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なぜLPガスだけ緩和対象に!? トリガー条項はどうした!! 燃料費高騰で苦しむ運輸業に見る不可思議な現状

 国土交通省は2022年4月28日、タクシー事業者に対する燃料価格激変緩和対策を実施すると発表した。

 原油価格の高騰を受け、国民生活への影響を緩和し、今後の需要回復局面にタクシーの供給を順調に回復するための下支えするため、LPガスを使用するタクシー事業者に対して、燃料高騰相当分を支援するという内容だ。

 しかし、運輸業で緩和対策が発表されているのは、このタクシーに関するものだけだ。なぜ、LPガスに限定してのものなのだろうか? トラック業界など燃料費高騰に苦しんでいる企業は多くあると思うのだが……。

 なぜタクシー業界に限った話となったのか? トリガー条項凍結解除はどうなっているのか? 事情に迫っていきたい。

文/高根英幸
写真/AdobeStock(トップ画像=akiyoko@AdobeStock)

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■LPG価格が高騰 コロナ禍もあったタクシー業界の現状

2022年4月28日、国土交通省から、タクシー事業者に対する燃料価格激変緩和対策の実施が発表された(ktktmik@AdobeStock)

 GW直前の2022年4月28日、国土交通省が発表したタクシー業者に対する燃料価格激変緩和対策は、ちょっとした衝撃で運輸業界に伝わった。その制度はいささかややこしいが、要は昨今の燃料価格上昇に対して、消費したLPGの価格上昇分に相当する費用を補助金として支給する、というものだ。

 なぜタクシー業者だけが? という印象をもつ人も多いだろう。クルマで人やモノを運ぶ運輸業界の企業は、タクシーだけでなく、トラックやバスなどもあり、その台数は膨大なものだ。

 ちなみにちょっと古い情報だが2014年の時点でタクシーは日本全国に23万台ある。そのうち3万台は個人タクシーで、最近はガソリンやディーゼル仕様のタクシーも存在する。

 コロナ禍の影響でタクシー需要が落ち込んだことから、タクシーの保有台数やドライバーの数は減少しているが、経産省によれば2021年の時点でタクシーの8割にあたる約17万台は燃料にLPGを使用している。

 今回の補助金の算定基準によると、タクシーが1日に消費するLPGは平均10.2Lという。最近はLPGでもハイブリッド車が増えているから燃費は向上しており、LPGの消費量は下がっているようだ。

 すべてのタクシーが毎日稼動している訳ではないため、稼働率を7割(東京都内の平均データ)として考え、どれくらいの補助金が支給されるのか、試算してみよう。

 今回の補助金は2022年1月27日から3月31日までの燃料消費分に関するもので、2月2日までは支援額は1Lあたり3.4円、2月9日までが3.7円で、3月9日までが5.0円だが、3月10日から31日までは10.4円となっている。つまりそれだけ急激にLPG価格が高騰したのだろう。

 3月10日から31日の部分だけでも試算してみると、大手のタクシー会社でも保有台数は3000台程度の場合、21日間に2100台が稼動したとして燃料消費量は21×2100×10.2=44万9820Lで、その補助金は467万8128円にもなるのだ。

 その9倍近い燃料代が掛かっているとはいえ、トラック業者にとっては羨ましい話なのではないだろうか。

■何のためにタクシー業界を優遇するのか

燃料の高騰に対して緩和策を設けていなかったLPG。タクシーを確保するための手段として、今回の支援策が設けられたようだ(beeboys@AdobeStock)

 冒頭でも書いたように、LPGだけが燃料の高騰に対して緩和策を設けていなかったことと、今後の景気対策と合わせてタクシーを確保するための手段として、今回の支援策が設けられたことになっている。

 この支援策、2021年暮れには国会で成立した予算に組み込まれていたが、目的をわかりやすく言えば、選挙対策、ということになるのではないだろうか。何しろタクシードライバーは、減ったとはいえ30万人規模だ。ドライバー以外の従業員やその家族も含めれば全国で100万人規模の選挙権に影響する。

 タクシー業界だけ、燃料費の高騰に対する軽減措置がなかったことに対して、不公平感を感じていることに対して補助金を出すことで与党自民党はイメージアップを図りたいのだろう。

 トラック業者や我々一般ドライバーに対しては、石油元売り会社へ補助金を支給することで価格上昇を抑制している、というのが政府側の見解のようだ。

 確かに最近、燃料価格の高騰は一服した印象はある。しかしガソリンスタンドを利用する者としては、ガソリンスタンドへの卸売価格は不透明で補助金の効果を実感しにくい。なのでやはりトリガー条項の凍結解除をして欲しいと思うのだ。

 ただ現在の補助金は最高で1Lあたり35円と、トリガー条項で軽減されるガソリン税や軽油引取税の相当分を超えたものになっている。実質的にはトリガー条項を発動させた状態と変わらないか、それよりも安い価格になっているのだ。

 であればトリガー条項を発動したほうがいいのではないか、と思われる読者も少なくないだろう。しかし、トリガー条項の凍結を解除して発動させるには、2つの大きな障害が存在するのだ。

 1つは、このトリガー条項そのものが、かつての民主党政権時代に制定されたものだということだ。民主党は、自民党から政権を奪取するために選挙公約にこれでもかと、国民が喜ぶような公約を並べ立てた。それにより、自民党を上回る票を得て政権与党の座についたのである。

 その中には高速道路の無料化やガソリン税の廃止なども含まれていた。しかし実際に政権を獲得してからは、理想と現実の狭間でなかなか公約の実現が果たせずグダグダの政権運営になってしまったのだった。

 その結果、生み出された妥協案がトリガー条項なのである。つまり今の自民党政権にとっては、苦渋を舐めさせられた黒歴史の象徴でもある訳だ。そんなかつての民主党政権の置き土産を、今がその状態だからと利用する気には到底なれない、というのが本音だろう。

 政治家には意地やプライドも大事だから、そんな気持ちも理解できなくはない。それでも、こうした政治家同士、政党同士のイザコザでとばっちりを受けるのは我々国民であるから、できればイザコザは勘弁してほしいものだ。

 そんなイザコザやプライドをかなぐり捨てても、トリガー条項の凍結を解除して欲しい、という思いを抱くドライバーも少なくないハズだ。

 しかしトリガー条項の凍結解除には、もう1つ問題がある。それは国会で審議を経て法改正しなければならないため、およそ半年程度の期間が必要となるらしい。その間に世界情勢が変化していると審議も混乱して改正案がまとまらなくなる可能性もある。

 それでも石油元売り会社への補助金をいつまでも続けるのは、産業界への不公平感もあって難しいのではないだろうか。なのに政府がトリガー条項の凍結解除に前向きではないのは、一度トリガー条項を発動させてしまったら、再び暫定税率分を徴収するのは難しい、と思っているからだろう。

 というのもこれから先、燃料価格が上がることはあっても、下がることは考えにくい。一時的には現在のレベルより下がることはあるかもしれないが、全体としてみれば燃料価格は上昇していくいっぽうになるだろう。であれば、高すぎるガソリン税を軽減することが絶対に必要だ。

 絵に描いた餅のようなトリガー条項ではなく、ガソリン税の暫定税率廃止を公約に掲げ、それを実行できると思えるような政治家に1票を投じることが、ドライバーにできるせめてもの抵抗となりそうだ。

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