昭和から平成初期にかけて、クルマが最強のモテツールだった時代が確かに存在した。
いまではすっかり死語になった感もあるが、かつて「3高(高学歴・高収入・高身長)」がトレンディ(?)だった時代、男子にとってどんなクルマに乗っているかはある種の死活問題だった。
これは、異性はもちろんのこと、同性に対しても、だ。所有しているクルマは、自身の存在感を誇示するためのアピールツールでもあったのだ。
昭和40年代男にとっては、懐かしさと甘酸っぱい記憶を思い出していただきつつ、かつて一斉を風靡したデートカーについてふりかってみたい。
文/松村透
写真/トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、メルセデスベンツ、ポルシェ、サーブ、AdobeStock(maroke, Paylessimages,buritora)
■ナンパスポットに出撃するクルマは高級車か2ドアクーペかオープンカーが必須?
インターネットが普及するはるか以前のこと、全国各地に「ナンパスポット」があった。口コミで情報をゲットした若い男子と女子、それぞれが出会いを求めて夜ごと街へと繰り出したものだ。
本気か遊びかはさておき、とにかく男子はカワイイ娘をゲットしたいし、女子は前述の3高に合致する(自分に相応しい)男子を選びたいという、至極シンプルな、本能に満ちあふれた(?)欲望が交錯していたのだ。
何しろまったく面識がない相手(ナンパ待ちの女子)をゲットする以上、第一印象がすべてだ。男子としては目いっぱい見栄を張らないと女子から相手にされない時代でもあったのだ。
そんなわけで、お金があろうとなかろうと、可能な限り(時には限界を超えてでも)背伸びするしか並み居るライバルに対して不利だった。
カッコ良くて、速そうで、高そうなクルマ・・・。なかでも人気だったのは「高級車」「2ドアクーペ」そして「オープンカー」だ。当然、男子もそのカテゴリーのクルマをゲットしようと躍起になっていた。現代よりもあきらかに高金利なオトコの60回ローンを組んででも、だ。
■グレードも排気量も最上級であることが正義?
車種選びが大事なことはいうまでもないが、グレードが何であるか(どのくらいのポジションに位置するのか)も同じくらい重要視された。
メルセデスベンツSクラス(W/V126型)も560SELに需要が集中したし、初代セルシオにしても「一番上の全部付き」であるC仕様Fパッケージが最強だったのだ。グレードおよび排気量も最上級であることが正義だったのだ。
そうなると、例えば「2.0GTツインターボ」より「3.0GTリミテッド」の方が格上という扱いになる。メーカーもそのあたりのユーザー心理を心得ていたのか、グレードが一目で分かるエンブレムを用意して、視覚的にもその違いを容易にしていた。
「Limited」や「VIP」など、トップグレードのみに与えられたエンブレムは、興味がない人からすればバッチのひとつに過ぎない。しかし、一部のユーザーにとって、まさに富と力を誇示するうえで必須装備だったのかもしれない。
サンルーフとマルチビジョンAVシステム、デジタルメーター、さらに自動車電話や当時としては先進(&高級)アイテムだったカーナビが装備されていれば、もはやフルアーマーガンダム状態の無敵マシンとして、同乗する女子にも喜ばれたものだ。
■デートカーとして一世を風靡した国産車
挙げればキリがないが「デートカー御三家」といえばこの3台だろう。
トヨタソアラ(Z20型)
・発売開始:1986年1月
・エンジン:直列6気筒DOHC、直列6気筒DOHCターボ、直列6気筒DOHCツインターボ
・排気量:1988cc、2954cc
・最高出力/最大トルク:105ps/15kgm、200ps/28kgm、240ps/35kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4680×1695×1350mm、4680×1730×1340mm他
・新車の価格帯:237.2万円〜489.6万円
・中古車の平均価格:232.8万円
初代モデルのイメージをキープしながらリファインした2代目ソアラ。世界で初めてスペースビジョンメーターを実用化したのもこのモデルだ。白洲次郎が開発陣に助言を送ったモデルとしても知られる。
ホンダプレリュード(BA4型)
・発売開始:1987年4月
・エンジン:直列4気筒SOHC、直列4気筒DOHC
・排気量:1958cc
・最高出力/最大トルク:110ps/15.5kgm、140ps/17.8kgm他
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4460×1695×1300mm
・新車の価格帯:130.9万円〜236万円
・中古車の平均価格:121万円
ソアラと同様に、先代モデルをリファインしたデザインの3代目プレリュード。市販車としては初となる4WSを装備したのもこのプレリュードだ。電動サンルーフの装備がデートカーとしても必須装備だった。
日産シルビア(S13型)
・発売開始:1988年5月
・エンジン:直列4気筒DOHC、直列4気筒DOHCターボ
・排気量:1809cc、1998cc
・最高出力/最大トルク:135ps/16.2kgm、175ps/23kgm、140ps/18.2kgm、205ps/28kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4470×1690×1290mm
・新車の価格帯:152.6万円〜249.6万円
・中古車の平均価格:276.4万円
当時の若者を中心に人気を博したS13型シルビア。ターボエンジンのK’s、NAエンジンを搭載したQ’sとJ’sの3グレード構成。前期型は1.8L、後期型は2.0Lエンジンを搭載。
他にもセリカGT-FOURやスープラ、フェアレディZ(Z32)、マークII 3兄弟、初代シーマなど。いずれもその時代を代表する高級車やスポーツカー、クーペモデルばかりだ。
■憧れと嫉妬!? 最強のデートカー輸入車
