日本では日々、さまざまな輸入車を街中で見る。アメリカ車やイタリア車、フランス車などがあるが、その中でも最も見る頻度が高いのはドイツ車であろうか。だが、同じアジアの国のクルマはどうだろう。韓国車最大手のヒョンデ(旧ヒュンダイ)は2001年に日本での乗用車販売を開始するも、2010年に撤退。そして2022年、燃料電池自動車の「ネッソ」、そして電気自動車の「アイオニック 5」をもって、約12年ぶりに日本での乗用車販売を復活させた。また、ヒョンデのバス「ユニバース」は乗用車販売撤退期間中も日本での販売が行われていた。
韓国車はこのように日本での販売の歴史があるが、中国の乗用車と聞くと馴染みのない人がほとんどかもしれない。それもそのはず、それらは今まで一般向けには販売されておらず、正規輸入はおろか並行輸入車としての登録もほぼ不可能であった。中華人民共和国が国連欧州経済委員会(UN-ECE)による協定規則(通称:58協定)の締約国でないがために登録には莫大な費用と手間が必要で現実的ではなかった。
だが、2021年2月、中国の高級車「紅旗」が日本に上陸し販売を開始。その3ヶ月後には実際に各種保安基準への適合も完了させ、無事に日本の自家用乗用車ナンバープレートが交付された。これは日本における初めての純中国メーカー製乗用車一般向け販売となり、日本の自動車史に残る画期的な出来事となった。今回は、もし街中で見ることができたらラッキーな、日本で販売されている中国のクルマを紹介していく。
写真・文/加藤ヒロト(中国車研究家)
■【紅旗】
紅旗は1953年に中国で最初に誕生した自動車メーカー「第一汽車」が展開するブランドで、1958年に第一号車である「紅旗 CA72」が完成して以来、長年にわたって中国の要人たちに愛されてきた。現在では伝統的な見た目を持つ最高級シリーズの「Lシリーズ」と、より現代的でスポーティーな見た目を持つ「Hシリーズ」のふたつに大別される。
「Lシリーズ」はトヨタ「センチュリー」のような存在で、重厚で威厳のある伝統的なデザインが特徴。「Hシリーズ」は複数のモデルから形成される高級車群となる。ガソリン車の他、BEV、PHEV、FCV(燃料自動車)など「新能源(日本語で新エネルギーの意味)」車も幅広くラインナップする、紅旗の新時代を象徴するシリーズだ。
日本に最初に上陸した紅旗は、後者の「Hシリーズ」の中でもフラッグシップとなるセダンの「H9」。紅旗 H9は2.0L、直列4気筒ターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドと、3.0ℓL、V型6気筒スーパーチャージャー付きエンジンの2つのパワートレインが用意されており、そのどちらもトランスミッションは7速DCTを搭載する。
2020年8月に中国本国で正式に発表後、同年12月にはUAE、2021年1月に韓国、そしてその翌月に日本へ上陸した。2021年12月には大阪の難波にショールーム「紅旗エクスペリエンスセンター」をオープン。紅旗 H9の展示や、商談スペースなどが設けられているが、一般公開されるショールームを日本にオープンさせたのは、中国ブランドでは紅旗が初ではないだろうか。
紅旗 H9は現在までに数十台が日本国内でデリバリーされたが、日本で販売されている紅旗はH9だけではない。2022年5月にはミドルサイズSUVの「HS7」が日本向けモデル第2弾として上陸し、晴れてナンバープレートの交付を受けた。これ以外にも、最上級モデルのL5や、純電動SUVのE-HS9など、他モデルの注文も受け付けている。
■【BYD】
世界トップレベルのバッテリー技術を持つBYD。1995年に広東省深圳市でバッテリーメーカーとして誕生し、現在では蓄電池や半導体、電気自動車のメーカーとして業界をリードする企業にまで成長した。
自動車事業は2003年、陝西省に本拠地を置く小型車メーカー「西安秦川汽車」を買収、BYDの自動車部門「BYD汽車」を設立してスタート。その歴史はまだ20年にも満たないが、2021年の中国市場においては電気自動車(前年比145%増)とプラグインハイブリッド車の合計で、世界トップクラスともいれる年間販売台数約60万台を記録したメーカーだ。
BYDが日本に上陸したのは2015年2月のこと。自社の電気バス「K9」を5台、京都市内を走るバス「プリンセスライン」に納入したことにより、日本での最初の一歩を歩んだ。2022年5月現在、日本国内での納入台数は約70台となっている。
