数ある働くクルマの中でも極めて特殊な存在と呼べるのが霊柩車。その昔は、お寺の仏壇のような派手な装飾を施した宮型の霊柩車が一般的で、霊柩車を見かけたら「親指を隠せ」なんて言われたもの。
しかし、現代においては洋風な霊柩車が全盛で、すれ違っても気づかないか、そもそも街中で遭遇する機会が減っているような感覚もある。今回、現役バリバリの宮型霊柩車を撮影する機会を得た。日本独自に発展した宮型霊柩車のディテールをチェックし、人生最期に乗るクルマについて考えてみたい。
文、写真/青山義明
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人が担いでいた棺車にエンジンがついたのが霊柩車の始まり
霊柩車は葬儀を終え、遺族や参列者が死者を埋葬地や火葬場まで送っていく「野辺送り」の手段として存在する。もちろん、霊柩車が登場する前は、棺桶を担いで送っていた。それが車輪の付いた大八車になり、地域による違いはあるものの、棺車としての装飾が施されていったようである。
その棺車がそのままエンジンの付いた自動車に置き換わり、進化していったというのが、霊柩車の始まり。現在も自宅や葬儀場から火葬場まで霊柩車を先頭に近親者の車両が列を作って送るのが一般的であり、故人がこの世から旅立つセレモニー用として、宮型霊柩車の需要はあったのだ。
宮型霊柩車が減少を続ける理由は?
いかにも霊柩車然としている宮型霊柩車は、現代では敬遠されているのが実情だ。現在の主流は、洋型霊柩車という車両後部がレザー張りで構成されているシンプルな車両や、普通車と見分けがつかないバン型霊柩車だ。利用する側の意識として、あまり派手にしたくないという思いが宮型離れに直結している。また、昨今の密葬や家族葬といったコンパクトな葬儀、さらにCMなどによる葬儀費用の均一化の流れのなかで、高級な宮型霊柩車を使用しない傾向がますます強くなってきているという。
さらに火葬場や葬儀場近くの住民からの意見や苦情などもあり、宮型車両の通行が難しくなるケースも。宮型霊柩車の乗り入れを禁止している火葬場や、使用道路の制限という措置が取られることもある。また、もちろん走行上の問題はないのだが、地域によっては歩行者保護の観点からも条例として走行ができないところもあるという。
輿(コシ)を組んだ宮型霊柩車をまじまじと見てみよう
今回、国内2番目の規模を持つ霊柩運送業者である名古屋特殊自動車に協力を仰ぎ、この会社が所有する100台を超える霊柩車のうちの一台の撮影を行った。愛知県西部を中心に営業所を展開しているこの会社では、この金ぴかの宮型霊柩車(特金車)は6台も所有している。
仏壇なども地方毎に特徴があるが、この宮型霊柩車も輿の部分が他とは違う特徴がある。関東などでは、車両後部のウエストラインやウインドウのラインの上に輿を載せるタイプだが、この尾張(名古屋)地方の宮型霊柩車は、ベース車両の下側の低い部分から輿の一部となっているデザインが特徴である。
ちなみに、この車両の3サイズは全長5420×全幅1840×全高2360mmとなる。ホイールベースの延長はなく、リアオーバーハングの延長で対応している。フェンダーミラーでは見ることのできない死角も多く、屋根の張り出しや車両の最高点となる鬼瓦部分への注意も必要だということで、この会社でも運転はベテランドライバーが担当している。
洋型に比べ、宮型霊柩車の製作費は圧倒的に高い
この輿に使われている金箔は24金。もちろん、そのままでは天候などの影響を受けるので、上から保護剤が掛けられており、本来の輝きを若干失っているが、それでも陽が射すときれいな輝きを発する。宮型という呼称の通り、銅板葺きの屋根はお宮のような造りで、一枚一枚銅板を貼り付けた板金屋根としている。
宮型霊柩車の製造コストは洋型霊柩車の比ではなく、輿の部分だけで1000~2000万円はかかるという。さらに利用減少もあって、宮型霊柩車を作るコーチビルダーがいなくなってしまっており、現在宮型霊柩車を所有している会社でも、今あるものを丁寧に使っていくしかない、という。ベース車両の変更に対して、輿自体は載せ替えが可能ではあるが、残念ながら総じてあまり明るい未来とは言えない。
乗ってみたい、と思っているのならば遺言というカタチで家族に「最期は宮型霊柩車に乗りたい」と宣言しておこう。その行動が宮型霊柩車の存続につながる、かもしれない。
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