国立理化学研究所(理研)の研究者らの“雇い止め”がネットで話題になっている。きっかけは理化学研究所労働組合(理研労)からの問題提起。労組は3月25日、厚生労働省に要望書を提出するとともに記者会見を開催。2022年度末に600人の研究者が雇い止めになる可能性があると指摘した。
理研労はツイッターでも精力的に発信。会見に先立ってこの雇い止めの問題点を次々とツイートして注目を集めている。
労組「成果が出ていないから雇い止めではない」
「なぜこれほどの大量雇止めが起きようとしているか」と題したツイートでは、「予算がないから雇止めではない」「成果が出ていないから雇止めではない」「研究者は冷遇されても文句など言わない文化」「目先の研究費を獲得するためには、これまでの人材・成果を大切にするよりそのとき限りの人材を揃える方が都合が良い」などと、理研が抱える構造的な問題点を指摘した。
— 理化学研究所労働組合(理研労) (@riken_union) March 25, 2022
さらに、今回の雇い止めで失われるものとして、「大量の世界最先端の現存研究設備・施設」「多くの研究人材」「プライスレスの研究成果」を挙げ、結果的に「莫大なお金(税金)、研究成果、人材、時間のムダ使い」となってしまうなどとツイートした。
この件を報じたNHKによると、理研は「研究所の社会的な使命や役割を踏まえつつ、労働組合との協議を含め、職員との対話を重ねてまいります」とコメントしているという。
中国人技術者「中国は日本人研究者のおかげで大国」
理研の雇いい止めについては、3日にNEWSポストセブンが配信した記事がネット上で話題となり、多くの人の知るところとなった。
この記事では、俳人で著作家の日野百草氏が中国人ITエンジニアに、日本の研究者や技術者がおかれた環境をどう見ているのかをインタビューしてまとめた。記事で、中国人ITエンジニアは「中国は日本人研究者や技術者のおかげで大国です。本当にありがたい話です」と皮肉交じりに言い放っていた。
記事を執筆した日野氏は中国人技術者のこの言葉に、「これまでも自動車、精密機械、重電、通信、鉄道、鉄鋼、農業、エンタメ、ありとあらゆる技術や研究は中国に渡った」と振り返っている。
中国が日本人を引き抜いているというより、日本側の問題を指摘する見方もある。病理専門医で科学・医療ジャーナリストの榎木英介氏は「Yahoo!ニュース個人」で、中国に渡る日本人研究者が多い理由について、「高給により研究者が次々と中国に引き抜かれているといった理由より、日本側がむしろ積極的に追い出しているというのが実情だ」との見方を示している。
日本でも研究者の価値が見直されつつある⁉
ただ、理研も理研労が訴えているような有期雇用による弊害を認識していないわけではないようだ。理研が2018年に、2024年度までに任期なしの無期雇用研究者の割合を現状の1割から4割に高める方針を打ち出しているのがその証左だ。
また、この4月から東京大学元総長の五神真氏が理研の新理事長に就任した。五神氏は、若手教員の「無期雇用化促進制度」や「卓越研究員制度」などを打ち出し、総長就任前8年間で16ポイントも増えていた東大の有期雇用教員割合を減少に転じさせるなど、卓越した手腕を発揮した。五神氏を新理事長に据えたのも理研、ひいては日本政府の危機感の表れだと見ることができる。
そんな中、国内に11カ所の研究拠点を持ち、約2300名の研究者が所属する「国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)」が、すべての研究者を無期雇用に切り替えたことが分かった。現在、無期雇用の新たな研究者も募集している。これも、日本政府の危機感の表れだろう。
遅まきながら、日本でもようやく研究者の価値が見直されようとしつつあるのだろうか。まずは、600人に上る理研の雇い止め研究者が、どのような処遇となるのかを注目したい。