厚生労働省は3日、2021年の人口動態統計(概数)を発表した。昨年の出生数は81万1604人と80万人割れが目前に迫り、一方で出生数から死亡数を引いた人口の自然減は62万8205人と過去最高を記録。これは千葉県船橋市や埼玉県川口市が全ての人が1年で1人もいなくなったのとほぼ同じ計算になる。
■15年間で大阪市と神戸市消滅に相当
発表された最新の人口動態統計によると、昨年生まれた子供(赤ちゃん)の数(出生数)は81万1604人で過去最少を記録した。死亡数は戦後最多の143万9809人で、出生数から死亡数を引いた自然減は62万8205人と過去最大の減少幅を記録した。
この数値は概数で日本にいる日本人のみ(在外邦人・在日外国人は含まず)とはいえ、概ね現在の人口の動きをとらえていると思って差し支えない。人口の自然減は2007年から15年連続となり、人口減少社会に慣れてしまっている人が多いかもしれないが、これは考えてみると恐ろしい結果である。
自然減がおよそ63万人ということは、1年間で千葉県船橋市(人口64万6330人=2022年5月現在)がまるまる消滅するにほぼ等しい数値と言っていい。2007年から2021年まの15年間の自然減を足すと432万6785人。これは大阪市と神戸市の人口の合計とほぼ同じになる。
21世紀になってからの出生数と自然減の推移をグラフ(日本の出生数と人口の自然増減の推移)で示したが、ご覧のように出生数(水色)は年々下がり、逆に自然減(赤)は加速度的に増えているのが分かる。
出生数は1993年に120万人を割り込み、2016年に100万人を割るまでに23年間かかっている。ところが2019年には90万人を下回り、2022年には80万人を割ると予想され、そうなると、今度は6年で20万人減少することになる(産経新聞6月4日付け・少子化加速「重大な危機」)。
死亡数に関して言えば、団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が高齢期に入っているのが大きい。戦後間もない時期に生まれた3つの世代では年に250万人以上が誕生しており、これは2021年の出生数の3倍以上。その団塊の世代が2022年には70代半ばに差し掛かっており、今後、さらに死亡数が増えることが予想される。
2021年の死亡数は143万9809人で、出生数81万余の1.77倍以上。近い将来、死亡数が出生数のダブルスコアとなるのは確実。「ご愁傷さまでした」が「おめでとう」の2倍という社会から明日への活力が生まれるかと問われると難しいものがある。
目に見える少子高齢化は、冠婚葬祭時に感じることが多い。子供の頃、親戚の葬儀があると父母の兄弟姉妹が集まり、各家庭に子供がいて、わいわいと葬儀そっちのけで賑やかに話をしたものである。
それが昨今は葬儀があっても集まるのは高齢者ばかり。子供は数えるほどしかいない。そんな時に「我々やその下の世代で葬儀をする時には集まる人がいるのだろうか」と漠然とした不安を感じた人は少なくないと思われる。
■生涯未婚率の上昇
出生数が少ない原因の1つが男女とも未婚率が増えていることにある。50歳時の未婚率を見ると1970年に男性1.7%、女性3.3%であった。それが45年後の2015年には男性23.4%、女性14.1%へと上昇。男性は5人に1人は50歳で未婚である(内閣府・平成30年版 少子化社会対策白書 少子化対策の現状)。
50歳で未婚の人を見る社会の目はどうだろうか。誤解を恐れずに表現するなら、大阪万博が行われていた時代には「50歳になっても結婚しない男女は、相当な変わり者」と見られていたと思われる。今ではとても口にできないが「男は所帯をもって一人前」と言われていた時代。地方には親戚の中には若者に結婚を勧める世話好きなおばさん・おじさんがいて、婚姻率アップに寄与していた。
ところが、あたり前のように未婚男性がいる現代、個人的な感覚ではあるが社会がそうした人を見る目も変わってきていると思う。おそらく多くの人は「マイペースを貫いて生きてきたのだろう」「結婚しない人生を選んだんだね」といった感じではないか。
実際、僕の周囲にも50歳で未婚(事実婚をしている人も含む)の男性は少なくない。それは別に珍しいことではなく、また、彼らが変わっているとも思えない。人生は人それぞれである。
そうした価値観の多様化が婚姻する男女を減らし、少子化へと繋がる一因となっていると思われる。もちろん原因はそれ以外にもある。
晩婚化、出産年齢の高齢化、女性が子供を産む社会的環境が整っていない、子供を産み・育てるだけの経済的裏付けがない、など。
松野博一官房長官は3日の会見で少子化の進展について最優先で取り組むべき課題としたが、どこまで効果のある対策ができるか疑問であるし、それができていなかったから今の状況がある。
■今の若者に伝えたい結婚の魅力
日本経済の成長が止まり、世界の中でその地位が相対的に下がっているのは大問題であるが、それは人口減少による部分は少なくない。人口減少が続けば国内消費が減少するのは当然で、経済全体がシュリンクする方向へとベクトルが働く。
我々はそういう時代に生きていると諦めるしかないが、今の子供たちが将来に夢を持てないような社会になることは阻止したいと思う。
可能な範囲で、若者たちに恋愛し、結婚し、子供を産み・育てる人生も悪くないことを伝えていきたいと思っている。