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仁義なき骨肉の争い? 兄弟げんかをしちゃったクルマの天国と地獄

 同じメーカーはもとより、異なるメーカーであってもプラットフォームなどを共用する“兄弟車”は意外に多い。だがこの兄弟車というのがクセ者で、似ているがゆえにユーザーを食い合う兄弟げんかに発展してしまったこともある。今回はそうした兄弟げんかの勝敗や、意外な展開となったケースを紹介していこう。

文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産、スバル、ゼネラルモーターズ、FavCars.com

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クルマの“兄弟”ってどういうこと?

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トヨタ GR86(左)とスバル BRZ(右)。この2モデルは有名な兄弟車だが、幸いなことに初代モデルからケンカをすることなく、現在も仲良く共存している

 現代のクルマはプラットフォームと呼ばれる基本構造にエンジンやサスペンション、ボディを装着して完成しているものが多い。つまりプラットフォームが同じであっても、見た目やエンジンなどが異なる兄弟車が存在できるというワケ。近年は自動車メーカーのグループ化が進んでいて、国籍の異なるメーカーのクルマが同じプラットフォームを使用していることも多い。

 このようにプラットフォームを共用し、なおかつサイズや見た目に共通点の多いクルマを一般的に兄弟車と呼んでいる。なお、クルマの場合“兄弟”なのか“姉妹”なのかは見解の分かれるところだが、この記事では兄弟車という名称を使用することを了承してほしい。

全店販売の犠牲者はどっち? 「トヨタ ルーミーVSタンク」

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トヨタ ルーミー。開発&製造担当はトヨタの子会社でもあるダイハツで、ダイハツからはトール、協力メーカーのスバルからはジャスティとして販売されている

 トヨタが販売するトールワゴンスタイルのコンパクトカーがルーミー。このルーミーはトヨタグループのダイハツが開発・販売するトールをベースにしたモデルで、トールのほかにもスバルがジャスティとして販売している。だが、実はつい最近までルーミーには同じトヨタ内でタンクという兄弟車が存在していた。

 ほぼ同じクルマがルーミー&タンクの別名で販売されていたのは販売店が異なっていたため。ルーミーはトヨタ店とカローラ店が販売し、タンクはネッツ店とトヨペット店が扱っていた。しかし、トヨタは2020年に全車種全店扱いを実施することになり、競合してしまうルーミーとタンクはルーミーに一本化されてしまった。

 ルーミーVSタンクの兄弟げんかがルーミーの勝利に終わった要因はルーミーのほうが売れていたから。当時のルーミー/タンク/トール/ジャスティ4兄弟のなかで一番販売台数が多かったのがルーミーで、タンクは2位だったのだが、同一メーカーという点がマズかった。

 かくしてタンクは2020年をもって販売を終了。ルーミーは現在でも継続販売されている。

トヨタ製ミニバンの覇権争い? 「アルファードVSヴェルファイア」

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トヨタ アルファード。写真は2015年にリリースされた現行型3代目モデルだが、近年のトヨタ車らしく迫力に満ちたルックスに仕上げられているのが特徴だ

 トヨタが販売する大型ミニバンのアルファードとヴェルファイア。この2台もプラットフォームを共有する兄弟車で、登場はアルファードが先。アルファードが2代目にモデルチェンジする際に派生したのがヴェルファイアだが、アルファードが高級感のあるルックスだったのに対し、ヴェルファイアはより若者向けの厳つい見た目を特徴にしていた。

 トヨタのこの戦略は功を奏し、2008年に登場したヴェルファイアは好調なセールスを記録した。実際、2015年のモデルチェンジを迎える頃にはヴェルファイアの販売台数はアルファードのそれを上回っていたほど。そういう意味では兄弟車の住み分けはうまくいっていた。

 だが、この状況に変化が訪れる。当初は高級感をウリにしていたアルファードがヴェルファイア寄りへと舵を切り、攻撃的なルックスへと変貌していった。さらに2020年にトヨタが全店全車種販売を決定したことも転機になった。

 販売店の数ではアルファードより優位にあったヴェルファイアだが、いざ全店販売が始まると、アルファードは2018年のマイナーチェンジによってついた弾みに拍車がかかり、好調に売れ行きを伸ばしていった。実際ヴェルファイアからアルファードに乗り換えるケースもあり、現在ではアルファードが完全に上位に立っている。

 この結果、ヴェルファイアのグレードは1種類のみに縮小され、今後は消滅してしまうというウワサすらある。今後の再逆転は考えにくく、この兄弟げんかに関してはアルファードの勝利と言える。

カモシカは乙女に勝てず……「日産 シルビアVSガゼール」

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S12型日産 ガゼール。型式からもわかるように、S12型シルビアの兄弟車だ。写真のモデルにはパワフルな2リッター直4ターボエンジンが搭載されていた

