最初に述べておくと、筆者は日本維新の会が衆議院議員選挙時に大々的に掲げた選挙公約である「減税政策」を支持していた者である。
そのため、僅か約半年後の参議院議員選挙時に、同党の選挙公約として掲げられた「減税政策」が質的に激変、単なる偽減税政策へと転換したことを残念に思わざるを得ない。以下、客観的に確認可能な事実のみを記載する。
減税政策の打ち出しが「経済成長から物価対策」に後退
そもそも日本維新の会は昨年の衆議院議員選挙時の打ち出しとして下記のように減税政策を位置づけていた。
2. 減税と規制改革、日本をダイナミックに飛躍させる成長戦略
(参考:維新八策2021)
一方、今回の参議院選挙用の維新八策2022の打ち出しは下記のように変更されている。
②大胆な減税と景気刺激策による物価対策を速やかに実行。
この2つには一見すると大きな変わりがないように見えるが、実は重要な違いが存在している。それは減税の「政策目的」の違いだ。
前者の成長戦略としての減税は、経済成長のためのものであるから、途中で減税を見直したり増税したりする余地は少ないものだ。それに対して、後者の物価対策とは「現状の一時的な状況に対する対処」という意味合いでしかないものだ。
当然であるが、維新は今回の参議院議員選挙で政権を取る可能性はない。そのため、この政策目的の打ち出しの後退は「維新の政策の質的変容」、そして詐欺政策そのものだと考えることができる。
それは何故か。
政権を取らない間だけ減税政策を主張する詭弁
岸田政権の高支持率から考えると維新が政権を取る可能性はない。仮に実現できるとしても、それは次期衆院選後、つまり解散がない限りは3年以上先の話となる。
今、世界中で発生しているインフレは、コロナ対策の巨額の政府支出、そしてウクライナ危機や中国のロックダウン等のサプライチェーン上の問題に起因する部分が大きく、仮に日本にまで物価高騰が波及したとしても一時的なものと言えるだろう。まして、物価対策は中央銀行の仕事であり、来年には金融緩和の旗振り役であった日銀のトップが代わる可能性が濃厚であり、維新が政権を担う段階では物価高騰などおよそ関係がない話だ。
つまり、維新が政権を取るのは(解散がない限りは)最短3年後であることから、減税政策の政策目的を、経済成長ではなく物価対策まで後退させることは、彼らが政権を取れた時には事実上減税政策を実行しないための「言い訳づくり」の政策変更を行ったと見做すことが妥当だ(その政策責任者の本音は後程説明する)。
今から随分と官僚的で小賢しい知恵がついた地味な修正をするものだと感心する。まさに自分達が政権取らない間だけ、「選挙の運動論として減税を掲げる」と言えるだろう。
成長戦略としての「減税」を最初から否定する国会議員団政調会長
筆者は、経済成長を実現するための「減税政策」を推進すると公約で大きく掲げた日本維新の会を信じて衆議院議員選挙では比例票を投じた。
だが、今回の参議院議員選挙における経済政策部分の変更などについて、足立康史国会議員団政調会長は自身のnoteで、この参議院議員選挙の公約を「衆議院議員選挙公約を『換骨奪胎』するほど大きく見直したもの」と称した。
まさに、上述の通り、僅か半年で減税政策の趣旨を大きく修正する見直しをしたことは衆議院議員選挙の公約が「詐欺」であったことを意味する。
言うまでもなく、足立氏は国会議員団政調会長として国会で責任を持つ人物だ。
その彼のnoteには参議院議員選挙の公約の解説と称し、「景気対策としての減税は必要ですが、いわゆる構造改革、長期の成長戦略として「減税」に固執することはありません」とも解説されている。
つまり、同党の政策立案を担う幹部から「長期」の成長政策としてのフロー大減税など最初から守るつもりがない、と堂々と宣言しているのだ。最初から公約に固執しない(≒破る)と宣言することは潔いが、その選挙公約を見て投票する有権者を舐めていることは間違いないだろう。
したがって、維新八策2022の「長期」の経済政策とされる部分に記載されている減税政策も「短期」のそれと同じく実行される保証はない。同党の議席さえ取ってしまえば公約変更は何でもアリ、というのは民主主義を冒涜している。
増税の表記は「ストック課税」として、有権者に「白紙委任」を求める
さらに、維新の政策で、筆者が悪質だと感じるのが増税政策である。同党の維新八策2022には、
155.フロー大減税を行うと同時に、ストック課税はそのあり方を見直すなど、『フローからストックへ』を基軸とした税体系全体における抜本的な改革を行います。
としか書いていない。
有権者は同党に「増税に対する『白紙委任』をしろ」と述べているに過ぎないのだ。全ての預貯金への課税、株式等に対するみなしキャピタル税、固定資産増税、その他ありとあらゆる増税を選択肢に入れられる。
任期6年間の参議院議員選挙で、課税案について事実上「白紙委任」を求めるなど、そもそも国会が何のためにあるのか、選挙を何のために行うかすら馬鹿にした暴挙である。
ちなみに、同党は衆院選前に「金融資産課税は完全に落とした」と藤田文武議員(現幹事長)がTwitter上で明言したが、選挙後に党政調会で足立氏が金融資産課税の議論をスタートした前科がある。(その理屈は「党是だから」というもので全く意味不明だ。)
ご意見ありがとうございます。また記者発表をご覧いただき感謝申し上げます。
説明の全体をご覧くださればご理解頂けるかと存じますが、これまで党内外から様々なご意見を頂き、専門家の方々とも議論を重ね、金融資産課税については日本大改革プランからは完全に落としました。— 藤田文武(日本維新の会 幹事長) (@fumi_fuji) May 17, 2021
その後、同課税案に対する反対論が強かったこともあり、今回の参院選前も一時的に議論が止まったように見えるが、同選挙後にも当然に同じことを繰り返すことは想像に難くない。
同党の「増税しない」という約束は全く信用に値しないものだ。
迷える有権者へ:嘘をつかない政党にしていく努力を
ところで、維新に選挙公約で裏切られたからといって「他の政党も酷すぎるので、投票する政党がないよ!」という第三極支持者の人も多いだろう。その気持ちは良く分かる。
しかし、私たちが認識するべきことは「約束を守る政党や政治家」は「有権者が厳しい対応をすることで初めて出来上がる」ということだ。
つまり、今回は「衆議院選挙公約を実質的に反故にした(維新が減税公約の趣旨を変更し、なおかつ金融資産課税を除外しない選挙公約を露骨に再度提示した)」という理由を同党議員にツイッターや街頭などで伝えて、同党に投票しないことが大事だと思う。
圧倒的な支持率の岸田政権が参議院議員選挙で圧勝することは明白だ。そして他の野党各党もグダグダだ。それであればせめて第三極の政党が有権者を欺いて恥じない政党から生まれ変わるように、はっきりとお灸をすえるということが望ましいだろう。