ウクライナ紛争の影響もあって世界中で物価が上昇する中で、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利の0.25%引き上げを決定したが、次の5月のFOMCでは3月の倍の0.5%の引き上げを行い、さらにその後も複数回の利上げが見込まれている。
また、イギリスのイングランド銀行は既に昨年12月、今年2月、3月と3回0.25%ずつの利上げを行っており、ECB(欧州中央銀行)も7~9月には現在の資産購入プログラムを終了することがほぼ確実視されるだけでなく、インフレに敏感なドイツ、オランダ、オーストリア、ベルギーなどの中央銀行総裁は、年内の利上げを主張している。
「日銀だけ緩和」円安もたらす
このように主要国の中央銀行が金融政策を引き締めの方向に転換する中で、今もアベノミクスの核心的政策であった超金融緩和政策を堅持している日銀は、10年物国債の金利が0%の上下0.25%の範囲を超えないように維持する政策を採り続けている。
最近はアメリカの長期金利が3%近くまで上昇する中で日本の長期金利も上昇圧力を受けているが、長期金利が0.25%を超えそうになると、日銀は国債を一定の利回りで無制限に買い入れる「指値オペ」と呼ばれる措置を発動して金利を人為的に抑え込んでいる。
しかし、その結果アメリカと日本の金利差が2.5%以上開いて、円からドルに向かうお金の大きな流れが発生し、3月以降円の対ドルレートが急落している。
為替相場の表示で通常用いられる自国通貨建て(例えば1ドル=129円)ではなく外国通貨建て(例えば1円=0.007752ドル)で円ドルレートの推移を見ると、最近の急落の激しさが視覚的にはっきりと感じられる。
こうした円ドルレートの急落に対して鈴木財務大臣や黒田日銀総裁は、国会等で何度も繰り返し「急激な円安は好ましくない」という発言を繰り返しているが、金融政策の変更を伴わないこうした口先だけの介入をマーケットの参加者は完全に無視して、円売りドル買いに走っている。
4月21日、G20財務大臣・中央銀行総裁会議でワシントンを訪問した鈴木財務大臣は、イエレン米財務長官と会談した。その内容について22日の米財務省の発表文は「…イエレン長官と鈴木大臣は為替市場を含む金融市場の状況について議論し、為替レートに関する従来のG7とG20の合意を維持することの重要性を強調した」と述べているが、そこには急激な円安に対して具体的に日米で何か行動をするという内容はなかった。
円安に日米で協調介入がないワケ
ところでこのG7等合意が何たるかはわかりづらい代物だが、要約すれば、
①為替相場は市場で決められる(裏を返せば、為替相場への介入は控えるべきこと)
②為替市場における行動についてG7が緊密に協議を行う
③過度な為替変動や無秩序な動きは経済や金融の安定に悪影響を与え得る
という3点からなる。
この最後の③については過度な為替変動があれば①の合意に関わらず介入も認められると解釈する余地があるが、現状で言えば、円安を止めるために日米が協調介入をするとドル安になり、アメリカの輸入品の価格が上昇するので、インフレを抑えることが目下の重要な政策課題となっているアメリカとしては、ありえない選択肢だ。
では日本が単独介入すればどうかと言えば、主要国の中で日本だけが金融緩和を続けている現状では、政府が円買いドル売り介入をしても、市場の円売りドル買いの勢いに勝つことはできず、貴重な外貨準備を投機筋に献上するだけの結果となる可能性が高い。したがって日銀が現在の超金融緩和政策を維持する姿勢を変えない限り、円安のトレンドは変わらない。
もちろん円安は日銀が言うように経済にとってデメリットばかりではなく輸出促進、企業の海外事業収益の改善、海外からの利子配当収入などの増加といったメリットもあるが、企業の海外生産が進んだ今となっては、円安のメリットは小さくなって来ている。一般国民の感覚で言えば、給料が上がらない中で物価が上昇してきており、円安でさらに急ピッチの物価高となるのはごめん被りたいところだろう。
金融政策が野党の攻撃の的に
このまま円安が続けば、いずれ「悪い円安」という声が大きくなって、日銀に対する批判が高まると思われるが、日銀は面子もあってなかなか超金融緩和の旗を降ろさない。27~28日の金融政策決定会合では、日銀は長期金利の変動幅を0.25%に抑えるための指値オペを毎営業日行うことを決定したが、この日銀の金融緩和継続の固い決意表明とも言える決定によって市場の円売り圧力が一気に高まり、円は1ドル=130円を簡単に割ってしまった。
今後日銀が金融政策のスタンスを緩和から引き締めに変えない限り円売りの流れは続くものと思われ、その間にも物価上昇に対する国民の不満はますます高まることから、政治的に無視し得なくなるだろう。
自公両党は物価高騰の緊急対策で合意し、岸田首相は令和4年度補正予算案を夏の参院選前の今国会中に成立させることとしているが、この審議が行われる予算委員会では、円安による物価高が必ず議論の的となるだろう。金融政策は日銀の専権事項とはいえ、為替は政府の責任だから、政府・日銀をひっくるめて野党の攻撃の的となる可能性が否定できない。
そろそろ政府・日銀は金融政策の方向性を根本から変えなければならない時が来ているのではないだろうか。それは2013年以来続いた大胆な金融政策を主軸としたアベノミクスの真の意味での終焉を意味する。