国産車以上に存在感を放ったのが輸入車勢だ。お金持ちのボンボン(これも死語か・・・)が父親に買ってもらうしかないような、20代の若い世代が食費を抑えて手に入れられる領域でないクルマも多かった。
アウディ80
・発売開始:1990年
・エンジン:直列4気筒SOHC
・排気量:1984cc
・最高出力/最大トルク:110ps/17.3kgm、115ps/17.1kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4400×1700×1390mm
・新車の価格帯:346〜395万円
・中古車の平均価格:該当なし
ヤナセが当時の正規代理店だったこともあり、アウディ イコール 80というほど販売台数を伸ばしたモデルだ。当時としては少数派だった右ハンドル&AT仕様を選ぶことが可能だったことも人気を博した要因のひとつといえる。
BMW3シリーズ
・発売開始:1982年
・エンジン:直列6気筒SOHC
・排気量:1795cc、1990cc、2493cc他
・最高出力/最大トルク:115ps/16.5kgm、129ps/16.7kgm、170ps/22.6kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):1660×1340×1100mm他
・新車の価格帯:348万円〜598万円
・中古車の平均価格:254万円
いわゆる5ナンバーサイズのボディをまとった最後の世代でもあるE30型。日本では「六本木のカローラ」といった不名誉な称号が与えられてしまったが、走りの味は当時のBMWそのもの。DTMや日本のグループAでも活躍したBMW M3がデビューしたのもこのE30型からだ。
ポルシェ944
・発売開始:1982年
・エンジン:直列4気筒DOHC、直列4気筒DOHCターボ
・排気量:2990cc
・最高出力/最大トルク:211ps/28.5kgm他
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4240×1735×1275mm他
・新車の価格帯:695万円〜815万円
・中古車の平均価格:564.3万円
当時はポルシェのエントリーモデルとして位置付けられていた944。NA、ターボの他、カブリオレモデルも設定されていた。トランスミッションがATのグレードも用意されていたので、女性や運転が得意ではないユーザーにも支持された。
サーブ900
・発売開始:1978年
・エンジン:直列4気筒DOHC、直列4気筒DOHCターボ
・排気量:1984cc
・最高出力/最大トルク:125ps/17.3kgm、160ps/26.0kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4680×1690×1425mm他
・新車の価格帯:330万円〜590万円
・中古車の平均価格:146.6万円
1978年にデビューした後、仕様変更を繰り返しながら1993年まで生産されていたサーブ900。セダン、ハッチバックの他、カブリオレの設定もあった。村上春樹原作の話題の映画「ドライブ・マイ・カー」に登場するのもサーブ900(ハッチバック)だ。
他にもポルシェ911やBMW5シリーズ、「小ベンツ」ことメルセデスベンツ190Eなど、ごく普通の20代の若い世代がどれほど無理をしても手が出ないようなクルマを乗り回す「ボンボン」がいたことも事実だ。
強力な飛び道具を手にしているだけに、ナンパスポットでは数々の撃墜記録を打ち立てた亡者も・・・。
■現代のデートカーとして人気なクルマとは?
現代のデートカーとして圧倒的な人気を誇るのがSUV系だろう。クーペはもちろんのこと、セダン系よりもアイポイントが高く、シートもゆったりしていて快適・・・というクルマが多い。それでいてミニバンのように所帯じみてもいない。要は総じてスマートだということだ。
トヨタハリアーやレクサスRX、メルセデスベンツGクラス、ポルシェマカンやカイエン・・・などなど。
新車/中古車と問わず高額であっても、リセールバリューもいいし、交際している彼女と結婚することになったとしても(子どもが産まれた場合、多少の不便さがあるとはいえ)当面は乗り換える必要がないというメリットもある。
独身時代から結婚、出産後・・・といった具合に、先々を見据えると比較的長期間に渡って有効活用できる点において、SUVを選ぶのメリットは大きいのかもしれない。
■まとめ:多くの女性の皆さんはそれほど気にしてない?
いまの20代の方には想像できないかもしれないが、バブル期に女の子とのデートで軽自動車・・・はドン引きされたものだ。昭和40年代男が「アッシー君」「メッシー君」なんてヒドイ扱いを受けたエピソードも挙げればキリがないほどだ。
事実「軽自動車の助手席に座るほど、ワタシは安いオンナじゃないのよ!馬鹿にしないでよ!」と憤る女子がいたとかいないとか・・・。
それに引き換え、現代の若い女性の皆さんが彼氏やその候補の男子が軽自動車に乗って現れても嫌な顔ひとつしないどころか、見栄を張らずに堅実と解釈してくれるケースも珍しくないという。
むしろ、下手に見栄を張って高級車でデートに出掛けようものなら、かえってドン引きされてしまいそうだ。
ドライブの用途に応じたオリジナルのカセットテープを作り、カー用品店で仕入れたクルマ用の幸水や、当時はまだ社外品が当たり前だったカップホルダーをエアコンの吹き出し口にセット。
さらにドライブデートで道に迷わないよう、事前に1人でロケハンしたり(笑)、純正品はダサいからと、納車した日にモモやナルディなどのステアリングに交換した・・・。
現代と比較したら何かと不便で、手間がかかったことも多かった。アラフィフ世代以上なら、どれかひとつは経験があるかもしれない甘酸っぱい思い出を、ふとした時に思い出して青春時代を懐かしむのも一興かもしれない。
投稿 昭和40年代男の「見栄」と「憧れ」と「男女の欲望」が交錯した懐かしのデートカー7選 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。