が低いほうが厳しく思えるが、タイヤにとっては氷に水分がなければグリップはそれなりに発揮できる。
問題は氷に水幕が張った状態で、冷凍庫から出したばかりの氷は指に張り付くのに水につけるといきなりつかみづらくなる、まさにあの状態だ。
日本の冬は0度付近の状態にあることが多く、特に日中は氷が解けて滑りやすい路面が多く出現する。そのため、かつては氷のグリップに優れたスパイクタイヤが多く使われていたのだが、使用が禁止されたことで、それに代わるタイヤとしてスタッドレスタイヤが作られるようになり、いまだに進化しながら性能が高められている。
■雪が降らない地域でもスタッドレスタイヤは必要か?
ところで、スパイクタイヤはなぜ氷の路面でもグリップするのか。それはスタッドレスタイヤに使われているゴム(トレッドゴム)が低温でも柔軟性を失わず、氷の路面をとらえてグリップしてくれるから。
もちろん、トレッドデザインやサイプ(極細溝)などの効果も少なからずあるのだが、大雑把に言うと、氷の路面はゴムの性能がグリップ性能に大きく影響し、雪の路面はトレッドデザインが大きな効果を発揮する。
だから理想的には、夏はサマータイヤ、冬はスタッドレスタイヤがいいと思う。ただ、非降雪地域に住んでいて、冬季も雪のあるところに行かない人であれば、あえて高いお金を払ってスタッドレスタイヤを履くのはもったいない、と考える人も少なくないと思う。
そこで注目を集めているのがオールシーズンタイヤ。オールシーズンタイヤを装着すればこれ1セットで1年をカバーできるからだ。
■オールシーズンタイヤはスノーフレークマークが付くと冬用タイヤと認められる
その火付け役はグッドイヤーの「ベクター4シーズン」というオールシーズンタイヤ。アメリカでは中部から北部にかけてはオールシーズンタイヤが標準装着されるケースが多いのだが、これまでは性能的にはM+S(性能基準はありません)レベルだった。
ベクター4シーズンはウインタータイヤとして厳しい基準のある『スリーピークマウンテンスノーフレークマーク』(通称スノーフレークマーク)を取得し、大幅にウインター性能を引き上げ、また欧州でもウインタータイヤとしての使用が認められたことで注目を集めた。
特にドイツでは冬季はウインタータイヤを装着することが法律で定められたことから、通年装着できしかも冬用タイヤとしても認められるオールシーズンタイヤの需要が一気に高まった。
その後、多くのメーカーがスノーフレークマーク付きのオールシーズンタイヤを開発し、市場に参入してきた。
■オールシーズンタイヤってどんなタイヤ?
ではオールシーズンタイヤとは、いったいどんなメカニズムで冬の性能を作り出しているのだろうか。
先にも触れたが、タイヤのコンパウンド(ゴム)は気温が下がると硬くなり、グリップ低能が低下していく。そのためスタッドレスタイヤは低温でも柔軟性が失われないようにコンパウンドが作られている。けれども低温で柔らかなゴムは高温ではもっと柔らかくなってしまうので操縦安定性を損ねたり、摩耗が極端に悪くなってしまったりするので夏の使用には向かない。
ただ、雪の性能はかなりの部分をトレッドデザインでカバーすることができる。雪の路面でのグリップ性能は路面を踏みしめることで作り出せる雪柱せん断力が大きな役割を担っている。そのためスタッドレスタイヤのようにコンパウンドを低温向けに振らなくても、ある程度の性能は確保できる。
言い方を変えると、夏の灼熱の路面を走れるゴムの弾性を確保するのか、コンパウンドの低温時の柔軟性を重視するのか、という綱引きがあるわけだ。
現在、オールシーズンタイヤを発売しているタイヤメーカーのほとんどは、スタッドレスタイヤのような氷の路面でのグリップ性能までは求めず、多少低温時のゴムの柔軟性を確保したサマータイヤ寄りのコンパウンド+トレッドデザインが採用されている。
つまり、氷の路面はあまり得意とは言えないけれど、平坦な雪道程度なら不安を感じることなく走ることができる、そんなタイヤに仕上がっている。
以上のことからオールシーズンを履くメリットのある人を考えてみると、1:非降雪地域に住んでいる2:積極的に雪道には行かない3:凍結路も少ない地域であること、が要件になりそうだ。
■オールシーズンタイヤの寿命
それからもうひとつ重要なことがある。それは年間走行距離。オールシーズンタイヤもウインタータイヤとして認められるのは残溝50%まで(これはスタッドレスタイヤも同じ)。走り方によって、また車種によって摩耗の度合いは違ってくるので一概には言えないが、1mm摩耗で5000㎞走れるとすると、溝の深さ8~9mm程度なのでチェーン規制を回避できる冬用タイヤとして使えるのは4mm=2万km強といったところだろうか。
オールシーズンタイヤを冬季直前に購入すれば2シーズンはウインタータイヤとして使え、次の冬まではそのままサマータイヤとして履いていられる計算になる。もちろん、これは仮の計算だから、もっと摩耗が早いクルマ(運転の仕方)もあれば、走行距離が短くタイヤの摩耗が少なくて3シーズン使えるかもしれない。
結論として2年半使えるのであれば、タイヤ交換の手間が省けるし、タイヤの保管場所を探す必要もないので、メリットを感じる人はかなり多いと思う。逆に、走行距離の多い人にとってオールシーズンタイヤを履くことのメリットは少ないと思う。
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