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 電気自動車で世界最大手の米テスラ。今のところ電動バイクに関して静観の構えを取っているが、今後、二輪マーケットに打って出る可能性を探ってみた。

 ――調べてみると、最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は、若い頃にバイクで事故を起こしており、どうやらバイク自体に否定的のようだが……!

文/沼尾宏明、写真/TESLA他

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何かとお騒がせなイーロン・マスク氏がクルマの未来について語った

 テスラで自動車業界に革命を起こし、宇宙開発事業への進出、ツイッターの買収、世界長者番付1位etc……何かと話題に事欠かないイーロン・マスク氏。5月10日(現地時間)に実施されたインタビューで、電動スクーターなどマイクロモビリティの市販化に関する質問を受け、今後の見通しを語った。

 インタビューを行ったのは英Financial Times。オンラインセミナーのFT Liveで「Future of the Car」と題し、マスク氏が出演した。現在、youtubeで動画が公開されており、1時間20分にわたる興味深いトークが繰り広げられている。

イーロン・マスク氏が参加したFT Liveのキャプチャー画面より。動画は限定公開されている(2022年5月26日現在)。https://www.youtube.com/watch?v=VfyrQVhfGZc

電動スクーターの市販化を訊ねられ、「デンジャラス」と一蹴したマスク氏

 電動スクーターに関する質問は動画の56分頃から。モデル3より小さく手頃なスクーターなど電動マイクロモビリティに参入する可能性について聞かれると、マスク氏は「スクーターは非常に危険」と第一声。

 「スクーターとクルマが走っている状態で、スクーターを運転することはお勧めしません」と答え、司会者に改めて質問されると「近い将来、モデル3より小さいEVを販売する予定はあります」と回答した。

 具体的な明言は避けた形だが、どうやら「モデル3より小さいEV」はスクーターなどの二輪車ではなさそうだ。

 テスラは、2003年7月の創業から現在まで電動バイクを発売していない。世界的に見ても、バイクはまだまだ内燃機関がメインストリーム。アジア圏などで電動バイクは普及し始めているが、大手二輪メーカーから決定版と言えるモデルは未登場。もちろん、テスラのように一人勝ちしているEVバイクメーカーも現れていないのが現状だ。

 その後、筆者はテスラ・アジアパシフィックの「プレス」宛てに、電動バイクに関する今後の動向や見解をメールで質問したが、執筆時点の5月26日で回答はない。ちなみにテスラの広報部門は2020年に解散された(広報がない二輪&四輪メーカーは前代未聞である)。

 また、イーロン・マスク氏のツイッター(@elonmusk)に、ダメ元で同様の質問をアットツイートしたものの、やはりなしのつぶてである。

テスラ モデル3。これより小型のモビリティとなると、軽自動車並みか、それともトヨタの2人乗り超小型EV「C+pod(シーポッド)」のようなサイズ感になる?

17歳でトラックとバイク事故に遭遇し、トラウマになった過去が!?

 実はイーロン・マスク氏は、「バイク嫌い」のようだ。

 過去の発言を調べてみると、2019年12月8日、本人のツイッターアカウントで「17歳の時にバイクで死にかけた」とのツイートが。これは、2023年中に発売を予定している同社初のピックアップトラック「サイバートラック」の話題に関するコメントで、「サイバートラックと同時に、二人乗りの電動ATV(四輪バギー)の発売を目指している。電動ダートバイクもクールでしょう」とツイートしている。

 これに続いて、「危険すぎるので、我々はロードバイクを望みません。私は17歳の時にトラックにぶつけられ、死にかけました」と記す。

 なお2018年6月の株主総会でもバイク事業に関して質問され、バイクに乗っていた過去を話して同様に回答。参入の可能性を否定している。

 また、2021年11月20日には、「残念ながらバイクを安全にする方法はありません。 1マイルあたりのモーターサイクリストの死亡者数は、車の乗員の約29倍です」とツイートしている。

 どうやらマスク氏は、公道でバイク事故に遭ったトラウマのせいもあってか、スクーターやオンロードバイクに否定的のようだ。しかしダートバイクのようにクローズドコース向けであれば、テスラ製EVバイクが発売される可能性はあるのかもしれない。

 それにしても明け透けにクルマと同じ乗り物である“バイク嫌い”を公言する自動車メーカーのトップは珍しい。バイクから出発したホンダ創業者の本田宗一郎氏とはまさに真逆だ。

テスラの電動バイクを想定した「モデルM」がデザインされていた

 テスラが消極的な一方で、電動バイクを期待する人も。「テスラが電動バイクを作ったらどんなスタイルになるか」想像したデザイナーが存在するのだ。

 手掛けたのは米国出身のインダストリアルデザイナー、ジェームズ・ゴーリー氏。過去にMVアグスタのホイールなどを担当し、現在はボッシュの家電グループに在籍する人物だ。

 2019年、テスラの車名に倣い、「モデルM」と命名したデザインを自身のHP(https://www.jamesgawleydesign.com/)で公開。車名のMはMotorcycleの意味だろう。デザインは、四輪セダンのモデルSをイメージしつつ、スタンダードなバイクとスポーツツーリングスタイルの特徴を兼ね備えている。

 フォルムは何と言っても中央の開口部が斬新。これはバッテリー冷却用のエアダクトを兼ねるようだ。そして、通常のバイクのタンクに当たる部分は上面が全てタッチスクリーンとなっている。さらにスマートエアサスによる車高調整機能を備え、高速域では車高を下げて空気抵抗を減らし、航続距離をアップ。サイドスタンドやステップは電動で格納&展開されるなど数々の未来装備を誇る。

 このモデルMはデザイナーが独自に発表したもので、もちろん発売に至ってはいない。

モデルM。バッテリーは車体下部のスイングアーム手前に搭載し、電動モーターはリヤハブに内蔵する。写真はhttps://www.jamesgawleydesign.com/より

地球最大の自動車メーカーを目指すなら、バイクも検討すべきでは!?

 今のところ、「公道走行可能なテスラの電動バイクが市販される可能性はほぼない。ただし、ダート向けは可能性あり」というのが結論。もちろんテスラの技術力があれば、電動バイクの製品化は十分可能と思われる。

 ただし、バイク独特の運転特性を考慮したモーター制御や車体設計には、二輪メーカーならではのノウハウが必要。テスラは四輪の特許をオープンソース化しており、CEOさえその気になればバイクメーカーとタッグを組む道もあるだろう。

 イーロン・マスク氏は、テスラを「地球上で最大の自動車メーカーにすること」を目標に掲げる。しかし名実ともに世界一を目指すなら、やはり二輪車の存在も必要不可欠のはず。

 個人的な体験から「公道を走るバイクが危険」と考えるなら、クルマの電動化と自動運転で世界を驚かせたように、バイクでも安全面などで革命的な車両を出してほしい。イーロンさん、ツイッターでいい回答をお待ちしていますよ!

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