2015年登場のアルファードは、すでに次期型がうわさされる状況にも関わらず国内で高い人気を誇っている。その人気は新車にとどまらず、中古車さえも高値で取引されているほどだ。
そんなアルファード人気は国内にとどまらず、中国やタイをはじめASEAN諸国などにも広がっており、現地ではかなりの高値で取引されているのだ。しかし、そんな人気車にもライバルが迫っており、アルファードバブルが崩れるかもしれないという。それが垣間見えたタイ現地の様子をレポートする!
文/小林敦志、写真/小林敦志、ベストカー編集部
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■バンコクの交差点でタイの人気車を探る
筆者はバンコクを訪れると、定点観測している交差点がいくつかある。何を定点観測するのかといえば、交差点を通るクルマである。久しぶりに定点観測ポイントで通るクルマを見ていると、やはり多く見かけたのはトヨタアルファードであった。
タイではアルファード、ヴェルファイアともに正規輸入販売されている。価格は3.5LV6を搭載するアルファード3.5VIPが約2082万円となっているので、タイではかなりの高級車なのだが、このアルファード&ヴェルファイアがガンガン売れているのである。
しかも、正規輸入モデルだけでなく、日本から個人輸入された日本仕様のアルファードやヴェルファイアも専門業者が日本から輸入販売しており、こちらもかなりの台数が売れており街中を走っている。
違いだが、助手席の“キノコミラー(補助ミラー)”と、リアガラスに排ガス規制や燃費基準のステッカーが貼ってある(年式や仕様による)のが日本仕様なのですぐわかる。アルファードの人気が高いのは何もタイだけではない。筆者が訪れたことのあるインドネシア、ベトナムそして中国でも大ヒットしている。
まず香港でアルファード系が人気となり、香港からビジネスなどでアルファードに乗って中国本土にやってくる人が増えると、中国人の間で「あのクルマはなんだ?」と話題になり、正規輸入販売となったなどという都市伝説のような話を聞いたことがある。
■盤石のアルファードにライバル登場?
ただ、バンコク市内で定点観測していると、アルファード並みとはいかないものの、あるミニバンが多いことに気がついた、それはヒョンデスターリアである。
スターリアは2021年4月に韓国でデビュー。その後同年7月にタイで発表されている。かつてラインナップされていたトヨタエスティマは、その近未来フォルムで人気の高いミニバンであったが、そのエスティマをさらに未来的にした、まるでコンセプトカーのようなフォルムがウリのミニバンとなっている。
そのスターリアのバンコク市内での“増殖”ぶりがハンパではないとは地元事情通A氏。「本格デリバリー開始は確か2021年末近くからですから、まだそんなに経っていないのですが、とにかく街なかで見かけますね、その勢いはすごいです」とのこと。
ヒョンデはモーターショー会場で見ている限りは、タイ市場ではそれまでH-1というミニバンに絞り込んだプロダクト展開をしてきていたのだが、アルファードに比べればどうしても見劣りしてしまっていた。
しかし、スターリアというある意味アルファードとは真逆のキャラクターで“ポスト アルファード”の地位を狙ってきたようにも見える。
スターリアには標準タイプとプレミアムシリーズがあるのだが、そのプレミアムの価格は224万9000バーツ(約850万円)となり、価格だけをみるとアルファードのライバルと言っていいかどうかわからないのだが、確かにその勢いには“ポスト・アルファード”といえるようなものを感じる。
また、同じく韓国系でヒョンデグループ傘下の起亜自動車がタイでラインナップしているミニバン“カーニバル”も、スターリアほどではないもののよく見かけるようになっている(こちらは214万4000バーツ[約810万円])。
筆者の感覚では、アルファードに乗っているのはそもそも富裕層であるが、その富裕層がアルファードに飽きてきている(増えすぎている)のではないかと感じた。