 日産が販売していたスポーティモデルのシルビアは、1965年から2002年まで販売していた2ドアモデル。長きにわたって人気車種の1台として君臨していたシルビアだが、このモデルには良く知られる180SXのほかにも兄弟車があった。3代目のシルビアが登場した1979年、同車と共通のコンポーネンツを使用しながら、装備が異なる上級モデルとして発売されたガゼールがそのクルマ。

 ガゼールは当時放送されていた人気番組・西部警察の劇中に登場したことで注目を集め、シルビアが4代目へとモデルチェンジするとガゼールもまたリニューアルされた。しかしシルビア&ガゼールのメインターゲットでもあった若者からの支持はシルビアのほうが熱く、ガゼールはシルビアに吸収されるかたちで販売を終了した。

 ガゼールの名称はカモシカの仲間に由来する。しかし雄々しいカモシカも流麗なボディを持つ乙女(シルビア)の魅力にはかなわなかった。

販売終了後の逆転劇「トヨタAE86トレノVSレビン」

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トヨタ AE86カローラレビン。名称からわかるとおり元々はトヨタ カローラの派生車種だったが、本家カローラがFF化されてもこのAE86はFRが採用された

 2023年には発売40年を迎えるトヨタのAE86スプリンタートレノ&カローラレビン。どちらも今だに高い人気を誇るクルマだが、この2台を比較すれば圧倒的にトレノの人気が上。だが、“ハチロク”が現行車として販売されていた時代にはレビンが販売台数でトレノに差をつけていた。

 実際にAE86レビンの販売台数はトータルで6万6000台。対するトレノは3万5000台と、レビンのほうが倍近く売れているのである。これにはさまざまな理由があるが、現役時代はレビンの勝利に終わっている。

 しかし、AE86の生産終了から7年、とある作品の連載が青年コミック誌で開始される。峠を攻める街道レーサーの青春を描いたその作品「頭文字D(イニシャル・ディー)」において、主人公が駆るマシンが白黒ツートンカラーのAE86トレノだった。パワーに勝るライバル車を驚異的なテクニックで打ち破る主人公機の通称・パンダトレノは、またたく間に人気を集めた。

 頭文字Dはあくまでフィクションではあったが、この人気は実車にも波及し、ついには中古車の人気と価格もトレノがレビンを凌駕するようになる。この状況は現在も変わらず、AE86と言えばトレノというイメージを持つ人のほうが圧倒的に多い。

 AE86トレノ自体魅力の多いクルマだが、レビンがそれに劣るということはない。だが、AE86の中古車市場では、トレノがレビンよりも高額で取り引きされている。

仲良し兄弟の最後は痛み分け? 「トヨタ ラクティスVSスバル トレジア」

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スバル トレジア。「トレジャー(宝)」に由来する車名を持ち、トヨタのOEMモデルながらスバルの技術もとり入れられている。残念ながら2016年に販売を終了

 2016年に販売を終了したトヨタのコンパクトトールワゴン・ラクティス。この時点でラクティスは2代目のモデルだったが、この2代目ラクティスには他社からリリースされた兄弟がいた。

 スバルが2010年に発売したトレジアがそのクルマで、基本的にトヨタ製造し、スバルにOEM供給を行ったもの。とはいえ2代目ラクティス(=初代トレジア)開発にはスバルの技術者も参加していて、しっかりとスバルらしさも確保していた。

 このラクティス&トレジアの評価は高かったが、次代を生み出すことなくシリーズの歴史を終えている。これは前出のタンク同様にトヨタの車種整理の影響とも言われている。トヨタにはラクティスと同系統のモデルが多く、モデルチェンジの時期に合わせて整理を行ったのだ。

 こうしてラクティスとともにトレジアの生産も終了。兄弟仲が悪いわけではなく、住み分けもできていたのだが、ファンにとっては残念な結果になった。

アメリカンブラザーズはケンカしたのか? 「シボレー カマロVSキャデラック ATS」

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キャデラック ATS(上)とシボレー カマロ(下)。この2モデルがGMアルファプラットフォームを共用する兄弟車であることは意外に知られていない

 最後は意外な2台が兄弟だったという話題も含めてアメ車の兄弟対決を紹介していこう。

 アメリカのゼネラルモーターズ(GM)のブランド・キャデラックが2012~2018年に販売していたコンパクトセダン&2 ドアハードトップのATS。実はこのATSは、同じGMグループのシボレーが販売する現行型カマロの兄弟だったのだ。

 ATSとカマロは、そのイメージや立ち位置が大きく異なるものの、GMが開発したアルファプラットフォームを共有するれっきとした兄弟車であり、このプラットフォームを採用したのはATSのほうが先となる。しかし、ATSの売れ行きは想定したものには届かず、わずか一代をもってその歴史に幕を閉じることになった。

 人間の兄弟げんかは結果的にお互いの仲を深めることがあるが、クルマの場合はどちらか、あるいは双方が販売終了に終わることも多い。このあたりはメーカーにとっても頭の痛い問題ではある。

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