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失敗を恐れない果敢なチャレンジ精神は素晴らしい!「華麗なる空振り車列伝」

 近年はあまりないが、特に1990年代初めのバブル期には果敢なチャレンジを行い壮大な空振りに終わったモデルというのも時々登場した。

 そんなクルマたちが当事者の皆さんに残したものはともかくとして、部外者には愛すべき存在なのも事実なのもあり、ここではそんなクルマたちをピックアップし、振り返ってみた。

文/永田恵一
写真/ベストカーWEB編集部

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■日産インフィニティQ45(1989年)

 1970年代中盤以降、コスパがよく、燃費のいい日本車はオイルショックなども追い風となり、アメリカ市場を席巻するようになった。しかし、日本車の躍進はアメリカビッグ3に大きな打撃を与え、アメリカビッグ3の従業員解雇にもつながった。当時のニュースではそんな彼らが日本車をバットでメッタ打ちにし、「いい気分だ」と吐き捨てるといった映像が流れることもあった。

 そのため1980年以降、日本車にはアメリカの雇用の維持もあり、現地生産が求められ、日本からの輸出台数には制限が課せられるようになった。となれば、「日本から輸出するクルマは利益の大きい高価なモデルとしたい」という背景もあって誕生したのがトヨタ初代セルシオやホンダNSXの初代モデル、Z32型のフェアレディZなどで、インフィニティQ45もそういった1台だった。

インフィニティQ45のコンセプトは「独創的でスポーツ性を持つ高級車」。外観は欧州車を意識しつつ、当時の日産デザインを主張する

 ベンツSクラスやBMW7シリーズをターゲットとし、初代セルシオと同時期に登場したインフィニティQ45のコンセプトは「独創的でスポーツ性を持つ高級車」という、それまでにはないものだった。

 具体的には、前者から見ていくとエクステリアは「ジャパンオリジナル」をテーマに大きなグリルが定番の高級車としては異例のグリルレスのフロントマスクに七宝焼きのエンブレムを持ち、インテリアでは漆塗りのパネルの設定が大きな特徴だった。

 後者はインフィニティQ45も当時日産が「1990年に日産車の走りの性能が世界一になっている」という目標を掲げ展開した、あの901活動の一員だったこともあり、初代セルシオより500cc大きい4.5LのV8エンジンを搭載し、前後左右のクルマの動きを強制的に抑えるアクティブサスペンションを採用。

 インフィニティQ45はコンセプトどおりの高級車には仕上がっており、高級車を含めた高級品は「オリジナリティを持つか、機能で圧倒するか」という商品なだけに、インフィニティQ45の存在意義は確かにあった。

 しかし、このあたりが「高級車にふさわしかったか?」というと、オーソドックスながら「圧倒的な静粛性、クォリティの高さ、燃費のよさ、それでいてコスパが高い」という高級車に必要な要素を両立した初代セルシオに対し、インフィニティQ45は全体的にわかりにくいモデルだった。

 また、スポーティな走りというのもベンツのAMGのようなモデルならともかく、基準車がそういった方向なのにも疑問はあった。

 結果、インフィニティQ45は大失敗に終わるのだが、インフィニティQ45ベースのショーファードカーとなるプレジデントを出した点や、日産がインフィニティQ45をビッグマイナーチェンジで期待ほどは浮上しなかったにせよ、見違えるように改良したことは評価できる。

■ユーノスコスモ(1990年)

 マツダはバブル期にマツダ、アンフィニ、ユーノス、オートザム、フォード車を中心に扱うオートラマという5ブランド、5チャンネル制を展開するという大勝負に出た。そのなかでユーノスロードスター(現在のマツダロードスター)が大ヒットしたユーノスは、今のレクサスのようなプレミアム性を目指したブランドだった。

 そのためマツダとユーノスのシンボルとなるモデルの必要性に加え、マツダはロータリーエンジンを実用化した唯一のメーカーだけに、その頂点、夢となる3ローターを搭載車が欲しかったという背景もあり、誕生したのがユーノスコスモである。

 ユーノスコスモは今のレクサスLCやBMW8シリーズクーペのようなラグジュアリークーペで、シーケンシャルツインターボとした3ローターエンジンはレシプロエンジンのクランクシャフトにあたるエキセントリックシャフトをはじめ、超高度な精度を持ち、プラットフォームは専用、リアサスペンションは当時のジャガーXJ-Sに影響を受けたのか、ダンパーを2本持つツインダンパーを採用。

 インテリアもラグジュアリーなタイプEではフカフカな革シートを持つなどゴージャスなのに加え、世界初のカーナビとなるCCSを設定し、おまけにユーノスコスモは日本専用車という、とにかく贅沢なクルマだった。

 しかし、ユーノスコスモはマツダのブランド力とユーノスコスモの不釣り合い具合、ATとロータリーターボの組み合わせによりドライバビリティ(運転のしやすさ、スムーズさ)が今ひとつだったことに加え、3ローターターボは「全開加速すると燃料計が下がるのが目視できる」というのもウソではないらしい燃費の悪さが致命傷となり、まったく売れなかった。