ただコロナ禍のなか、アルファードベースのレクサスLMがデビューしており、アルファードのニーズがLMへ流れているという見方ができるので、スターリアやカーニバルの影響をモロに受けているという様子ではないのも確かなようだ(事実、LMも定点観測ポイントでは多く見かける。しかし、思っているより街を走っていると存在感が薄い印象を受けた)。
スターリアはまだ一部地域でリリースしたばかりの新型車。実は日本でもサンプルとしてヒョンデがスターリアを持ち込んで極秘裏にさまざまなところで試乗してもらいリサーチしているとの話を聞いたことがある。
なお、スターリアには現状で内燃機関仕様しかラインナップされていないが、すでにBEV(バッテリー電気自動車)仕様の開発を進めているとのことなので、BEVが登場すれば日系ミニバンとの差別化がより鮮明になるともいえよう。
今後世界市場でより広くリリースを進めた時に、今回のバンコクで見たような状況になれば、アルファードも“高みの見物”というわけにはいかないだろう。
ある日、たまたまバンコク某所の路地裏にある大きな“お屋敷”の前を歩いていたら、門が開いていたので中をのぞくと、アルファードとともにスターリアが置いてあった。
前出とは別の事情通B氏から、「タイの人はクルマの維持にそれほどコストもかからないので、複数保有するケースが多いです。気に入ったらすぐに買ってしまいますね」と聞いたことがある。
そのためアルファードに乗っているお金持ちが、「こんなのが出たんだ」と、アルファードとはキャラの異なるスターリアを“お試し”とばかりに買っているのも、スターリアの売れ行きに勢いを与えているのかもしれない。
以前、日本から東南及び東アジアへの中古車輸出ビジネスについて取材していた時に、現地からのリクエストがコロコロ変わると聞いたことがあるが、それも日本と異なり複数保有に抵抗のない地域性というものがあったのだろうと、当時を思い出した。
■「アルファード帝国」の今後
“ポストアルファード”としての注目株ともいえるスターリアが登場したものの、“アルファード帝国”はまだ盤石のようにも見えるのだが……。
「正規輸入販売は別として、日本からの個人輸入販売ですが、“儲かる”とのことで参入業者が増えすぎた印象があり、以前より“うま味(儲からなくなってきている)”がなくなってきておりますし、ニーズも以前ほどではないように見受けられます」(事情通B氏)。
アルファード人気は、その高いリセールバリューが支えている。そのリセールバリューは日本での中古車人気の高さが支えるだけでなく、海外への積極的な中古車の個人輸出も支えている。
日本でのアルファードの売れ筋価格帯が支払総額ベースで600万円といわれているなか、正規輸入販売でも約1500万円(車両価格)からタイでは販売されているのだが、日本から輸出された完成車のタイでの輸入関税が高く、ほか諸税も課税されているので、日本での販売価格との差額がそのまま利益アップとなっているわけでもない。
※自国産業保護などの観点から/輸入先やBEV[バッテリー電気自動車]なのか否かなどによって、関税がかからないなど状況が異なったりするが、欧州からの輸入も関税は高い。
それでもタイの富裕層がこぞって1000万円を軽く超えるアルファード(ヴェルファイアも)を欲しがるなか、「うま味が大きい」として日本からの中古アルファード系(ほとんど新車が目立つ)の輸出が盛んに行われ、バンコクでも個人輸入販売が盛んに行われ、それが日本での“アルファードバブル”を支える一助になっているといって過言ではないのである。
その海外での個人輸入販売の勢いに陰りが見え始めたということならば、いよいよ日本での“アルファードバブル”も崩壊リスクを覚悟する必要があるかもしれない。とはいっても、バンコクで聞いただけの話。これから、ほかの東南アジア各国をまわり事の真相を探っていきたい。
ただ、いままでよりは“アルファード転がし”を行っても、得られる利益は少なくなっていきそうな傾向なのは間違いないようだ。
“ミニバンは日本のお家芸”とはよく言われてきたが、どうも世界市場レベルではそうともいえない状況になりつつあるのは、今回タイで見聞きしたスターリアの様子を見ても確かなようである。
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