現在、日本で販売しているバスは「K9」「K8」「K7」「J6」の4種類。「K」はBYDが展開する路線バスに付与される記号で、数字は車体の大きさを表す。なので、K9は全長12メートル、K8は全長10.5メートル、K7は全長9メートルとなっている。そして肝心のモデルがJ6となる。「K」ではなく「J」のアルファベットが与えられているこのモデルは、BYDが「K6」というバスをベースに、日本向けに設計・開発を行なった日本独自のモデルだ。「J6」の「J」は「ジャパン」を表している。
BYD J6は2020年2月に、長崎にあるテーマパーク「ハウステンボス」の園内ホテル宿泊者専用の送迎バスとして5台採用されたのを皮切りに、日本各地の事業者に採用されている。全長7メートルのこの小型バスは日本の道路事情に適した作りになっており、限られた敷地内の移動や、コミュニティバス需要などにも、その高い環境性能で応えていくモデルとなっている。
BYDは元々バッテリー会社ということもあり、自動車はもちろんのこと、自社開発のバッテリーにも高い注目を集めている。最近では「刀」形状のバッテリーセルを採用するリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を開発し、自社の乗用車やバスなどに搭載している。ブレードバッテリー最大の特徴はその安全性にあり、バッテリーの安全性を実証するクギ刺し試験では、表面温度も30℃から60℃にとどめたまま、発煙や発火を起こすことの無い、高い安全性を証明してみせた。
また、BYDはバスのみならず、乗用車も日本で展開している。2022年1月からはクロスオーバーEV「e6」の販売を自治体・法人向けに開始。e6は中国で2017年から販売している「宋MAX」を元にホイールベースを15mm延長させ、装備を簡素化させた商用モデル。全長4695 mm×全幅1810 mm×全高1670 mmのボディに、航続距離522 kmを誇る容量71.7 kWhのブレードバッテリーを搭載、快適性と使い勝手を両立させた電気自動車となっている。
■【上海ドイツ国民自動車】
ここまでは正規に輸入されているものを紹介してきたが、実は並行輸入で中国製乗用車を輸入し、日本で登録・販売を行なっているところがある。それが、京都府に本拠地を置く「上海ドイツ国民自動車株式会社」だ。
この業者はフォルクスワーゲンの中国での合弁会社の一つ、「上汽フォルクスワーゲン(上海汽車との合弁)」各モデルを販売している。顧客の望むモデルを実際に発注し、輸入、そして日本の公道を走るための登録作業を一貫してサポートしている。
フォルクスワーゲンは、本国ドイツはもちろんのこと、自ら「第2のマーケット」と呼ぶほど中国を重視していることでも有名だ。フォルクスワーゲンと上海のつながりは1984年、欧州の自動車メーカーでは初めて中国に参入した時から始まる。時の鄧小平国家主席が主導した改革開放により、中国は外資を積極的に取り入れる経済方針へと転換、各地では外国の自動車メーカーとの合弁会社を設立するムーブメントが沸き起こった。その一つが、上海市政府とフォルクスワーゲンの合弁事業で、現地では「サンタナ」を皮切りに、フォルクスワーゲン車種の生産を開始。今では、上海市民の国民車と言えるほど、上海の街中では多くのフォルクスワーゲン車を見かける。
上海ドイツ国民自動車株式会社では、まず自社の広報車として中国専売モデルの「ラマンド」を輸入し、日本国内で登録。ラマンドはMQBプラットフォームを採用するコンパクトセダンで、これ以外にも、フィデオンやラヴィーダ、ヴィロランなどの中国専売モデルを含む全17モデルを取り扱っている。日本ではお目にかかれないフォルクスワーゲンをお探しの方には、絶好のチャンスではないだろうか。
■【HWエレクトロ ELEMO】
厳密には中国の車ではないが、ファブレス方式(設計や開発だけを自社で行い、生産は他社の工場に委託する方式)で、中国国内で生産された自動車が日本に入ってきている例がいくつかある。その代表格とも言えるのがHWエレクトロの「エレモ」という小型EV商用車だ。
日本国内では小型貨物自動車(4ナンバー)登録のモデルと全長を縮めて軽自動車規格に合わせた2種類が存在する。配送業やキッチンカー、農産物の運搬、資材の運搬など、さまざまな用途に対応するこの小型トラックだが、バッテリーも航続距離120kmと200kmの2種類が用意されており、業務をこなすには十分な性能だ。サポートに関してもすでにオートバックスと提携を結んでおり、全国の店舗で万全の販売・メンテナンス体制を提供するとしている。
【画像ギャラリー】気づかず乗車済み…? 日本ですでに走っている中国車たち(29枚)画像ギャラリー投稿 実はもうすぐそばを走っている…? 続々上陸!! 日本で活躍する中国のクルマたち は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。