 なお、ユーノスコスモは生産が1995年8月まで、販売は1996年6月まで販売され、約5年間での生産台数は9000台ほどと言われており、想像される開発費を台数で割るなどの計算といった見方によっては非常にお買い得なクルマだったとも言える。

■日産ルネッサ(1997年)、プレサージュ(1998年)、バサラ(1999年)

 日産は経営的に追い込まれていた1997年、ルネッサという意欲作をリリースした。ルネッサはミドルクラスのステーションワゴンに近い2列シートミニバン、後の1999年に登場するホンダアヴァンシアに近いモデルで、2列目にはスライド機能があり、レッグスペースを広くできることや前席を回転対座できる点といった新しさを持っていた。

 さらにルネッサは電気自動車化も想定されており、バッテリーを積むため床下は2代目モデルまでのベンツAクラスのような二重構造となっていた。

 しかし、ルネッサは床下の二重構造が仇となってフロアが高く、室内高を確保できず、2列目をスライドすればレッグスペースは広いものの、ヘッドスペースが広くないなどそれほど快適ではないという大きな矛盾があった。また、乗ってみても全体的に乱暴、粗っぽいクルマという評価もあり、販売は低迷した。

 1998年登場の初代プレサージュはルネッサとプラットフォームを共有する、ホンダオデッセイの初代モデルをターゲットにしたミニバンである。初代プレサージュは日産車らしい硬質な走りや新開発の2.5Lディーゼルターボが意欲作だったというセールスポイントはあった。

 しかし、如何せんルネッサ同様二重構造フロアによりミニバンにとって重要な室内空間が稼げないという致命的な弱点により、後出しなのに初代オデッセイに完敗に終わった。

 また、当時は日産もディーラー系列があったため、翌1999年には日産店で販売されるプレサージュに対し、プリンス店とサニー店で販売されるバサラという兄弟車も加わったが、バサラが残したのは車名に特徴があった点だけである。

 ルネッサ、初代プレサージュ、バサラが失敗作に終わったのは、「実用化が早すぎてユーザーが理解できず、ユーザーにメリットが薄い」という、日産車でたまにあることが最大の原因だったのだろう。

■ホンダレジェンド(4代目モデル/2004年、5代目モデル/2014年)

 1985年に初代モデルが登場したレジェンドは3代目モデルこそ印象が薄いが、ホンダ初の高級車かつ当時のローバー800と兄弟車だった初代モデル、1990年登場でFFミドシップ構造を採用し、日本車初の助手席エアバッグを設定するなど安全性に注力した2代目モデルと、以前から意欲的なモデルだった。

 それは近年のモデルも同様で、2004年登場の4代目モデルは前後の駆動力が可変となるトルクスプリット4WDなのに加え、後左右輪の駆動力は理論上0:100から100:0まで調整可能なSH-AWDを採用。エンジンも長年日本車のカタログモデルが自主規制されていた280ps規制解禁1号となる300psの3.5LV6を搭載した。

 2014年登場の5代目モデルも3モーターハイブリッドでSH-AWDを進化させ、昨年リース販売という形ながらレベル3と呼ばれる高速道路での渋滞中の自動運転を実現した、ホンダセンシングエリートを搭載し、歴史的なモデルとなった。

 しかし、4代目と5代目のレジェンドは、4代目モデルではSH-AWDの熟成不足や3.5LV6のトルク不足、5代目モデルはインフィニティQ45のように高級車の基準車としてはスポーツ性に振りすぎた感に加え、このクラスにおけるホンダのブランドイメージの薄さを最大の理由に、どちらも販売は低調に終わった。

 ただ、レジェンドは最近絶版となったが、この記事に登場するクルマたちのほとんどが直接的な後継車なく一代かぎりで終わったのに対し、レジェンドは4代目モデルと5代目モデルの間に約2年間の空白期間があっただけで30年以上継続されたことは大いに称えるべき点である。

ホンダのフラッグシップセダンであるレジェンド。絶版は残念だ

■トヨタiQ(2008年)

 iQはスマートフォーツーのような、シティコミューターとしての使用を中心に想定したマイクロカーである。iQはスマートフォーツーに近いモデルではあるが、大きな違いは全長約3mという全長ながら、リアシートを設け4人乗りとしたことだ。

 4人乗りとするため、iQはデファレンシャルの位置の反転、上置きのステアリングギアボックス、超薄型燃料タンクの採用、エアコンの小型化といった新技術が多数盛り込まれ、このサイズにもかかわらず短時間なら充分座れるリアシートを得た。

 当時、1L3気筒エンジンを搭載したiQの価格は140万円からと、今になって盛り込まれた技術を考えれば納得できるところもある値付けではあった。しかし、「140万円払うならちゃんと4人が乗れる軽自動車や、フィットのような広いコンパクトカーの方がいい」と一般ユーザーの多くが考えるのは当然で、iQの販売は伸び悩み、2016年に絶版となった。

 また、iQで珍しいのはトヨタというメーカーは失敗作からも継続してやがて成功する、教訓や技術的なフィードバックを得るなど、何らかの元を取るものだが、iQにはそういった印象が薄い。その意味でもiQはトヨタとしては異例なモデルと言えるのかもしれない。


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